今年のインフルエンザの特徴は?変化する流行パターンと感染対策のポイント
感染症対策

インフルエンザといえば、かつては1月下旬から2月ごろにかけてピークを迎える真冬の感染症でしたが、ここ数年の流行パターンは変則的です。
昨季は年末に爆発的に増え、今季は11月から大流行を起こしました。看護師のみなさんも、仕事や私生活に影響が出た人が多いのではないでしょうか。
今回は今季のインフルエンザの特徴と、基本的な対策について解説します。
2025年の大流行の理由―変異するA型インフルエンザ

インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型、D型があります。このうち、ヒトの間で毎年流行する季節性インフルエンザを引き起こすのはA型とB型です。
A型はH◯N◯(◯には数字が入ります)で表される複数の亜型に分かれますが、近年流行しているのはA/H1N1とA/H3N2です。A型はさらにクレード(系統群)、そして、サブクレードと細かく分類されます。
B型は、ビクトリア系統と山形系統の2系統が知られていますが、2020年3月以降はビクトリア系統のみが流行しています。
A型インフルエンザウイルスは、同じ亜型であっても毎年、突然変異によってマイナーモデルチェンジを行います。そのため、以前に獲得した抗体では感染を防ぎきれません。
こうした変異を連続抗原変異(抗原ドリフト)といいます。
2025年夏以降に国内外で流行しているA/H3N2(サブクレードK)は、抗原ドリフトによって誕生した変異株です。
サブクレードKは、過去に流行したウイルスに比べて広がりやすい性質があり、これが今季の大流行の背景にあるようですが、幸い、症状や重症化のリスクはこれまでと大きく変わらないとのことです。
また、A型は数年から数十年ごとにフルモデルチェンジを行い、全く新しい亜型となって登場します。これを不連続抗原変異(抗原シフト)といいます。
抗原シフトで誕生したインフルエンザウイルスによる感染症が新型インフルエンザです。
最後に新型インフルエンザが発生したのは2009年ですから、そう遠くないうちに再び出現し、世界的流行を引き起こすことが懸念されています。
インフルエンザの感染経路と症状は?

インフルエンザウイルスは、会話や咳・くしゃみの際に鼻や口から放出される微粒子を介して広がります。微粒子が顔にかかったり、吸い込まれたりすると、ウイルスが粘膜の細胞に侵入し、1日で1個から100万個へと猛スピードで増殖します。
感染してから症状が現れるまでの日数、すなわち潜伏期間は平均2日間で、人にうつすことができる期間は、症状出現の前日から発症後1週間程度です。
典型的な症状は、悪寒、頭痛、発熱、咽頭痛、関節痛・筋肉痛、鼻汁・鼻閉で、普段元気な人なら4~5日で軽快します。
ただ、罹ったことがある方はわかると思いますが、喉は痛いし、熱も高いし、だるいし、そのあとしばらくは咳が残ったりして、若い人にとってもつらい感染症です。
主な合併症として肺炎・気管支炎、脳炎・脳症があります。
インフルエンザによる死亡者数は、直接の死因ではない場合を含めて年間約1万人です。大部分は高齢者ですが、インフルエンザ脳症による小児の死亡例もあります。
特に今季のように流行規模が大きいと合併症は増えやすく、感染症発生動向調査週報を見ると、11月中旬以降はインフルエンザによる小児の急性脳炎が増加し、死亡例も出ています。
予防接種はなぜ大切?ワクチンの種類と効果

インフルエンザワクチンを接種する目的は、①発症予防、②重症化予防、③周囲の脆弱な人々を守るという3つです。「接種してたのに罹っちゃった」という声を聴くこともありますが、ワクチンに発症予防効果がないということではありません。
また、重症化予防については、今季使用されているワクチンがA/H3N2(サブクレードK)による救急外来受診や入院を防ぐ効果は、2~17歳では70~75%、成人で30~40%というイギリスからの報告があります。
調査が行われたのは接種後間もない時期なので、今後、予防効果が減衰する可能性もありますが、概ね例年の流行期終盤の値に近い数値だということです。
インフルエンザワクチンは接種後、抗体が産生されるまで約2週間かかり、効果は5〜6か月間持続します。
流行開始前までに接種することが推奨されていますが、今季のように流行が早まった場合に接種が遅れても、流行期はしばらく続くため、接種する意義があります。
インフルエンザワクチンには、不活化ワクチンであるインフルエンザHAワクチン(以下、不活化ワクチン)と経鼻弱毒生インフルエンザワクチン (以下、生ワクチン)の2種類があります。
不活化ワクチンは、病原体そのものではなく、免疫を誘導する成分(抗原)を用いて免疫反応を起こすワクチンで、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に使われています。
副反応は接種部位の発赤や熱感、微熱など通常は軽微です。海外では高齢者向け高容量インフルエンザワクチンが使用されています。
従来のものに比べて、約4倍の抗原量を含み、免疫反応が弱い高齢者でも抗体が産生されやすいため、発症予防、入院・重症化予防の効果が高いという特徴があります。
副反応は従来のワクチンと変わりません。日本でも薬事承認されていますが、実際に使用されるのは次シーズン以降になる見込みです。
生ワクチンは、ウイルスの病原性を弱めて作られたワクチンです。接種後に体内でウイルスが増殖し、免疫反応を起こすことで防御能を獲得します。
インフルエンザの生ワクチンは針を使わず、鼻から投与します。国内での接種対象は今のところ健康な2~19歳未満です。
発症予防効果は不活化ワクチンと同程度で、副反応としては鼻汁・鼻閉や軽い咳が報告されていますが、自然に軽快します。
咳エチケットとユニバーサル・マスキング
インフルエンザの感染経路を考えると、感染性微粒子を放出させないこと、そして、浴びない・吸い込まないことが感染予防につながります。
具体的には、咳やくしゃみをするときには口元を覆う咳エチケットを励行すること、また、流行期に混雑した場所や重症化リスクが高い人がいる場所では不織布マスクを着用するユニバーサル・マスキングを行うことも勧められます。
病院内での集団感染を防ぐためには?感染者の早期発見と曝露後予防

病院では、患者や職員に疑わしい症状がないか確認し、疑わしければ検査を行い、早期に隔離や就業停止を行うことは集団感染を防ぐことにつながります。
検査結果が偽陰性となる場合もありますが、流行が拡大している時期や感染者との明らかな接触歴がある人に疑わしい症状がみられれば、陽性とみなして対応する方が安全です。
また、重症化リスクの高い患者がインフルエンザの患者と接触したことが判明した場合は、なるべく早く抗インフルエンザ薬の予防投与を行うことを医師と相談するとよいでしょう。
職員から患者への感染を防ぐことも重要です。インフルエンザ様症状がある職員は就業を停止します。
具合が悪いときに申告しやすく、休みやすい体制や雰囲気を作ることは安全管理の一環として大切です。
感染者の隔離方法と期間は?
外来では、インフルエンザが疑われる患者には可能な限りサージカルマスクを着用してもらい、他の患者とは離れた場所に案内します。入院する場合は個室に収容します。
インフルエンザの診断が確定した患者だけを多床室に集めるコホーティングという隔離の方法もあります。
インフルエンザの患者をそれ以外の患者と同室にしてよいかどうかは慎重に判断します。ベッドの間隔を空けて、カーテンなどで仕切れば飛沫を浴びることは防げますが、咳や吸引の際に生じる感染性微粒子の吸入を防ぐのは難しい場合もあります。
病室に入る職員はサージカルマスクを着用し、退室時に取り外します。ユニバーサル・マスキングを実施している場合は、退室後に新しいマスクを着用します。
患者の隔離期間や職員の就業停止期間については、学校保健安全法が定める「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」を採用する病院が多いようです。
米国疾病対策センターは「発症後7日間、または発熱および呼吸器症状が消失してから24時間が経過するまでのいずれか長い期間」としています。
ほとんどの患者はこれらの基準に沿って隔離を解除しますが、免疫不全患者や乳幼児ではウイルスの排出が長期化しやすいため、隔離解除のタイミングは個別に判断します。
ポイントは対策の組み合わせと柔軟な対応
インフルエンザの流行パターンは近年変則的ですが、ワクチン接種、マスク着用、疑わしい症状のある患者への早期対応といった基本的な対策の組み合わせが集団感染の防止につながります。
市中で流行が拡大すれば医療機関内での感染リスクも高まるため、地域の感染状況に合わせて柔軟に対応していくことが求められます。
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参考文献
- 国立健康危機管理研究機構「感染症発生動向調査週報」
- 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方~医療機関の皆様へ~ 2024年9月2日
- ECDC. Assessing the risk of influenza for the EU/EEA in the context of increasing circulation of A(H3N2) subclade K 20 November 2025
- Kirsebom FC, et al. Early influenza virus characterisation and vaccine effectiveness in England in autumn 2025, a period dominated by influenza A(H3N2) subclade K. Euro Surveill. 2025;30(46):pii=2500854
- CDC. The Pink Book. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases. Influenza
- CDC. Infection Prevention and Control Strategies for Seasonal Influenza in Healthcare Settings
- 文部科学省.学校保健安全法施行規則.平成21年文部科学省令第34号.第19条
板橋中央総合病院 院長補佐/感染対策相談支援事務所 所長坂本 史衣
聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)卒業. 米国コロンビア大学公衆衛生大学院修了. 2003年より感染制御および疫学資格認定機構(CBIC)による認定資格(CIC)の認定資格を維持. 聖路加国際病院において医療関連感染予防・制御に約20年従事し、2023年11月より現職. 日本環境感染学会理事、厚生科学審議会感染症部会委員などを歴任. 主書に「感染対策60のQ&A」「感染対策40の鉄則」(いずれも医学書院)、「泣く子も黙る感染対策」(中外医学社)、「感染予防のためのサーベイランスQ&A」(日本看護協会出版会)、「基礎から学ぶ医療関連感染対策」(南江堂)など.(プロフィルイラスト:なんちゃってなーす)
編集:北井寛人(看護roo!編集部)
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