2017/09/02 のクイズ

72歳の女性。就寝中に突然下腹部の痛みを自覚したため救急要請し、救命救急センターに搬送されました。搬送時、持続的な下腹部の痛みがあり、顔色は蒼白でした。末梢は温かく、バイタルサインは血圧80／45mmHg、心拍数122回／min、呼吸数30回／min、SpO₂96%（room air）、体温39.2℃、GCS：E3:V5:M4です。腹部の触診で、腹膜刺激症状があり、CT検査でfree air（遊離ガス）が認められました。この患者さんへの判断や対応として、適切でないのはどれでしょうか？

1. 緊急手術を考慮して手術室に連絡をする。
2. 抗菌薬投与の準備を行う。
3. 出血性ショックと考えられるため、輸血の準備を行う。
4. 循環動態を安定させるために、大量の輸液を開始する。

挑戦者4049人　正解率34%

1.　緊急手術を考慮して手術室に連絡をする。: 不正解
腹部所見で腹膜刺激症状があり、CT所見でfree airが認められているため、消化管穿孔を疑います。緊急手術が必要となる状態は、①臓器の破裂、穿孔による汎発性腹膜炎、②臓器の血行障害、③臓器炎症の重症例であり、消化管穿孔は①に該当するため、緊急手術の可能性が高いと判断することができます。
2.　抗菌薬投与の準備を行う。: 不正解
消化管穿孔は敗血症性ショックを伴うことが多く、この患者さんの場合でも、血圧が低下し、心拍数が早く、呼吸数が多いといった、敗血症性ショックの徴候が見られます。敗血症性ショックは、感染症により全身の炎症を起こしている、重篤な状態です。敗血症性ショックを伴う場合は、循環管理とともに、原因を取り除く治療が必要です。そのため、感染症への治療が重要であり、できるだけ早期に広域抗菌薬の投与を開始することが推奨されています^1）。
3.　出血性ショックと考えられるため、輸血の準備を行う。: 正解
Quick SOFA(qSOFA)スコアは、敗血症をスクリーニングするための指標としています。内容としては、呼吸回数22回/min以上、意識変容（GCS：15点以下）、収縮期血圧100mmHgの項目を各１点として、2点以上であれば敗血症を疑います。この患者さんは、qSOFAが3点であり敗血症を疑うことができます。また、消化管穿孔の疑いがあり、敗血症性ショックと考えられます。よって、この選択肢の判断や対応は適切ではありません。
4.　循環動態を安定させるために、大量の輸液を開始する。: 不正解
この患者さんは、qSOFAが3点であり敗血症を疑うことができます。さらに、CT所見から敗血症性ショックが疑われます。敗血症性ショックの治療は、末梢循環不全を改善するための補液が重要とされています。

引用参考文献など

1）日本版敗血症診療ガイドライン2016作成特別委員会．日本版敗血症診療ガイドライン2016．
2）日本救急医学会専門医認定委員会編．日本救急医学会監．ショック．救急診療指針改定第4版．へるす出版，2011，78-82．
3）高橋章子編．急性腹症．救急患者の観察・アセスメント・対応．メディカ出版，1998，149-152．
4）山川一馬ほか．敗血症ショック（Septic Shock）の病態と治療．救急医学．35（4），2011，422-8．