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2017年06月29日

マイクロ吸引管(福島式マイクロ吸引管)|脳神経外科手術器械(1)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『マイクロ吸引管(福島式マイクロ吸引管)』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験などに基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

福島式マイクロ吸引管

 

〈目次〉

 

マイクロ吸引管(福島式マイクロ吸引管)は脳神経外科手術には欠かせない器械

微細な手術で活躍する必須の器械

マイクロ吸引管は、脳神経外科をはじめとするマイクロ下で行う微細な手術には欠かせない器械です。特に、福島式マイクロ吸引管は、「鍵穴手術(Keyhole Surgery)」という、小さな開頭で行う手術には欠かせません。

 

血液などを吸引し、術野の視野を確保する

マイクロ吸引管は、血液や浸出液、術野にかけている生理食塩水などを吸引し、的確な視野を確保するために使用します(図1)。

図1福島式マイクロ吸引管

福島式マイクロ吸引管

先端部で血液などを吸引します。

 

また脳外科手術の場合、腫瘍そのものを軽く吸引しながら、引っ張る方向にテンションをかけるためにマイクロ吸引管を使用することもあります。

 

memo術者自身が吸引圧を調節する

脳外科用の吸引管は、中ほどにある開窓部に親指を当て、吸引圧を調節しながら使用します。指を全く当てない状態は、吸引圧が「0(ゼロ)」になります。

 

福島式マイクロ吸引管の誕生秘話

図書館での偶然の出会いが開発につながった

福島式マイクロ吸引管の“福島”という名前は、世界的に有名な脳神経外科医の福島孝徳医師(1942~現在)のことを指しています。

福島式マイクロ吸引管は、1980年、Dr.福島が東京の三井記念病院に勤務していたときに開発の話が生まれました。その場所は、なんと病院の図書館でした。

ある日、医療機器メーカーの営業マンが、開発に携わった手術器械を説明するために、ある消化器外科医を訪ねました。偶然、Dr.福島は、消化器外科医の近くの席に座っていました。営業マンが、Dr.福島にも挨拶をしたことが、福島式の脳外科手術器械が開発されるきっかけです。

 

脳神経外科の手術は、肉眼からマイクロ下、そして鍵穴手術へ

1970年以前は、脳神経外科の開頭手術を直視下で行っていました。そのため、頭部を大きく開いて術野を広く確保し、脳の深部へと術野を展開していました。

1970年に入ってからは、欧米も含めマイクロ下手術の時代に入り、開頭の大きさも少し小さくなりました。術式にもよりますが、直径5cm程度の開頭でも、手術が可能となりました。

やがて、Dr.福島は、さらに小さな切開創(直径1cm~2cm)からアプローチする「鍵穴手術」という術式を開発、確立させました。

 

開発に3年を費やした世界スタンダードの器械

1980年以降、Dr.福島は手術方法の改良に心血を注ぎました。そして、「鍵穴手術」が確立されました。この術式は、手術そのものが非常に高度、小さな開頭で手術を行うためこれまでの手術器械では対応できないため、Dr.福島は、自らの手技手法に必要な多くの手術器械の開発に関与してきました。なかでも、福島式マイクロ吸引管には、開発におよそ3年の月日を費やしました。

福島式マイクロ吸引管は、手になじむ形状で、自在に吸引圧が調整できる独自のデザインが好評で、現在、世界中の脳神経外科医に使用され、マイクロ下手術では欠かせない器械です。

 

memo多くの器械を開発したDr.福島

Dr.福島の頭の中には、吸引管だけではなく、マイクロ下で使用する剪刀や、脳ベラなど、複数の新しい器械の構想があったそうです。Dr.福島が、サイズや形状、その特徴まで、細かく手書きで指示した「開発指示書」を元に、何度もトライアルを重ねながら、商品化に向けた開発が行われました。

 

福島式マイクロ吸引管の特徴

サイズ

福島式マイクロ吸引管の有効長は、吸引圧調節部分から先端部までの長さになります。長さは80mm~175mmで、管の外径と内径が№1~6まであり、その組み合わせの数のサイズのバリエーションがあります。

 

形状

吸引管の形状は、親指を使って吸引圧を調節する吸引圧調節部分と、先端に向かって径が少しずつ細くなっていく管状の形になっています。

開窓部は涙滴のような形になっているのが、福島式マイクロ吸引管の特徴です(図2)。この形状が微妙で繊細な吸引を可能にしています。管状の部分は自在に曲げることができます。福島式マイクロ吸引管の特徴である吸引圧調節部分については、親指を置く微妙な彎曲や、開窓部の涙滴形についても、Dr.福島の細かい指示がありました。

図2涙滴形の開窓部

涙滴形の開窓部

涙滴形の開窓部は、親指が置けるように微妙に彎曲しています。

 

また、ほかのマイクロ吸引管には脱着式イリゲーション付吸引管というタイプがあり、分解することができます。

 

memo専用の掃除道具“マンドリン”

マイクロ吸引管には、“マンドリン”という吸引管の内腔に溜まった異物を除去するための棒が付属しています(図3)。血液や骨くずなどで吸引管内腔が閉塞した場合は、生理食塩水を通すか、マンドリンを内腔内に通して、異物を除去します。

図3マンドリン

マンドリン

吸引管の内腔に通して、異物を除去します。

 

材質

福島式マイクロ吸引管は、吸引チューブの差込口、吸引圧調節部、吸引管部分が真鍮製です。吸引管部分が自在に曲げることができるのは、この材質によるものです。

 

製造工程

福島式マイクロ吸引管は、大きく分けて吸引チューブの差込口、吸引圧調節部、吸引管の3カ所に分かれています。それぞれのパーツ別に製造し、接合しています。その後、吸引圧を左右する吸引管内腔にある余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整という工程が必要になります。

 

価格

福島式マイクロ吸引管の価格は、1本30,000円程度です。

 

寿命

福島式マイクロ吸引管の寿命は明確に決められているわけではありません。使用年数や使用頻度はもちろん、術中どのように使われたのか、洗浄や滅菌での扱い方も寿命を左右します。

非常に繊細な操作が必要とされる器械のため、ちょっとした変形や傷にも留意しましょう

 

福島式マイクロ吸引管の使い方

使用方法

福島式マイクロ吸引管は、吸引圧調節部分の開窓部に親指を当て、その開閉具合で吸引圧をコントロールし、吸引の強弱を調節します。また、必要に応じて吸引管を曲げて使用します。

 

類似器械との使い分け

福島式マイクロ吸引管は、吸引管の有効長と径の組み合わせで多くのサイズが存在しています。一つの術式に対し、複数のサイズの吸引管を使い分けているため、福島式マイクロ吸引管の同士の使い分けを確認しましょう。福島式マイクロ吸引管は、吸引圧調整部分の開窓部にサイズの表記があります。ドクターから吸引管の指示があった際には、必ず表記を確認してください。

どの操作時にどの吸引管を使用しているのか、どのような状況のときにどの吸引管を使用しているのかを、理解しておくことが大切です。

 

禁忌

特に禁忌はありません。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

使用前はココを確認

福島式マイクロ吸引管の先端は滑らかに加工されています。ほんの少しの傷や変形があると、繊細な吸引操作を妨げることになり、患者さんの体を無用に傷めることになります。先端部分にそういった不具合がないかを確認しておきましょう。

脱着式イリゲーション付吸引管は、吸引圧調整部分と細い管の間で分解できるため、使っているうちに接続部分が緩んでくることがあります。この部分がしっかりと接続されていることを確認しましょう

 

術中はココがポイント

手渡し時は、福島式マイクロ吸引管の中ほどを持ち、吸引圧調節部分がドクターの親指に当たるように渡します。

ドクターは、吸引管が詰まったら(吸引圧が落ちたと感じたら)一旦、その吸引管を看護師へ戻します。この場合は、同じサイズの吸引管を渡すことになります。また、術野の状況が変わったり、違うサイズのものを使用する場合は、その都度、「太いの」「細いの」などの指示がありますので、ドクターの指示を聞き逃さないようにしましょう。

 

memoコードをさばきながら手渡す

福島式マイクロ吸引管は細くて長い器械です。手術中は、周辺に多くのコード類があるため、それらと吸引管が絡まないように注意して、手渡すようにしましょう。

 

使用中に、血液や骨くずなどによって吸引管が閉塞してしまった場合は、生理食塩水やマンドリンを通して内腔を洗浄します。手術には、同じサイズの吸引管を2本以上準備し、いつでも入れ替えができるようにしましょう。

 

使用後はココを注意

福島式マイクロ吸引管が術野から戻ったら、使用前に確認した不具合箇所の点検をしておきましょう。また、吸引管の洗浄も忘れずに行い、いつでも使える状態にしておきます。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落としておく

付着物が残ったまま、高温水での洗浄や滅菌処理をしてしまうと、細い吸引管の中など、小さな隙間に入り込んだ付着物などが取れなくなってしまい、次回、使えなくなることがあります

(3)感染症の患者さんに使用した後は、あらかじめ付着物を落とし、消毒液に一定時間浸ける

消毒薬に浸ける場合は、付着物を手洗いでしっかり落としておきます。一定時間、消毒液に浸けた後は、洗浄機にかける前にブラシ(歯ブラシ)や、付属しているマンドリンなどを使って、手洗いで消毒液もしっかり落とします。また。塩素系消毒薬は、器械の腐食を招く恐れがありますので、勤務先のマニュアルに従い、適切な消毒液を使用しましょう。

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは、ほかの器械と分けること

福島式マイクロ吸引管を洗浄するときは、中まで水が通るよう、マンドリンは引き抜いて(分解して)洗浄機にかけます。また、脱着式イリゲーション付吸引管は、吸引圧調節部分と細い管の間で分解して洗浄機にかけます。

脳外科の手術に使用する器械は、特殊なものが多いので、ほかの手術で使用した器械と混同しないよう、脳外科の手術で使用した器械だけをまとめて洗浄します。ほかの一般的な器械(鉗子類や鑷子類)と混ぜると、金属同士がぶつかり合い、破損の原因になる可能性がありため、これらの器械とは分けて洗浄する方が良いでしょう。

 

滅菌方法

滅菌方法は、ほかの器械と同様に、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。滅菌完了直後は非常に高温なため、ヤケドに注意しましょう。

 

[関連記事]

  • ⇒『器械ミュージアム』の【記事一覧】を見る

 


[参考文献]


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Photo:kuma*


協力:株式会社フジタ医科器械


著作権について

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