看護師としてのキャリアを色褪せさせないために。「計画的偶発性」を取り入れよう

原田奈穂子

看護師・大学教員

 

夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろひなむか

――大伴家持

前向きに歩みを進める女性のイメージ画像(AI生成)

 

このエッセイも、2度目の夏が過ぎました。

 

今回選んだ色は朱華色。「はねずいろ」と読みます。

 

この色が使われている歌は、現存する最古の和歌集である『万葉集』の中で大伴家持が詠ったものです。

 

夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろひなむか

 

夏になって咲いたはねず(=花桃)の花は

もし空から雨が降ったら

色あせてしまうのではないだろうか

 

文字通りに読むのであれば、雨によって花が色褪せてしまうことを心配しているのですが、花、すなわち美しいものが、「ひさかたの雨」という時によって色あせてしまうことを儚んでいる、無常観とも読み取れます
 

朱華色のサンプル

 

突然ですが、告白をします。

 

私は毎回このエッセイを書くのに、どのようなネタで書こうか苦しんでいます。

 

けれども折角いただいた機会をお断りすると、なんだか損をしてしまうような気がするので、エッセイで何か新しいことに挑戦してみたいと思ってしまいます

 

ですので、今年の看護roo!のエッセイは「伝統色」に、馴染みのない短歌をピックアップした合わせ技で書くことを自分に課してみたのです。

 

そんな挑戦しなければ良かった、と今回も思っています。

 

なのに、なぜ、このような挑戦になぜ手を出し続けているのでしょうか?
 

 

「計画的偶発性理論」がキャリアに彩りを加える

1つの理由は、アメリカのペンシルバニア大学留学中にたまたま出席した大学院生向けのソーシャルイベントで、「計画的偶発性理論・Planned Happenstance」という理論を知ったからかもしれません。

 

初めて聞いた時に「私の人生まあまあ当てはまってるな」と驚きました

 

キャリア理論と言われるものの1つで、キャリアカウンセラーのミッチェル、カウンセリング学者のレヴィン、教育心理学者のクランボルツという3人によって1999年に発表されました。

 

「キャリアは学習の連続で作られる」と考え、偶然の出来事を受け身で「待つ」のではなく、毎日の小さな探索行動で偶然を「生み・気づき・取り込む」力を育てることが、満足度の高い人生やキャリアに繋がると彼らは述べています。

 

幸運の神様は前髪しかない、という表現は聞いたことはあるでしょうか?

 

チャンスはある時突然、予期しない時にやって来て、気が付くのが遅かったらつかむことができないもの、という意味です。

 

計画的偶発性理論は、まさに後頭部がつるっつるの幸運の神様を逃さないように、気が付く力を養っておいた方が良いよと教えてくれているのです。

 

この理論では、以下の5つを鍛えることが偶然を機会に変えやすいと述べられています。

 

  • 好奇心(Curiosity)—新しいことに首を突っ込む   
  • 持続性(Persistence)—つまずいても続ける
  • 柔軟性(Flexibility)—考えややり方を変えられる
  • 楽観性(Optimism)—「できるかも」と見なす
  • リスクテイクする力(Risk Taking)—結果が不確実でも小さく動く

 

この理論を聞いた時に、何となく自分が留学「できた」理由が分かった気がしたのです。

 

 

「省みる力」を高めるための手法を試してみよう

未来に希望を持っている女性のイメージ画像(AI生成)

 

留学前の私は英語ができる方ではありませんでしたし、入学希望のペンシルバニア大学のことも良く知りませんでした。

 

ですが、どうしても心身のトラウマをケアができるようになりたいと思った私は、母校の聖路加大学でお世話になった小松浩子先生に相談してみました。

 

小松先生は、留学に挑戦してみたらとアドバイスを下さいました。

 

留学は全く想定外だった私は、「いや、そんなこと急に言われても行けるわけないよね」と軽いショックを受けたのを覚えています。

 

それでも好奇心で一応調べてみたところ脊髄損傷患者のリカバリープロセス研究の第一人者であるテリー・リッチモンドがGoogle検索の検索のトップに表示されました。

 

単純な私は「この先生の所に行けば勉強したかったことができるはず!」と考え、「行けるわけない」と思っていた留学をすることを考え始めました。

 

全く未知の留学の準備が始まりましたが、今考えても私の楽観性はものすごいものでした

 

「できるかも」どころではなく、「いけるはず」と思い込み、3交代の臨床を続けながらTOEFLを受け続け、テリーに拙い英語でメールを書き、受験して受かったら受け入れてくれるようお願いをしました。

 

もちろんTOEFLのスコアは最初絶望的に悪かったのですが、「いけるはず」という思い込みの力はすごいですね。しつこく受け続けました。持続性です。

 

なかなかスコアも伸びなかったのですが、息抜きに読んでいた今はなき「2ちゃんねる」の留学スレッドを読み、柔軟性を発揮して勉強法を変えてみたりしながら取り組んでいるうちに少しずつ得点が伸びるようになりました。
 

 

「リスクテイクする力」が幸運を招く

このように留学までの準備に際して、私は計画的偶発性理論の最初の4つを使っていたと思うのですが、私がもっとも発揮できた力はリスクテイクする力のような気がします

 

というのも、志望していたコースはナースプラクティショナー(NP)のコースだったので、そもそも米国看護師免許がなければ受験することもできなかったのです。

 

当時はアメリカの看護師免許試験であるNCLEXを日本で受験することはできなかったので、まずはこの試験のためだけにアメリカへ行くという選択もあり得ました。

 

しかしリスクテイカーの私は、免許も取れていないのに渡米してしまうというリスクを取りました。語学学校に入り滞在資格を維持しながら、NCLEXを受験する道を選んだのです。

 

この道はなかなかに険しいものではありました。本来入りたい大学院プログラムに入れるかも全く分からないのに渡米してしまい、毎月滞在費で貯金が減っていくのは本当に心細い毎日でした。

 

ですが、目指している大学院のキャンパスにある語学学校にいたお陰で、入学前にNPプログラムを聴講させてもらえたり、テリーのオフィスを訪問することもできました

 

日本で受験していたら得られなかった幸運を得ることができたのは、自身の無鉄砲さ、もとい挑戦する力でリスクテイクをしたからだと、計画的偶発性理論を知った時に腑に落ちたのです。

 

偶発性を取り入れることで、彩り豊かなキャリアに

彩りを楽しむ女性のイメージ(AI生成)

みなさんにこのようなリスクテイクを強くお勧めをしようとは思いません。

 

ですが、せっかく咲いた美しい朱華色の看護職というキャリアなのですから、雨に打たれて色褪せることを恐れて閉じこもっているのは勿体ないと思いませんか

 

興味がない分野のセミナーに出てみる、行ったことないけど学会に参加してみる、面白そうな取り組みを実践してる研究者のセミナーに参加してみる、画廊に入ってみる、転職セミナーに参加してみる。

 

なんでも良いのです。

 

看護の実践の場は病院だけの時代は遠い過去になりました。看護力・ケアする力を持っていれば、どこででも活躍できると私は信じています。

 

その活躍の機会が巡ってきた時に、みなさんがその機会をつかみ取れるような力を小さなことから培ってみてはいかがでしょう。

 

 

引用文献
Mitchell, Levin, Krumboltz (1999) “Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities.

https://doi.org/10.1002/j.1556-6676.1999.tb02431.x

 

Krumboltz (2009)“ The Happenstance Learning Theory”

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1069072708328861
 

 

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執筆

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学学域 教授原田奈穂子

千葉市生まれ。1998年聖路加看護大学(現聖路加国際大学)を卒業後、聖路加国際病院と2次・3次救急の臨床に関わる。2005年、ペンシルバニア大学修士課程に進み、成人急性期ナースプラクティショナー課程を修めた後、ボストンカレッジ大学博士課程に進学。博士2年目の2011年春に東日本大震災が発生し、3月14日に帰国し災害医療支援に従事したことを契機に、国内外の人道支援と支援者支援について実践と研究に取り組む。現在は、学際大学院に所属して、主に災害やメンタルヘルスをテーマに、人文系と工学系の研究者と共に「人と社会の健やかさ」に関する研究に取り組んでいる。

 

 

編集:横山かおり(看護roo!編集部)

 

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