“無気力な”認知症者にどう対応する?

『エキスパートナース』2016年7月号より転載。
“無気力な”認知症者への対応について解説します。

 

山元智穂
虎の門病院

 

〈目次〉

認知症患者に起きる”無気力”とは

認知症者に起きる無気力とは、BPSD(認知症による行動・心理症状)の1つであり、自発性の低下、意欲の低下を示します。

 

無気力な認知症者は、以前行っていた趣味や日常の活動、周囲のことに興味を示さなくなります。多くはうつ状態に認められるような悲哀感、自責感、不眠、自殺念慮を伴いませんが、ときに落胆や自責の念を伴う場合もあります。

 

周囲には感情が平坦化したように見えたり、意欲がなくなったり、周囲に興味を示さなくなっているように映ります。

 

無気力で自ら動こうとしない認知症患者には、日常の活動のなかで自分が何を行っていて、何が行えるのかがわからなくなっている可能性があります。また行おうとしている活動が、現在の認知機能で行えなくなっている可能性もあります。

 

①“無気力”により起きる影響を考える

まずは、無気力という症状が個々人の日常生活にどのような影響を及ぼしているのかアセスメントする必要があります。

 

例えば日常生活で必要なことがらが行えないようであれば、介助内容や方法を考え、積極的にかかわる必要があります。

 

“何が行えるのか”“どのようにすればそれが行えるのか”、本人の言動や家族を含めた周囲の人々の情報からアセスメントすることが重要です。

 

 

 

 

② 趣味や大切にしていることを知る

また、これまでの趣味や個々の大切にしていることについて知ることも重要です。

 

パーソンセンタード・ケアの概念のもと、個人の生活史をひもとき(「回想法・ライフレビュー」の項を参照)、何を行うことでその人の心理的な安定が得られ、生活を豊かにできるのかをアセスメントすることが必要です。

 

③“無気力”な認知症者への対応を、アセスメントをもとに考える

無気力な認知症者が自発的に何かしないからといって、何もできないわけではありません。

 

どこを補えば日常生活行為が行えるのかを把握し、適切な促しや手がかりを提示することで、日常生活行為が行えるように支援します。

 

無気力な認知症者は何もできないと考えてすべて介助してしまうことは、認知症者にとってできることを奪うことになりかねません。

 

趣味や好きなことがらについても、適宜、促しを提示することにより、程度の差はあっても行っていくことが可能です。

 

以下の事例のように、日常生活動作であっても趣味や好きなことがらであっても、その課題に対する個人の能力を十分にアセスメントして、その人に応じた支援を行うことが重要です。

 

認知症者にとっての無気力はBPSDの1つであるため、基本的には非薬物療法や、かかわりによって対応していきます。

 

薬物療法としてのコリンエステラーゼ阻害剤(アルツハイマー型認知症)、一部のドパミン作動薬(血管性認知症やパーキンソニズムを伴う認知症)の使用については、適宜、医師へ相談し、検討していくとよいでしょう。

 

[事例]“無気力な”認知症者への対応を考える

“無気力な”認知症者への対応を考える

 

  • Bさん・80代、男性
  • 腰椎圧迫骨折の診断で自宅より入院。既往にアルツハイマー型認知症、脳梗塞がある
  • 入院して2週間が経過し、痛みなく動けるようになったが、1日の大半を自室で過ごしている
  • 散歩に出かけても周囲に興味を示さないBさんに対して妻は、「感情がなくなったように見える」と話している

 

1Bさんの“無気力”による影響は?

  • 誘わないと自ら起きてくることはなく、寝てばかりで活動性が低下していた
  • 日常生活のすべてが介助のもとに行われていた。他人とかかわる機会も減っていた

 

2Bさんの趣味・大切にしていることは?

  • 以前は趣味で囲碁を楽しんでおり、碁会所へもよく通っていたと、妻より情報提供があった

 

3“無気力な”Bさんへの対応は?

  • 日常生活上の動作に関して細かく観察を行った
  • 例えば整容に関しては、ひげそりを手に持ってもらい、電源を入れるところまで介助すると、自らひげそりの動作を始められたため、毎朝、同様の介助を行うことにした
  • 趣味だった囲碁を、生活を豊かにするきっかけにしようと考えた。目の前に碁盤を置くだけでは反応がなかったが、こちらが一手目を打つと、次の一手が出た。毎日会話を交えながら囲碁を楽しむ時間をつくれるようになった
対応のポイント

促しにより、患者の日常生活動作や興味を引き出す

 

 


[参考文献]

 

  • 1.山下功一,天野直二:BPSDとその対応.日本認知症学会 編,認知症テキストブック,中外医学社,東京,2008:70-80.
  • 2.高橋智:認知症のBPSD.日本老年医学会雑誌 2011;48(3):195-204.
  • 3.坂一幸:負の心理反応・感情・状態への治療介入.深津亮,斎藤正彦 編,くすりに頼らない認知症治療Ⅰ─ 非薬物療法のすべて─,ワールドプランニング,東京,2009:59-62.

 


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P.52~53「“無気力な”認知症者にどう対応する?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2016年7月号/ 照林社

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