それ、毒キノコかも?!遭遇頻度が高い毒キノコBest3|キケンな動植物による患者の症状【13】

前回はキノコについて、見分け方の難しさ、都市伝説的な見分け方について説明しました。今回はキノコ毒とその症状を詳しく説明していきます。
ただし、分かっているだけでも約100種類の毒を持つキノコが生息しており、そのすべてのキノコ毒を説明はできないので、遭遇頻度が高いと考えられるキノコを中心に説明します。

 

守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授

毒キノコ

 

〈目次〉

 

どのキノコが原因か分かりにくいキノコ中毒

中毒の症状を呈する患者さんから話を聞き、「キノコ狩りをした」「キノコを食べた」などと聞ければ「キノコ中毒かな?」と疑うのは難しくないですが、臨床の現場で一番困るのは、キノコ中毒だけど何キノコ中毒なのか?という、毒キノコの特定です。

 

患者さんは、焼いたキノコや煮たキノコを持ってくることが多く、「これを食べたら…」なんて話をすることが多いのですが、焼いたり煮たりすると特定はさらに困難になります。したがって、結果的にキノコの種類が特定できないことも多くあります。

 

前回も説明しましたが、日本には100種類近い毒を持ったキノコがあります。ただし、間違えやすいキノコはやはり、ある程度決まっています。

 

キノコによる食中毒の原因をキノコ種類別にみると、半数近くはツキヨタケ、次いで10~20%がクサウラベニタケで、残り数%がテングタケ属となり、この3種類の毒キノコで全体の約7割を占めています。1)とりあえず、このベスト3と特殊なキノコに関して説明するので覚えておいてください。

 

頻度の高い毒キノコベスト3

No.1 ツキヨタケ(図1

図1ツキヨタケ

毒キノコ_ツキヨタケ

 

ツキヨタケは、キシメジ科ツキヨタケ属に属するキノコです。発光体を持つので夜間には淡く光るため、月夜茸(ツキヨタケ)と呼ばれています。

 

主にブナやイタヤカエデなどに群生し、傘は半円形で5~20cm程度です。初めは黄褐色で、成熟すると紫褐色~暗紫褐色をしており、北海道南部から鹿児島まで生息します。
シイタケ・ヒラタケ・ムキタケなどに似ているため(図2)、間違えて採取することが多く、国内では最も事故件数の多いキノコです。

 

図2ヒラタケ(左)とムキタケ(右)

毒キノコ_ヒラタケ_ムキタケ

 

主な毒素はイルジンで摂食後30分~数時間で下痢や嘔吐などの消化器症状が出現します。基本的には胃洗浄や活性炭の使用など対症療法が治療の中心となりますが、重症な場合には血液浄化などを考慮しなければいけないこともあります。

 

No.2 クサウラベニタケ(図3

図3クサウラベニタケ

毒キノコ_クサウラベニタケ

 

クサウラベニタケは、イッポンシメジ科イッポンシメジ属に属するキノコです。

 

広葉樹や針葉樹などの地面に孤生~群生しています。傘は円形で3〜10cmの黄土色~灰白色をしています。ウラベニホテイシメジ・ハルシメジ・ホンシメジなどに似ているため(図4)間違えられ採取されることが多く、国内ではツキヨタケに次いで事故件数の多いキノコです。

 

図4ウラベニホテイシメジ(左)とホンシメジ(右)

毒キノコ_ウラベニホテイシメジ_ホンシメジ

 

主な毒素は溶血性タンパク、コリン、ムスカリン、ムスカリジンなどで、摂食後10分~数時間で症状が現れます下痢や嘔吐などの消化器症状が中心となります。基本的には胃洗浄や活性炭の使用など対症療法が治療の中心となります。

 

No.3 テングタケ(図5

図5テングタケ

毒キノコ_テングタケ

 

テングタケは、テングタケ科テングタケ属のキノコです。広葉樹林の森内に多く生息し、傘は6~15cm程度の灰褐色で小さい白いイボが特徴的です。

 

主な毒素はイボテン酸、ムッシモール、ムスカリンなどで、摂食後10分~1時間程度で症状が現れます下痢や嘔吐などの消化器症状や痙攣や錯乱などの神経症状、縮瞳、発汗、めまいなども出現します。基本的には胃洗浄や活性炭の使用など対症療法が治療の中心となります。

 

注意が必要なキノコ

触っても食べても危険:カエンタケ(図6

図6カエンタケ

毒キノコ_テングタケ

 

カエンタケは傘を持たず、表面はオレンジ色から赤色、細長い円柱状または棒状で鶏冠様の形をしています。まるで土から炎が出ているように見えるため、カエンタケ(火炎茸)と呼ばれています。

 

通常はブナやコナラなどナラ類などの広葉樹林の地上に群生して生息していますが、住宅地の公園などでも生息が報告されています。
外観は気味が悪いため、食用と間違えることは少ないですが、摂食による死亡例もあります。ただし、このカエンタケで注意が必要なのは接触でも毒性を発揮することです。

 

毒性成分はトリコテセン類という毒性の高い物質で、食後30分で消化器症状が出現し、臓器不全に至ります。接触例でも同様の症状が出現しますが、経口摂取に比較するとやや軽度になります。ただ、公園などでは子どもがカエンタケを採って食べなくても、触った手を口に入れてしまえば経口摂取と同様になることもあるため、注意が必要です。

 

潜伏期間が長く急性脳症と鑑別が困難:スギヒラタケ(図7

図7スギヒラタケ

毒キノコ_スギヒラタケ

 

スギヒラタケは、傘が2~7cm前後で、ほとんど柄はなく白色で扇形、ふちは内側に巻いています。 晩夏から秋にかけてスギやマツなどの針葉樹の倒木などに群生します。

 

2004年までは食用とされてきましたが、腎不全の人がスギヒラタケを食べた後に急性脳症が発生したという報告以降、同様の報告が相次いだため、政府が注意喚起を行っています。
それまでは食用であったのに、突然毒性が報告された理由に関して不明ですが、潜伏期間が数日~1カ月と長いため、スギヒラタケの関与が分からなかったという説、突然変異で毒性を持つ個体が増加した説などが推測されています。

 

毒成分は不明ですが、シアン、エレオステアリン酸、異常アミノ酸類、レクチンなどが含有していることが知られています。
症状としては四肢の振戦や脱力、不随意運動などが発症し、痙攣・意識障害などが出現するため、脳炎や髄膜炎などの急性脳症と間違えられることも多くあります。 現時点では対症療法しかありませんが、ほかのキノコに比較して圧倒的に長い潜伏期間に注意が必要です。

 

毒キノコの鑑別

前述したように、多くの患者さんは「これを食べました」と調理したキノコを持ってくることが多いですが、焼いたり煮たりすると見た目では鑑別は難しくなります(図8)。

 

図8実際にきのこ中毒の患者さんが持ってきたキノコ(加熱調理後)

毒キノコ_スギヒラタケ

 

加熱調理により色や形が変わり、外観からの鑑別は困難であった。
結果的に、このキノコの種類は判明しなかった。

 

もちろん調理していないキノコでも採取してから時間が経過すると鑑別は難しいです。したがって、結果的にキノコの種類を断定できないことが多く、対症療法で症状は軽快して退院というケースが多いのが現状です。

 

ただ、完全に鑑別することは難しいですが、ある程度予想をつけることは可能です。誰だって知らないキノコは食べないと思います。普通は、「あっ、これ○○だ!」と思うので採取して食べるのです。加えて食べてから症状が出た時間と、出た症状を総合的に判断すると概ねキノコの種類が分かるはずです。表1を参考にしてください。

 

表1毒キノコと間違えられやすいキノコの種類、発症時間と症状

毒キノコの種類_間違えやすいキノコ

 

キノコ中毒の治療

毒キノコは種類が多いことと、毒素が解明されていないため特異的な薬や拮抗薬などはないのが現状です。毒キノコと判断すれば、輸液を行い症状に対しての対症療法を行うことしかできません

 

摂食して時間も経っていなければ洗浄や活性炭を考慮してもよいかもしれませんが、薬物などと違い、固形であるためなかなか排出するのは困難です。基本的には入院して経過を観察するのが安全です。

 

診断のポイント

何度も言うように、キノコの外観だけでは鑑別は難しいですが、外観に合わせて症状や摂取からの発症時間、また「何キノコだと思って食べたのか?」などを総合的に判断して診断していく必要があります。
そのため、患者さんや救急隊員には食べたキノコを持ってきてもらいましょう。また、持ち込まれたキノコは、すぐに写真に撮っておくことも大切です。

 


 


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