幾度も襲うフラッシュバック…暴力・セクハラに傷つく看護師たち

病室のイメージ写真

 

看護師が受ける暴力・セクハラの被害は、「看護師なんだから、それも仕事のうち」「病気だからしかたない」と、表面化されずに済まされてしまうことが少なくありません。

 

 

こんなことされるために国試を乗り越えたんじゃないのに

 

 

▼清拭のとき、患者さんが私のお尻や腰、胸に手を持ってくるため、振り払ったら「看護師のくせして、患者にそんな扱いしていいのか」と罵声を浴びせられ、顔を叩かれた

 

▼男性患者が、夜勤で巡回する複数の看護師に故意に自慰行為を見せ、「手伝ってくれ」と言う

 

▼「一緒に寝よう」と腕を思い切り引っ張られた

 

 

看護師の皆さんが体験した被害について募集したところ、こうしたケースが数多く寄せられました。

※プライバシー保護のため、内容は一部改変しています。

 

ほかにも、理不尽なクレームや謝罪の要求、暴言など、被害の内容は身体的、精神的、性的なものと多岐にわたります。

 

被害にあった看護師がその後、本来の看護ができなくなったというケースも少なくありません。

 

 

▼フラッシュバックを何度も起こし、病室に行けない

 

▼こんなことをされるために、つらい学生生活も国家試験も乗り越えて看護師になったわけではない。新人ですが、辞めたくて仕方ない。看護を提供する立場なのに、自分がどうにかなりそうです

 

▼看護師という職業を汚された、尊厳を傷つけられたと感じている看護師もいる。(管理職として)対応やメンタルフォローなど、どうしていけばいいか悩んでいます

 

 

寄せられた声からうかがえるのは、患者からの暴力やハラスメントに傷つき、悩んでいる看護師たちの姿です。

 

 

腕にくっきりと残った歯型

病院のベッドサイドで寝具を整える看護師のイメージ写真

納得できないモヤモヤした思いが西島さん(仮名)に募る(※写真はイメージ)

 

神奈川県内にある病院に勤務する西島ひろこさん(仮名・40代)が語ってくれた体験は半年前、夜勤で夕食の配膳をしていたときのこと。

 

「ごはん来ましたよー」

 

いつものように声をかけながら、西島さんは、軽度の認知症がある高齢の男性患者の背中に腕を回して身体を起こしました。ふと、脇に目をやった瞬間、片腕に走った強烈な痛み。

 

見ると、その男性患者が西島さんの腕に思い切り噛み付いていました。

 

「もう、ものすごい力でガブーッと。反射的に『痛い!』と声を上げたので、すぐほかのスタッフが駆け付けてくれて引き離してもらったんですが、腕にはくっきりした型と引き抜いたときの擦過傷が付いていました」

 

西島さんは同僚の勧めで当直の医師に診てもらい、インシデントレポートも書いて上司に報告しました。

 

「でも、『噛まれちゃったんだって? 大変だったね』とサラッと言われておしまい。医療安全部署の担当者もフォローの言葉はかけてくれましたが、具体的に対策を講じてくれたということはありませんでした」

 

「噛まれた翌朝が、ちょうどその患者さんの退院日。病院を出るタイミングで偶然、ご家族にお会いしたんですけど、包帯を巻いた私の腕を見て『あ、なんかごめんなさいね、おじいちゃんが噛んじゃったみたいで~』と。ああ、看護師の被害はこんなに軽く済まされちゃうのかって思いました」

 

看護職に就く以前、飲食店などの他業種で働いてきた経験のある西島さんは、こう話します。

 

「例えばファミリーレストランで同じようなことが起きれば、警察に被害届を出しますよ。でも病院内では、まずそうはならない。それはなぜなんだろうって、いつも思います。看護師だって人間。暴力を受ければ怪我もするし、それ以上に心が傷つくのに…」

 

こうした状況に理不尽さを感じる一方で、看護師として患者からの暴力をどうとらえるべきなのか、考えは揺れています。

 

「認知症の周辺症状として現れた暴力であれば、病気のせいだからしかたないというか…。食事をしたくなかったのに起こされたのが気に障ったとか、何か理由があったんでしょう。こちら側の対応一つで(暴力行為がなくなるなど)変わることも確かですし、次はこうしようとか、自分の対応に気を付ければいいんだとは思います」

 

納得できないモヤモヤにふたをするように、西島さんは「あんまり考えたらやっていけないよね」とこぼしました。

 

 

日常となっていった被害、感覚は麻痺した

患者から受ける暴力や暴言、セクハラについて話す精神科勤務の看護師・田川まりさん(仮名)の写真

「ほかの病院ではどうしているのか知りたい」と話す田川さん(仮名)

 

「わたしの感覚はもう麻痺していると思う」

 

東京都内の精神科で10年以上働く看護師・田川まりさん(仮名・40代)はそう切り出しました。

 

初めて患者からの暴力を受けたのは新人のころ。暴力をふるったのは、隔離室に入っていた統合失調症の男性患者でした。

 

「ドアを開けた瞬間、飛びかかってきて殴られました。それが拳だったのかどうかもわからないくらい突然で、身構える余裕もなかった」

 

幸い軽症でしたが、田川さんは目の下を切る怪我を負いました。このときのことを思うと、今も身体がザワッと震えると言います。

 

「『ブス』『デブ』みたいな暴言は日常茶飯事。精神科に来て間もないころ、男性患者の採血中に『旦那とは仲良くしてんの?』と、性的にからかわれながら胸を触られたときは、なんだか本当に悲しくなっちゃって。『なんで私、こんなことされてるんだろう』って、悲しくて悔しくてボロボロ、ボロボロ、涙が止まらないことがありました」

 

しかし、田川さんは今、こうしたことが日常的に起こる環境に慣れてしまっている自分にも気づいています。

 

採血で手がふさがっている看護師の胸や股間を常習的に指でつついてくる患者がいても、「採らせてくれるなら、まあいいや」とあまり気に留めない。看護師の容姿について侮辱的な言葉を投げつける患者のことも、「正直だよねー」「女扱いされてるだけいいんじゃない?」と看護師同士、”あるある”の笑い話にして流す――。

 

自分も含め、看護師個人の感覚の鈍りに加えて、田川さんは、「症状だから仕方ない、みんな我慢すべき」といった暗黙の空気や、被害を報告しても「あなたの対応はどうだったのか、何か悪かったのではないか」と責められるような雰囲気があると指摘します。

 

「こないだも暴力を受けてしまったので、いちおう申し送りで報告したんです。そうしたら、若い同僚ナースがとっさに、『田川さんの対応に何にも悪いところはなかったんです!』とかばってくれたんですね」

 

「必死になって言ってくれる彼女を見て、『暴力やセクハラの被害に遭ったら、自分たちが責められる』と若い世代に思わせてしまったんだな、と申し訳ない思いでした。暴力を受ける=看護師が悪い、という図式をつくってしまっていたんですよね」

 

「自分の感覚は麻痺している」と自嘲気味に言いながらも、田川さんは、「精神科だから患者からの暴力やセクハラは起きて当然、というのはやっぱり違うと思う」と訴えます。

 

「我慢しろ、対応が悪かったではなく、まずは一言、『大変だったね』と受け止めてほしい。暴力が起きないようにするにはどうする、起きてしまったらどうするといった研修を取り入れるとか、病院としてきちんと取り組んでもらいたい。やっぱり暴力やセクハラが起きれば、患者さんを押さえ込んだり、本来のケアができなくなったりするわけですから、患者さんのためにも必要なことだと思います」

 

 

自分を責めて周囲からも責められる

患者・家族からの暴力・セクハラに直面したとき、看護師は、ショックや怒り、悲しみに襲われる一方で、「わたしのアセスメントや技術が未熟だったから」と自分を責めがちです。

 

また、職場によっては、被害に遭った看護師の対応を責めるような指導をしたり、「そんなの、たいしたことではない」「自分の方がもっとひどいことをされてきた」と過小評価したりすることで、さらに被害者を傷つける二次被害も起きています。

 

次回は、看護師が暴力・セクハラ被害に遭ったとき、自分の感情にどう向き合うか、どんな対応をすればいいのかを考えます。

 

 

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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