人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、なぜ重要なの?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』より転載。
今回は「人工呼吸中の鎮痛・鎮静」に関するQ&Aです。

 

古賀雄二
川崎医療福祉大学保健看護学科准教授

 

人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、なぜ重要なの?

 

薬理学的・非薬理学的ケアにより患者の苦痛緩和と快適性を保持し、人工呼吸との同調性を高めるために重要です。

 

人工呼吸中の鎮痛・鎮静

鎮痛と鎮静の失敗は、患者に即時的な影響や、ICU退室後までも含めた影響を及ぼすことがある。

 

即時的影響としては、日本呼吸療法医学会の「人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン」にある「鎮静・鎮痛の目的(表1)」が達成できないことが挙げられる。

 

表1鎮静・鎮痛の目的

 

患者の快適性・安全の確保
  • 不安をやわらげる
  • 気管チューブ留置の不快感の減少
  • 動揺・興奮を抑え、安静を促進する
  • 睡眠の促進
  • 自己抜去の防止
  • 気管吸引の苦痛を緩和
  • 処置・治療の際の意識消失(麻酔)
  • 筋弛緩薬投与中の記憶消失
酸素消費量・基礎代謝量の減少
換気の改善と圧外傷の減少

日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21(1):44-61.

 

他の影響としては、直接的に不穏やせん妄のリスクファクターとなるだけでなく、その結果として人工呼吸器離脱や早期離床の妨げとなり、負のサイクルの一端を助長することが挙げられる。

 

人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、薬理学的ケアだけではなく、非薬理学的ケアを伴うことが重要である。「鎮静の前に考慮すること(表2)」を人工呼吸管理中一貫して行うことが必要である。

 

表2人工呼吸中の鎮静を行う前に考慮すること

 

a 患者とのコミュニケーションを確立する
非言語的コミュニケーション技術(筆談・読唇術・文字ボードなど)を用いて、患者の意思やニードを明らかにする
b 患者の置かれた状況の詳しい説明を行う
患者の理解度に合わせ、現状の説明や処置・ケアについて説明を行い、現状が理解できるように働きかける。「期間」「予定」など具体的に説明を行うことは、患者の目標やはげみになる。また、人工呼吸器装着による弊害(声が出ない、気管チューブ留置による違和感、器械による換気のイメージ)および鎮静薬の使用が可能であることなどを説明する
c 安静による苦痛を取り除くため、体位交換、除圧マット類などを用いることによって体位を調節する
d 気管チューブによる疼痛や術後疼痛など、疼痛はスケールによる評価を行い、積極的に取り除く
〈解説〉人工呼吸中の患者は、気管チューブそのものによる疼痛や人工呼吸器装着による不快感、気管吸引や体位変換にともなう苦痛、創部痛などさまざまな苦痛を感じている。それらの苦痛を軽減させる鎮痛を行うことは、患者のストレス反応を減少させ、咳嗽や深呼吸を容易にし、呼吸器合併症の予防にもつながる。適切な鎮痛が行われれば、鎮静を行う必要性も少なくなり、過度の薬物投与を避けることができる
e ベッド周辺の環境を整える
音・照明の調節、プライバシーへの配慮を行う。医療者の足音や話し声にも配慮を行う
医療スタッフとの人間関係(信頼関係)も重要な環境のひとつである
f 日常生活のリズムと睡眠の確保を行う
日時を伝え、光の調節や睡眠リズムを整える
g 患者家族の面会を延長し、家族とともにいる時間を多くする

日本呼吸療法医学会人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン.人工呼吸2007;24(2):146-167.より引用

 

ABCDE+αの視点で医原性リスクを低減することが重要である。

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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