「生理を休む」という新しい選択肢

稲葉可奈子稲葉可奈子🐾産婦人科医『シン・働き方』

産婦人科専門医

生理を休むのイメージ画像

「生理を休む」と聞いて、イメージできるでしょうか?

 

生理で仕事や学校を休むのではなく、生理「を」休むのです。

 

どういう意味か、ピンとこない方も多いかもしれません。

 

生理って休めるんです

 

文字通り、毎月くる生理をお休みする、生理にならずに過ごす、という意味です。

 

しかも保険診療で「生理を休む」ことができるのです。

 

どうやって「生理を休む」のでしょうか?

 

生理がしんどいのは「しょうがないこと」ではない

生理がしんどいのイメージ画像

生理痛やPMSなどは月経に伴う症状である「月経関連症状」で、医療的には月経困難症と呼ばれます。

 

症状は腹痛・腰痛・頭痛・イライラ・抑うつ・肌荒れなど多岐にわたります。

 

症状がある人もいれば、ない人もいて、症状があっても気にならない程度に軽い人もいれば、仕事もままならないほど重い人もいて、同じ女性でも症状の有無や程度は千差万別

 

月経困難症の程度が重いと、学校や仕事、日常生活にも影響があり、月経関連症状による経済損失は年間5,700億円と試算されています。

 

ここで大事なポイントは、その症状の程度の違いは本人の努力やセルフケアでコントロールできるものではないということ。

 

普段の生活習慣がよいから生理が軽いとか、生理が重い人はセルフケアがなってないというわけではありません。

 

もうひとつ大事なのは、「生理がしんどいのはしょうがない」ではないということ。

 

生理の症状は他人と比べることがないので、

 

「みんなこれくらいしんどいのかな」

 

「生理って痛いものだしな…」

 

と、しんどいけど我慢してしまっている方は多くおられます。

 

生理はコントロールできる

生理はコントロールできるのイメージ画像

「毎月の生理がつらい…。痛くて立てないこともある」

 

「経血の漏れで白衣が汚れたんじゃないかと気になり、患者さんのケアに集中できないことがある」

 

「ナースコールや緊急入院などの対応で忙しくて、トイレに行く暇が無い…」

 

「イライラや気分の落ち込み...。PMSに振り回されて、患者さんに寄り添う余裕がない」

 

看護師として働くみなさまも、このような経験がある方は少なくないのではないでしょうか

 

でも、生理は我慢するしかない、というわけではありません

 

痛みも生理の量も、そして生理の頻度もコントロールすることができます。それは医学的にも社会生活上も重要な選択肢のひとつです。

 

生活習慣を変えることで改善できるわけではありませんが、適切な治療により症状を軽減することができます。そしてその方法にも複数の選択肢があります。

 

以下にご紹介する方法はすべて、月経困難症に対して保険適用となります。

 

1低用量ピル

  • エストロゲンとプロゲスチンを低用量含んだ薬です。
  • ホルモン分泌の乱高下をなだらかにすることで、排卵を抑え、子宮内膜が厚くなるのを防ぎ、痛みや出血量を減らします。
  • 4週間ごとに軽い生理がくる「周期投与」のタイプと、生理の頻度を減らせる「連続投与」できるタイプがあります。連続投与の場合、頻度を減らせるだけでなく、薬の種類によっては生理のタイミングを自分でコントロールすることもできます。
  • 周期投与のタイプはジェネリックがでており、1カ月の薬代(保険診療の3割自己負担)は500円未満のものもあります。
  • エストロゲンを含むため、頻度は低いですが、飲んでない方に比べると血栓症のリスクがあがるとされており、ヘビースモーカーや肥満の方、血栓リスクのある方は使えません。

 

2黄体ホルモン製剤(プロゲスチン製剤、ジエノゲスト)

  • エストロゲンを含まないため、血栓リスクを上げません。そのため、低用量ピルが使えない方にも使うことができます(俗に「ミニピル」と呼ばれることもあります)。
  • ホルモン分泌の乱高下をなだらかにすることで、子宮内膜が厚くなるのを防ぎ、痛みや出血量を減らします。
  • 継続して内服するタイプで休薬期間をとる必要がありません。軽い生理(消退出血)が毎月くる方、不正出血程度の方、全く出血がない方と、いろんなケースがあります。
  • 飲む回数が低用量ピルは1日1回であるのに対して、保険適用のプロゲスチン製剤は1日2回(12時間ごと)です。これがネックと感じる方もいますが、内服時間になるとLINEで通知してくれる便利なサービスがあり、これのおかげで内服継続できています!というお声が多いです
  • 避妊薬(保険適用外)として処方される黄体ホルモン製剤は服用回数が1日1回です。

 

3子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ)

  • 子宮の中に小さな器具を入れることで、少量の黄体ホルモンが持続的に放出されます。
  • 子宮内膜が非常に薄く保たれるため、痛みや経血量が軽減します。
  • 軽い生理が毎月くる方、不正出血程度の方、全く出血がつかない方と、いろんなケースがあります。
  • 子宮内への挿入は、手術ではなく、外来の処置で入れることができます。ほとんど痛みなく挿入できるケースと、痛みが強めのケースと、個人差が大きいです。
  • 挿入後は、全く違和感なく過ごすことができます。性交渉にも影響しません。
  • 一度挿入すると最長5年間効果が続くので、毎月薬を買い続けるよりも経済的です。
  • 基本的には子宮に局所的に効くため、内膜症でチョコレートのう腫がある場合などは適しません。

 

どの方法を選択するかは、ライフステージやライフスタイル、ご本人のご希望にあわせて個々に相談します。ただ、この方法がよいと思ってためしても、薬には「合う、合わない」があります

 

実際に服用してみて嘔気、頭痛などなにか困る症状があれば、無理に継続せずほかの「生理を休む」方法を試します。

生理は毎月こなくても大丈夫?

ところで、生理は毎月こなくても大丈夫なのでしょうか?

 

これはよく聞かれる質問なのですが、結論から言うと、大丈夫なのです。

 

生理は、妊娠のために排卵と子宮内膜の準備の結果起こるものですが、妊娠希望がない時期は、そもそも排卵する必要がありませんし、毎月出血することが体に必要なわけではありません

 

自然体で「生理がこない…」というのは放っておいてはいけませんが、薬でコントロールしている分には、毎月生理がくる必要はないのです。

 

生理の痛みも、量も、頻度も、タイミングも、「コントロールできる(しかも保険診療で!)時代」になっています

 

受診のハードルが高いと感じたら、まずはAIに相談!

生理の相談をAIにするイメージ画像

そう言われても、なかなか受診できないという方は多いですよね。

 

特に看護師さんは、せっかく病院にいるのに受診できない…(医者もですが…)

 

産婦人科医的には「せっかく病院で働いているのやから、休憩時間にでも相談に来てくれたらよいのに…」と思うのですが、病院勤務の看護師さんが産婦人科に相談に来るのは、本当に生理痛がひどくて勤務中に動けなくなってしまうほどの時に、「緊急で」というケース。

 

もっと気軽に相談していただいてよいのですが、まだまだ生理で休んだり受診したりすることに抵抗がある人が多いのが現状でしょう

 

そのハードルを下げるために以前から啓発や発信を続けているのですが、そんな私の想いに共感してくださった知人のエンジニアさんが、多くの女性に届けるために保健室 for me 〜 働くわたしの保健室 〜』というLINEサービスを開発して下さいました。

 

  • 今日働ける状態かどうかが分かる「働ける度チェック」
  • 受診すべきかどうか迷ったときなどに相談できる「AI相談チャット」
  • 婦人科受診にあたってのよくある疑問に答える「婦人科受診ガイド」

 

など、便利な機能があります。

 

いきなり受診はちょっと緊張してしまう…(1ミリも緊張しなくてよいのですが!)という方は、ぜひ一度AI保健室で相談してみてください

 

自分のライフスタイルや希望に合わせて生理のあり方を選ぶ、生理を休む―

 

それが可能な時代です。気になる方は、ぜひ産婦人科でご相談ください。

 

 

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執筆

Inaba Clinic 院長稲葉可奈子

産婦人科専門医・医学博士。京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、双子含む四児の母。産婦人科診療の傍ら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報を発信している。

 

 

編集:北井寛人(看護roo!編集部)

 

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