診療報酬改定はナースにどう影響するか【1】2016診療報酬改定の全体像

2016年度 診療報酬改定の詳細が2月10日に決定しました。

「診療報酬ってなんか難しいし、病院の経営のことでしょ、カンケイないわ」と思いがちですが、実はコレ、看護の現場に直結しているんです。

 

本連載では、「4月1日の施行からどう変わる!?」というところを、背景を含めてわかりやすく解説していきます。


 

診療報酬改定はナースにどう影響するか【1】

「地域包括ケアシステム」と「医療機能の分化・強化」とは

 

連載第1回は、2016診療報酬改定の全体像として、改定文のいちばん最初に記されている「地域包括ケアシステム」「医療機能の分化・強化」とは何なのか、一緒にみていきましょう!

 

 

 

背景にある「2025年問題」とは日本の医療が崩壊しかねない危機!

今回の改定で、「地域包括ケアシステム」と「医療機能の分化・強化」が冒頭に示された背景には、「2025年問題」があります。

「2025年問題」とは、2025年に日本の医療が崩壊しかねない危機を迎えることを言います。

 

その危機には、3つの要素があります。

1)医療を必要とする高齢者が増えること

2)稼ぎ手(納税者)である就労世代の人口が減ること

3)看護師・医師の労働人口が減ること

 

日本の人口の推移を表にしてみると、人口減少と少子高齢化の様子がよくわかりますね。

 

2025年問題、日本の人口の推移、少子高齢化

出典:「なぜ今、改革が必要なの?」(厚生労働省)より作成

 

医療には、国のお金がかかります。

私たちが病院に行くとき、通常3割負担などで医療やケアを受けられますよね。

残りの7割は、国からお金が出ているということです。

 

これからの日本では、高齢者が増えて、医療に必要な国のお金は増大していくにもかかわらず、就労世代の人口は減少してきます。

また、医療を提供する労働人口も減少していきます。

 

国は、「800万人いる団塊の世代が75歳以上となる2025年が最初の危機」と提示していますが、2060年には65歳以上が40%、75歳以上が27%になります。

2025年のその後も、危機的状況は加速していくのです。

 

これらの危機を回避するための方策として、「地域包括ケアシステム」「医療機能の分化・強化」が診療報酬改定で冒頭に打ち出されたことになります。

 

「地域包括ケアシステム」の狙いは、不必要な通院・入院を減らすこと!

出典:地域包括ケアシステムのイメージ(日経メディカルオンライン)

 

地域包括ケアシステムは、どのように危機を回避しようとする試みなのでしょうか?

 

厚生労働省が提示している「5つの視点」を読み解くと、「不必要な通院・入院を減らすこと」が狙いであるとわかります。

項目を追ってみていきましょう。

 

 

1.医療との連携強化

この項目には、「介護職員によるたんの吸引などの医療行為の実施」が含まれています。増加する高齢者へのケアが行き届くようにすると同時に、看護師や医師の手を介在しないことで、医療費を削減する狙いがあります。

 

2.介護サービスの充実強化

この項目には、「特養などの介護拠点の緊急整備」が含まれています。

現状では、たとえ介護サービスで十分適切なケアを受けられる高齢者でも、介護施設が不足していることにより、急性期病院への通院や入院をせざるをえないといわれています。

 

その状況が続くと、看護師・医師不足の病院はさらに忙しくなり、国の医療費も増大します。

なにより患者さん自身が安心して適切な治療を受けられないなど、誰にとっても不幸せな状況になってしまいます。

 

そこで、「特養など介護拠点の緊急整備」により、この状況を回避しようとしています。

 

3.予防の推進

これは、「できるかぎり要介護状態とならないための予防の取り組み」という内容です。高齢者であっても医療や介護に依存しすぎず、自立して生活を送るための支援を推進しています。

 

4.見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など

自立支援の取り組みと併せて、在宅でも安心して生活できる仕組みが必要です。

非営利団体や、自治会、ボランティアなど多様なリソースを活用し、地域で安心して最期まで暮らせる仕組みをつくるという内容になっています。

 

5.高齢者になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備

有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅(高専賃)を、「サービス付高齢者住宅」として高齢者住まい法に位置づける、という内容になっています。

特養の整備と同様、医療者の負担を軽減し、医療費を抑え、高齢者が安心して暮らせる場所を確保するというのが狙いです。

 

「医療機能の分化・強化」の狙いは、重症度に応じた医療を、適切な場所で提供すること!

「医療機能の分化・強化」とは、ひとことで言えば「重症度に応じた医療を、適切な場所で提供すること」です。

 

この「医療機能の分化・強化」が重点的に打ち出されている背景には、「7対1病床」が多すぎるという状況があります。

 

◆「7対1」病床は、当初の狙いより約10倍も多くなった!

「7対1看護体制」は、急性期病棟の充実のために、2006年に開始されました。

 

国は、当初4万床程度になると見込んでいたのですが、手厚い診療報酬が設定されため、2014年には38万床にまで増える結果となりました。

 

【図】一般病棟入院基本料7対1の届出病床数の推移

(単位:千床)

出典: 財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等(PDF)(財務省)

 

◆「7対1」はお金がかかるから減らしたい、でも減らない…!

7対1に、「手厚い診療報酬が設定されている」ということは、「国の医療費をたくさん使う病床」と言えます。

 

そのため、前回(2014年)の診療報酬改定では、「7対1」を届け出るための要件が厳しく変更されました。

この厳格化により、「9万床減る」と予測されていましたが、2015年4月時点で、「約1万7千床の減少」に留まっています。

 

◆「7対1」は急性期を担う病床

7対1は、もともと急性期を担う病床として設定されたものです。

しかし、2025年を見据えると、急性期というよりは、慢性疾患へのケアや介護を必要とする高齢者が増えますよね。

その一方で、労働人口の減少により、7対1に費やすことができる国のお金は減ります。

 

そこで、前回に引き続き、今回も7対1を削減するため、届出要件は厳しく改定されています。

 

◆急性期と、「地域包括ケア」のハザマはどうなる?

急性期を担う「7対1」は減らす方針、「地域包括ケア」で介護施設を含めた地域・在宅ケアは充実させる方針だということがわかりました。

では、そのハザマの病床はどうなるのでしょうか?

 

国は、2025年までに、以下の区分で病床機能を分類し、それぞれを適切な数に増減する方針を示しています。

・高度急性期

・急性期

回復期

慢性期

 

この区分を明確にすることで、限られた医療者と医療費を適切に配分し、患者さんにとっては、「重症度に応じた医療を、適切な場所で受けられるようになる」というのが、「医療機能の分化・強化」の意味するところです。

 

おわりに

このように、今回の診療報酬改定では、「地域包括ケアシステム」と「医療機能の分化・強化」により、高齢者の増加、医療費財源の減少、医療者の減少の3つの危機を回避しようとする狙いがあります。

 

連載第2回以降では、具体的な改定点と、「ナースの現場にどのような影響があるのか」をチェックしていきましょう!

 

(参考)

平成28年2月10日 中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣に対して答申(厚生労働省)

地域包括ケアの理念と目指す姿について(厚生労働省)

財政制度等審議会「平成 26 年度予算の編成等に関する建議」の反映状況(PDF)(財務省)

医療・介護情報の活用による 改革の推進に関する専門調査会 第1次報告(PDF)(首相官邸)

平成26年度診療報酬改定について(厚生労働省)

 

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