闘病中の子どもたちに笑顔を。「病院の道化師」ホスピタル・クラウン

病院を訪ねて、子どもをはじめ、闘病中の人たちを元気づける活動を行う
「ホスピタル・クラウン」をご存知ですか?
ロビン・ウィリアムズ主演で映画化もされた「パッチ・アダムス」は、その先駆者の一人です。

 

日本ではまだなじみが薄い存在ですが、10年前から全国の病院で活動を続けているクラウンがいます。自ら病院をまわる傍ら、活動の普及や育成にも力を注いでいる大棟耕介さんにお話を伺いました。

 

特定非営利活動法人 日本ホスピタル・クラウン協会 理事長/有限会社プレジャー企画代表取締役会長 大棟耕介さん
特定非営利活動法人 日本ホスピタル・クラウン協会 理事長/有限会社プレジャー企画代表取締役会長 大棟耕介さん

 

ホスピタル・クラウンインタビュー【前編】

 

看護師さんにイタズラするのも仕事のうち?

病室をまわるとき、クラウンは基本的に2人1組となって活動を行います。カラフルな服を着て赤いをつけ、ラッパを鳴らしたり、マジックを披露したり、バルーンでいろいろなものをつくったり。ときには、子どもたちと一緒になって看護師さんにちょっとしたイタズラをすることもあります。

 

「病室に入るときに心がけているのは、ニュートラルでいること。そして、脇役に徹することです。僕たちが病室を訪れたのではなく、子どもたちが僕らを招待してくれたのだと。主役である彼らがイニシアチブをとっているように思わせるのもテクニックの1つです」

 

実はこの活動を始めた頃は、もっと気負って力が入っていたそうです。

 

「でも、適度に力が抜けているほうが長く続けられるんですね。これはきっと看護師さんの仕事も同じじゃないかなと思います。だから“ぼちぼち、コツコツ、たんたんと”をモットーにしています。“楽しませすぎない”というのも心がけていることで、完結させずに余韻を持たせることが大事です。これは続けて病院に行くからこそ気づけたことですね。それに病院に通うのは決して楽しいことばかりではありません。顔なじみの子どもが亡くなってしまうこともあります。それでも翌日は違う病院でパフォーマンスをしなければいけないのですから」

 

「今日来る日だったっけ?」忘れられるくらいがうれしい

また、子どもたち全員が大喜びしてくれることを目指しているのかと思っていましたが、決してそうではないようです。

 

「以前、ある病院に行ったとき、いつもだったら病室から飛び出してくる子が出てこなかったんです。病室をのぞいたら、顔だけ上げて僕を見てすぐにゲームに戻ってしまった。そして『Kちゃん(大棟さんの愛称)、風船だけ作ってここに置いておいて』と。彼は新しいゲームソフトを買ってもらったばかりだったらしいのですが、これって子どもとしてすごく素直な反応ですよね。

 

こういうとき、お母さんたちは“せっかくクラウンさんが来てくれるのに”とゲームをやめさせようとするんですが、そんな必要はないんです。彼にとってクラウンという存在が特別なものでなくなっていて、安心して受け入れてくれているからこその反応だと思うからです。これは看護師さんたちも同じで、初めの頃は“今日はクラウンさんが来るよ!”と盛り上げていたのに、最近は“あら?今日来る日だったっけ?”と。でも、すごくうれしい反応です」

 

子どもたちとの距離感を観察、研究、練習

もちろん、初めて間近で見るクラウンの姿にびっくりしてしまう子どももいます。

 

「だから何よりもアプローチを大切にしています。クラウンの養成でも、どういうスピード、テンポ、角度、表情で近づけばいいかを研究し、練習します。ストレスを感じそうな場面であれば、それ以上は絶対に近づきません。例えば僕たちはバルーンで動物や花を作って子どもたちに渡しますが、実は手を動かしている間に集中して表情を観察しているんです。

 

病院に限らず、サーカスでも幼稚園でも子どもに合わせるのはクラウンとしての基本です。病院といってもおとなしい子もいれば、骨折などで入院して元気を持て余している子もいるし、性格もいろいろですから、子ども一人ひとりに合わせて対応を変えています」

 

そして、クラウンは、病院とは違う立場である、たまに来る存在であることが重要だと大棟さんは考えています。

 

「窓を開けたとき、新しい空気が入る気持ちよさってありますよね。病院側でも子どもの家族側でもない第三者だからこそできることがあると思っています。常に医療従事者や家族とは違う立場で、子どもに寄り添い、常に同じ方向を見ることを大切にしています」

 

子どもに寄り添い、常に同じ方向を見ることを大切に

 

クラウンが病院に来るのは迷惑? 病院・看護師の理解

現在、大棟さん率いるホスピタル・クラウン協会では、北海道から沖縄まで全国63の病院を月に2回、定期訪問しています。患者数20人程度の病棟であれば、午後2時から4時頃まで2時間かけてまわれますが、病床数が多い場合は6人で分担することもあるそうです。

 

「子どもはもちろん、ご家族も僕らが行くのをすごく楽しみにしてくださっています。入院してから1週間、1回も笑わなかった幼稚園生が“初めて笑った”と、号泣されたお母さんもいました。まさに奇跡というようなシーンをたくさん見てきましたし、母子ともに救われたという方もたくさんいらっしゃいます。手紙もいっぱいいただきますね」

 

約10年、ホスピタル・クラウンの活動の普及に力を入れてきたおかげで、最近は病院から声がかかることも増えたそうです。

 

「看護師さんが窓口になってくださることがほとんどですが、最初の頃は決して病院側も看護師さんたちもウェルカムではありませんでした。それは当然の反応だと思うんです。

 

そもそも我々を受け入れることで仕事が増えてしまうわけですし、病院に外部から人を入れる不安要素を極力取り除きたいと思うのは当然です。病室でパフォーマンスをすることで医療器具を引っかけてしまう心配だってあります。

 

それに僕たちは子どもたちにとって楽しいことだけをしますが、看護師さんたちはどちらかというと嫌な役目も引き受けなければいけない。子どもたちから見て、その差がはっきり出てしまうのではないかという懸念もあったようです」

 

クラウンが病室に入ると、患者と看護師の距離も縮まる

理解が広がってきた一番の理由は、クラウンが訪問することで病室の空気が変わると気づいてもらえたことでした。つらい治療を受けた子どもにとってはご褒美のような存在になることもあり、「医療行為をする上でもプラスになっている」という声も増えました。

 

「僕たちは看護師さんたちも巻き込んでパフォーマンスをするので、子どもたちだけでなく、看護師さんたちも笑顔になります。それにクラウンが病室に入ることで、看護師さんと患者の距離がぐっと近くなるんです

 

例えば僕はよく病室でイタズラをするんですね。すると、看護師さんと子どもが一緒になって僕を叱る。そうやって連帯感が生まれることが、治療を乗り越えていく上でも役立つと気づいてもらえたのだと思います」

 

子どもたちだけでなく、看護師さんたちも笑顔に

 

特注の病院用衣装、予防接種、消毒・洗浄・・・徹底した事前対応

病院で活動をする際は看護師さんと事前打合せを行います。入っていい病室と、いけない病室、入る順番のほか、子どもたちの体調を確認。「手術前なので励ましてほしい」「外に出られないので、バルーンを持って行ってほしい」など、一人ひとりに対する要望も多いそうです。

 

また、衛生面に配慮して、着替えは病室に入る前に行い、使用後は毎回、消毒・洗浄を行います。通常サーカスで使う洋服や靴は大きくゆったりとつくられているため、医療器具に引っかからないようなシャープな形のものを病院用に特注しているそうです。また、水痘、おたふく風邪、風疹麻疹インフルエンザの予防接種も受けています。

 

「ホスピタル・クラウン協会では協会認定クラウンを養成していますが、パントマイム、マジック、ジャグリング、アクロバット、バルーンなどの技術以外に、衛生面についても学ぶんです。さらに、病院を訪問する際はクラウンの個人情報も明らかにします。

 

これによって安心していただくことも増えましたし、実際は看護師の手間が増えるわけではないと分かっていただけるようになりました。実際、事前打合せ以外は看護師さんが立ち会わないという病院も多いんです」

 

実は大棟さんは、クラウンになる前に看護学校の体育教員をやっていたことがあるそうです。

 

「学生時代の勉強の大変さを知っていますし、自分もケガで何度も入院しているので、看護師さんを尊敬しています。看護師さんのほうが患者さんにとって欠かせない仕事をしているわけですから、自分たちの活動がその邪魔になるようなことは絶対にしたくないという思いも強いですね」


後編では、大棟さんがホスピタル・クラウンの活動を始めた経緯や、被災地での活動についてお話を伺います。

 

【続きはこちら】ホスピタル・クラウンインタビュー(後編)

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