「在宅の看護を言語化する」言葉にするのが苦手だった私が目指すもの

在宅看護専門看護師・河添こず恵さん

「在宅の看護を言語化する」言葉にするのが苦手だった私が目指すもの

 

Profile

在宅看護専門看護師

河添 こず恵(かわぞえ・こずえ)さん

株式会社くますま たっくリハサポートセンター所長

▼2016年度、熊本大学大学院 保健学教育部 博士前期課程 修了

▼2017年度~、在宅看護専門看護師

 

熊本市内で訪問看護ステーションを開設・運営している河添こず恵さんは、ナース歴35年目となる2017年、在宅看護専門看護師の資格を取得しました。

 

ニーズの高まりとともに、在宅医療・ケアへの理解は広がってきていますが、「在宅の現場で私たち訪問看護師が行っていることは、もっともっと、言葉にして伝えていく必要がある」という河添さん。

 

「在宅の看護を言語化する」を自身のテーマとして取り組んでいます。

 

 

自分たちのやっていることをもっと言葉に

疾患や障害を抱えた人が地域で暮らしていくお手伝いがしたいと、25年ほど前から訪問看護師の道に進んだ河添さん。介護保険制度がスタートした2000年には、いち早くケアマネジャーの資格も取るなど、幅広く在宅看護に携わってきました。

 

 

河添さんの仕事風景

理学療法士の夫と訪問看護ステーションを運営する河添さん

 

一方で、「自分たちが行っている看護について、一般の方にも、医療者にも、伝えきれていない」というジレンマを感じていたそう。

 

ジレンマを感じるのは、たとえば、「訪問看護って何? 訪問介護とどう違うの?」という利用者さんの疑問に、表面的な言葉の説明だけで終わってしまったとき。

 

あるいは、退院調整カンファレンスで、在宅の視点から考えた支援方針や退院日があっても、病院側の意見に押し切られ、あれよあれよと病院主体で退院が決まってしまったとき。

 

「このままじゃダメだな…」という思いが募ったころ、地元・熊本大学大学院に在宅看護の専門看護師コースがあることを知りました。

 

訪問看護ステーションの開設者・運営者としても活躍する河添さん

ステーション運営のかたわら、4年間の長期履修制度を利用して大学院に進んだそう

 

 

「大学院では、課題で出された論文を読んで、レポートを書いて、ディスカッションして……を繰り返す日々。でも、私の言葉は、なかなか人に伝わらなくて(苦笑)。あらためて自分の課題が言語化にあると思い知りました」と振り返る河添さん。

 

実は、「言語化するチカラ」は、相談や調整、倫理調整などの役割を担うべき専門看護師にとって、核となるスキルの一つ

 

対象者や内容に合わせて、どんな言葉を選んだら良いのか、どんな順番で話を組み立て、どうやって共通理解を作り上げていくか――

 

大学院での訓練を通じて「徹底的に叩き込んでもらった」と言います。


 

言葉で裏打ちした「調整力」を生かして

長い経験に基づく実践力を言葉で裏打ちした「調整力」は、現在、病院や地域の保健福祉職を交えたカンファレンスなどの場で発揮されています。

 

「その人その人に合った言葉で届けるのは、やっぱり今も難しい」と言いますが、退院後の支援が特に難しいと思われるケースでは、「河添さんに入ってもらいたい」と、病院からの直接指名で依頼されることもあるそう。

 

そんな困難事例の中には、どう介入したらいいのか、専門看護師である河添さんも判断に悩むことも。けれども、

 

「以前は『わからないのは恥ずかしい』という思いがあったんですが、専門看護師になってみて、『わからないことはあって当たり前なんだ』と思えるようになったんです」

 

と河添さん。

 

わからないことがあれば言葉にして伝え、周囲の意見やアドバイスを得て「わかる」に変えればいい――。その道筋をつけられるのが、専門看護師だと話します。

 

スタッフや地域の多職種と連携し、在宅患者の暮らしを支える河添さん

 

 

そんな例の一つが、ある難病の利用者さんのケース。本人とパートナー、3人の子ども全員に軽度の知的障害か知的ボーダー(境界知能)が認められ、家はいわゆる"ゴミ屋敷”状態だったそう。

 

電気・ガス・水道などのライフラインは止まり、衛生環境も悪く、子どもたちは不登校。自宅での療養以前に、家族の生活基盤そのものを立て直さなくてはならず、「どっちにどう進んでも、行く手を阻む壁だらけ。とにかく当たって砕けるばかりでした」(河添さん)。

 

そこで、河添さんが打開策のヒントを求めたのは、全国の在宅看護・地域看護の専門看護師が集まる事例検討会。現状と課題を整理して発表したところ、より俯瞰した視点からのアドバイス、ボトルネックになっているポイントと具体的なアプローチについての意見がどんどん寄せられました。

 

「いただいた助言を基に壁をクリアし、行政や学校、児童相談所とも深く連携した、まさに地域ぐるみの支援体制を構築できました。『はー! 専門看護師って違うなあ!』って思いましたよね(笑)

 

と笑う河添さん。その気負いのない笑顔は、多職種・多領域が絡む在宅の現場で「調整の要」となれる、しなやかさを感じさせます。

 

言語化した看護が評価される仕組みへ

ひだまりの中で在宅患者さんと話す河添さん

 

在宅看護専門看護師となって5年。

河添さんがこれからの目標に据えているのは、「言語化した在宅看護が、制度の中できちんと評価される」ための活動です。

 

その一つが、「訪問看護師による受診支援・受診同行」に対する診療報酬の新設を目指すこと。

 

在宅でも医療度の高い利用者、独居・老老世帯の利用者が増えている中、医療的なサポートができる訪問看護師による受診支援のニーズは増えています。ですが、現状では算定できる報酬はなく、利用者の自費や各ステーションのサービスで行われていることがほとんど。

 

河添さんは、「受診支援のニーズや、報酬化で懸念される過剰算定などの課題を明らかにする実態調査」に取り組みたいとし、全国調査に向けて準備を進めています。

 

「専門看護師や認定看護師が在宅の現場にいる価値が、もっと仕組みとして評価されることが、在宅ケアの質を高める上では必要だと思うんです。その道を切り開いていくのも、在宅看護専門看護師の役割かなと思います」

 

「自分たちの行っている看護を言語化する」、河添さんの掲げるテーマは、次の目標へと動き出しています。

 

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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