「死に目に会えなかった家族」を看護師がどう支えるか
「最期に間に合わなかった…」
その言葉を聞く瞬間、私たちの胸の奥がぎゅっと痛む。
そんな経験をした看護師は、決して少なくないでしょう。
亡くなった患者さんのご家族は、自責と悲しみの入り混じった表情で涙をこぼします。
その姿を見ると、看護師自身もまた、心の底でこうつぶやいてしまうのです。
「もっと早く知らせていればよかっただろうか」
「私の判断で、ご家族の後悔を増やしてしまったのではないか」
看護師は、ただご家族を支えるだけの存在ではありません。
ご家族の後悔を受け止め、同時に自分自身の痛みとも向き合う存在です。
しかし、その苦しみの多くは、“看取りにまつわる誤解”から生まれています。
看護師が向き合う“二重の痛み”
「親不孝だったのかもしれません」
「ちゃんと見送れなかったんです」
「そばにいたかったのに」
看護師のみなさんは、こうした言葉を何度も聞いてきたでしょう。
その涙を前にすると、相手の苦しみに寄り添うという看護師としての使命と、それでも救いきれない現実との板挟みになります。
ご家族に寄り添えば寄り添うほど、その痛みが自分の胸にも沁み込んでいく。
看護師という存在が持つ、深い共感性ゆえの痛みです。
同時に、看護師は自分自身にも矢印を向けます。
「呼吸の変化に気づくのが早ければ」
「もっと早く連絡していれば」
「早く来たほうがいいと背中を押していれば」
あのときの自分の判断が、ご家族の後悔につながったのではないかという思いが、心の中で静かに積もっていく。
しかし、ここにこそ、本記事の核心があります。
看護師の苦悩の多くは、事実ではなく「誤解」によって生まれている。
だからこそ、看護師自身がまず救われる必要があります。
救われた先にこそ、家族を救う言葉が生まれるのです。
なぜ家族は「死に目」にこだわるのか

患者さんの家族の多くは、
「最期の瞬間に会えなかったら、親不孝」
「大切な人を寂しく逝かせてしまった」
と考えてしまいます。
しかしこの思いの奥には、日本の文化的背景と、大切な人を失う不安を埋めようとする心の揺らぎが潜んでいます。
かつて、多くの人は家で亡くなりました。
同じ屋根の下で暮らし、変化は家族の目の前で起き、看取りは生活の延長にありました。
だからこそ、
「死に目に会えなかった」=「その場にいなかった」
という事実がそのまま“親不孝”や“恥”に結びついたのです。
しかし今は違います。
病院死が約7割、施設での看取りも増え、家族全員がずっとそばにいることは難しくなりました。
自宅でも家族が24時間見守れるわけではありません。
場所がどこであっても、最期の瞬間だけを完璧に捉えることはほぼ不可能です。
にもかかわらず、昔の価値観だけが残り、現代の家族を苦しめているのです。
家族の涙、怒り、自責。
その根っこにあるのは、ただひとつ。
好きだった。
大切だった。
最期にありがとうと言いたかった―。
「愛情」の大きさほど後悔は大きくなります。
なぜ患者は「席を外したとき」に旅立つのか
病院でも、自宅でも、施設でも、家族がいない一瞬に患者さんが旅立つケースは、驚くほど多いと感じています。
それは偶然や誰かの失敗ではありません。
むしろ「自然なこと」なのです。
大切な人がそばにいると、患者さんは無意識に気を張ります。
「大丈夫なところを見せたい」
「心配かけたくない」
「泣かせたくない」
この最後の力が、人を静かに支えているのです。
自宅でもよく見られます。
長く介護してきた家族を気遣って、
「今日はもう寝なさい」
「大丈夫だから」
と看病する家族を布団に送り出した後に、静かに旅立つケース。
病院や施設でも同じです。
子どもや孫に迷惑をかけたくないと願い、家族が帰った直後に旅立つ。
これは誰かを思う心の表れではないでしょうか。
ご家族を「自責」から救う言葉を

「最期の瞬間に立ち会えなかった」
このことは、どんな家族にも深い衝撃を与えます。
そのとき、看護師がどんな言葉を選ぶかで、家族が自責に沈むか、救われるかが決まるのです。
まず、ご家族がどれほど取り乱していても、看護師が最初に伝える言葉には、揺るぎない一言が必要です。
「とても穏やかに旅立たれました」
この一文が持つ力は想像以上です。
ご家族は「苦しんだのでは?」「寂しかったのでは?」という不安を抱えています。
まずはその不安を取り除く。
苦しみのない旅立ちだったという事実は、後悔を上回る安心を届けます。
そして、ご家族が責めているのは、看護師ではなく、自分自身です。
その自責の念をそっと緩める言葉を投げかけてほしいのです。
たとえば
「旅立ちのタイミングは、誰にも選べません」
「安心していたからこそ、力を抜けたのだと思います」
「ずっとご家族に支えてこられたからこそ、安心して旅立たれたのでしょう」
看取りとは、その最期の瞬間だけのことだけではありません。
それまでの関わり、全てが看取りです。
看護師は、ご家族が自分を責める物語を、愛情を感じられる物語に書き換える案内人になるべきです。
「昨日の会話、娘さんがハンドクリームを優しく塗ってあげていた時間、すべてがお母さまにとっての看取りでしたね」
看護師が言葉を添えることで、
家族が過去の出来事をどう理解するか変えることができるのです。
立ち会いたい家族の願いを叶えるために
看護師にはもう一つ役割があります。
「どうしても最期の瞬間に立ち会いたい」というご家族の願いを、できる限り叶えてあげることです。
この願いは、患者さんとご家族が長い年月をともに歩んできた証であり、その人の人生にとって大切な節目を「一緒に迎えたい」という、祈りのようなものです。
終わりよければ…という言葉もありますが、看護師はその祈りを尊重し、丁寧に扱わなければなりません。
とくに看取りの場面では、ご家族の本音がうまく言葉にならないことがあります。
遠慮があったり、緊張していたり、気丈にふるまおうとしたり。
だからこそ、看護師がそっと扉を開く必要があります。
「もしものときのこと、どうお考えですか」
「間に合いたい方がいらっしゃれば、私たちに教えてくださいね」
この一言があるだけで、ご家族は自分の希望を語ることができます。
看護師がこの希望を知っているかどうかで、その後の支援のあり方は大きく変わります。
そしてその希望は、病棟でも、自宅でも、施設でも同じように重要です。
間に合わなくても誰のせいでもない

ただ、現実的に旅立つタイミングは、医学的にも予測が難しいものです。
しかし、看護師のみなさんは日々の観察の中で、
「今日はいつもと違う」
「昨日より落ちてきている」
そんな微細な変化を敏感に感じ取ることができるはずです。
最期の時間が近づくほど、呼吸リズムの変化や反応の少なさなど、一つひとつが静かに積み重なっていきます。
その変化が見えたとき、
「まだ早いかもしれない」
「呼んで空振りになったら気の毒だ」
と看護師が迷うこともあるでしょう。
しかし、ご家族の多くは後にこう語ります。
「たとえ空振りでも、呼んでもらえた方が嬉しかった」
「早めに言ってくれてよかった」
ご家族は、結果よりも
「気にかけてもらった」
「願いを尊重してもらえた」
という事実に救われるのです。
看護師の配慮は単なる気配りではなく、人生の節目を支える看護の一部です。
しかし、どれだけ希望を聞き取り、どれだけ早く連絡しても、それでも間に合わないことはあります。
それは、誰のせいでもありません。
看護師は「間に合わなかった家族」に対して、準備しておいた言葉を投げかければよいのです。
「昨日のあの時間、心が通っていましたね」
「お母さまは、安心して力を抜けたのだと思います」
「できる限りのことを一緒に考えてきましたよね」
これは決して看護師の弁解ではありません。ご家族を守るための言葉です。
そして同時に、看護師自身を守る言葉でもあります。
努力したこと、願いを尊重したこと、家族と共に歩もうとしたこと。
それらすべてが無駄ではなかったと、看護師もまた確認できるからです。
看護師こそ、人生の物語のクライマックスを救える

人は亡くなるとき、その人の人生の最終章がゆっくりと閉じていきます。
その章がどんな色で終わるか。
そこに寄り添い、言葉を添え、灯りをともすのは、ほかでもない、看護師です。
最期の瞬間がどうだったかではなく、どんな時間をともに積み重ねたか。
どんなまなざしでその人を見守ったか。
どんな想いを家族と共有したか。
看護師は、そのすべての瞬間に立ち会い、患者の生と家族の未来を優しく繋ぐ存在です。
看護師がいるからこそ、家族は後悔を抱えたままではなく、これでよかったのだという想いに導かれる。
看護師がいるからこそ、患者の人生は最期まで尊厳を持って閉じられる。
看護師は単なる専門職ではありません。
人生の物語のクライマックスを救える存在なのです。
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永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長廣橋 猛
2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。また、病院勤務と並行して、医療法人社団博腎会野中医院にて訪問診療を行う二刀流の緩和ケア医。日本緩和医療学会では理事として、緩和ケアの広報、普及啓発、専門医教育などの活動を行っている。「がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康の考え方」(KADOKAWA)」など著書複数。
編集:北井寛人(看護roo!編集部)
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