「トレードオフ」な考え方してますか?

トレードオフのイメージ画像

みなさんは何かの問題と向き合うとき、「トレードオフ」の考え方を意識していますか?

 

トレードオフとは、何かを得るためには別の何かを犠牲にする必要がある状態・関係を指します。要するに「交換」を意味します。

 

私達はいつも何かを交換しています。その際、一般に我々は、得るものと失うもののどちらが自分にとって大切かを天秤にかけています。

 

何かを得るメリットと何かを失うデメリット。どちらがより大きくて、「全体として」メリットのほうが大きいのか、デメリットのほうが大きいのかを勘案し、その良し悪しを判断するのです。

 

医療の世界も多くは「トレードオフ」

善と悪のイメージ画像

具体的な話をしましょうか。

 

美味しいケーキを食べる体験は楽しいものです。しかし、太ってしまうという問題が生じます。これがメリット、デメリット。

 

どちらのほうがより大きいのか、これを勘案してケーキを食べるべきか、それともガマンすべきかを決定します。

 

医療の世界でやっていることも、ほとんどがトレードオフでできています

 

頭痛で苦しんでいるときに解熱鎮痛薬を使うのは、痛みを取るというメリットがあるからです。しかしその反面、解熱鎮痛薬による副作用、例えば胃炎や胃潰瘍、腎障害といったデメリットもまた存在します。

 

このとき、「解熱鎮痛薬」という存在は善でも悪でもありません。

 

それはただの医薬品という「道具」に過ぎません。道具が善となるか、悪となるかは、使い方次第というわけです。

 

解熱鎮痛薬を全く使わなければ頭痛に苦しむわけで、これは解熱鎮痛薬のメリットを十分に活かせていません。

 

とはいえ、過量に飲んでしまえば副作用のリスクが上がり、かえって苦しみを増してしまいかねません。例えば、お腹が痛くなるとか。

 

こうやって考えてみると、メリット・デメリットのトレードオフは「程度問題」なのだと分かります。程度問題については以前お話しているので、読んでみてください。

 

「白」か「黒」にしか分類できない人たち

 

結局のところ、世の中にある問題はほとんど全て「程度問題」であり、それはまたトレードオフの問題なのです。

 

ところが、昨今の社会はあるものを絶対善、あるいは絶対悪として捉えがちです。(ほとんどの)問題の本質がトレードオフにあるとすれば、これは間違った見方です。

 

世の中に絶対善とか、絶対悪はほとんど存在せず、メリット、デメリット両方あるトレードオフの関係なのですから。

 

それをあたかも絶対善とか、絶対悪の問題であるかのように口角泡を飛ばして論じているから、少しも溝は埋まらず、議論は平行線をたどったまま。

 

つまりは「分断の時代」はますます分断を深めるだけ、ということになるわけです。

 

ワクチンは効果と副作用を天秤にかけている

メリットとデメリットを天秤にかけるイメージ画像

医薬品の全てにメリット、デメリットがあるように、全ての医療行為にはメリット、デメリットがあります。

 

ワクチンなんて典型的で、ワクチンのメリットとデメリットはセットにして考えるのが大事です。

 

「ワクチンにはこういう問題があって…」という論じ方がそもそも間違いであり、「ワクチンのこういう問題は、そのメリットと比較して…」と論じなければならないのです。

 

幸いにして、現在日本で使っているワクチンのほとんどはメリットがデメリットを大きく、大きく上回るので悩みは小さいです。

 

例えば、新型コロナウイルスのワクチンは心筋炎という副作用が生じることがあります。

 

しかし、その副作用のリスクよりも新型コロナウイルス感染自体が起こす心筋炎のリスクのほうが高いのです。

 

心筋炎は抗原が惹起する自己免疫反応だと考えられますが、ワクチンという抗原も心筋炎を起こし、ウイルスの抗原もまた心筋炎を起こすのです。

 

そもそもワクチンが、ウイルスに似た成分を使ってウイルスを攻撃する自分の免疫機能を高めているというメカニズムを考えれば、当たり前と言えば当たり前の現象です。

 

「ワクチンには心筋炎のリスクがある」と言ってワクチンを全否定してはいけないのです。

 

トレードオフの問題なのですから。「ワクチンはリスクなんてない。絶対に正義だ」と主張するのも同じ理由のコインの裏表。これもまた間違った考え方です。

 

あくまでも「ワクチンは(全体として)メリットのほうがデメリットよりでかい」という考え方が、大事です。

 

どんなことでもオモテウラを見よう!

静かで穏やかな「カッコワルイ」考え方のイメージ画像

世の中の問題は、ほとんどこのようなトレードオフでできています。

 

原子力発電所は絶対善でも絶対悪でもありません。地球温暖化対策上は原発はメリットだし、事故やテロ時の被害を考えると、原発という概念はデメリットです。

 

自衛隊、移民政策、社会保障費の増額、あるいは減額。消費税の維持、廃止。ちまたで議論されている問題は全て、メリット、デメリットがあるわけです。

 

それをあたかも「こうすれば絶対にただしい」あるいは「絶対に間違っている」と主張する政治家や、動画サイトのインフルエンサーたちが、おかしいのです。

 

何かを勘案するときは、必ず結論ありきで飛び付かず、絶対悪とか絶対善といった、ありもしない幻想にしがみつくのでもなくメリット、デメリット両方を見て、トレードオフの問題として考えるのが大事です。

 

ということはですよ。口角泡を飛ばして、断言的に主張する行為が、実はトレードオフの問題として問題を認識できていない、間違った態度だということが分かってきます。

 

断言口調で主張するほうがカッコイイですし、貫通力があって、説得力もあります。でも、それは詐欺師の常套手段ということもできるのです。

 

インチキな医者はいつだってこのような断言口調です。我々は、どのような問題でもオモテウラを両方勘案する、より静かで穏やかで、ある意味「カッコワルイ」考え方をしなければならないんですね。

 

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執筆

神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授岩田健太郎

1997年 島根医科大学(現・島根大学)卒、1997年 沖縄県立中部病院(研修医)、1998年 コロンビア大学セントクルース・ルーズベルト病院内科(研修医)、2001年 アルバートアインシュタイン大学 ベスイスラエル・メディカルセンター(感染症フェロー)、2003年 北京インターナショナルSOSクリニック(家庭医、内科医、感染症科医)、2004年 亀田総合病院(感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任)、2008年神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授 神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野 教授 神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長・国際診療部長(現職)

 

編集:北井寛人(看護roo!編集部)

 

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