NRS(Numerical Rating Scale)|知っておきたい臨床で使う指標[11]

臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。

 

根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長

 

NRS(Numerical Rating Scale)

 

NRS(Numerical Rating Scale)は、「患者さんが感じている痛み」を数字で評価するための指標です。
“numerical”とは、「数の、数字で表した」という意味、“rating”は、「評価、見積もり」という意味があります。つまり、NRSとは、「数字で評価する指標」ということになります。その数字で評価する対象が「患者さんが感じている痛み」なのです。

 

〈目次〉

 


 

NRS(Numerical Rating Scale)

 

NRS、Numerical Rating Scale、ペインスケール、疼痛スケール

 

 

NRSを主に使う場所と使用する診療科

NRSは、医療機関内であれば受付から一般・救急外来、一般病棟、集中治療室とどこでも使用することができます。また、病院外の救護室などでも使用することができますし、特別な医学知識がなくても評価することができます。

 

 

NRSで何がわかる?

NRSが示すのは患者さんが感じている痛みです。
「痛み」は生体防御反応として非常に重要ですが、一方で非常に耐えがたい感覚でもあります。また、痛みは個人によってとらえ方や表現の仕方がばらばらで、医師や看護師、その他医療職が客観的に評価して共通認識することが難しいとされています。

 

そこで、このNRSを用いることで、個々の患者さんの痛みを共通して認識することができるようになります。
また、NRSは患者さんの「自己申告」によって評価するため、「いつでも、どこでも、誰でも」評価することができるので広く使用されています。

 

 

NRSをどう使う?

NRSは患者さんが感じている痛みの強さを0から10の11段階で評価します。
ですから、患者さんに痛みの感じ方を質問しなければなりません。質問の仕方は多々あると思いますが、一般的に使われている聞き方は二通りです。

 

一つは、「今まで経験した一番強い痛みを10として今の痛みがどれくらいか」を聞く方法、もう一つは、「初診時や治療を開始する前の痛みを10として、今はどれくらいの痛みか」を聞く方法です。

 

NRSでは、痛みの程度を数字で評価するため、それぞれの数字がどれくらいの痛みを表しているかを知っておくことも重要です。
まったく痛みがなければ「0」今まで経験したことがない痛みや、治療前の痛みを「10」として評価します。
また、1~3は「軽い痛み」4~6は「中等度の痛み」7~10は「強い痛み」というように目安があるので知っておくと便利です。

 

NRSは、痛みの程度を患者さんから聞いて評価するため、うまく表現できない子どもや認知症がある患者さんには使用することができないという欠点があります。また、日本人の数字の好みとして5や7を選ぶという傾向もあるようです(1)

 

痛みの評価方法には、NRS以外にもあります(図1)(2)
痛みの程度を表す部位に印をつけてもらうVisual Analogue Scale(VAS) 10cmや、痛みの程度を言葉で表現してもらうVerbal Rating Scale(VRS)、顔の表情で痛みの程度を評価するFaces Pain Scale(FPS)があるので、患者さんの年齢や状況などに応じて使い分けると良いでしょう。

 

 

 

図1痛みの評価方法(VAS、VRS、FPS)

VAS、VRS、FPS、Verbal Rating Scale、Visual Analogue Scale、Faces Pain Scale

 

文献2より引用

 

 

 

さらにプラスαVAS、VRS、FPSの使い方

VAS

10cmの線を引き、左端を「痛みなし」、右端を「最悪の痛み」とした場合、患者さんに、現在の痛みの程度がどの位置にあるか、印を付けてもらう方法です。
ただ、痛みを線上で表すことが理解できない患者や高齢者、一部の子どもに使用するのは難しい場合があります。

 

VRS

3段階から5段階の痛みの強さを表す言葉を並べ、患者さんに痛みを評価してもらう方法です。
ただし、言語の選択肢が固定化してしまうことや、段階が少なく痛みを詳細に評価できない可能性があります。

 

FPS

6段階の表情で表わした顔の中から、現在の痛みに近い顔を選んでもらう方法です。
3歳以上の小児の自己評価で有用性が報告されていますが、痛み以外の気分を反映する可能性や、痛みの段階が少なく、痛みを詳細に評価できない可能性があることなどが指摘されています。

 

 

NRSを実際に使ってみよう

症例1

 

56歳の男性。会議中、突然頭痛を自覚し、気分が悪くなったため社内の診療所を訪れた。
意識はほぼ清明で、痛みの強さを尋ねたところ、今まで経験したことがないほどの強い痛みだという。NRS評価は何点?

 

答え:NRS 10点

意識障害がなく、「今まで経験したことがないほどの強い痛み」と言っているのでNRSは10点と評価する。

 

→NRSを確認

 

症例2

 

47歳の女性。乳癌の骨転移があり、疼痛外来に通院中である。
前回のカルテにはNRS 3点と記載されていた。今回、診察前の問診で痛みについて尋ねたところ、「かなり痛い」という返事であった。本人に、「今までで一番痛かった時を10とすると、今はどれくらいの痛みですか?」と尋ねたところ、顔をしかめながら、「半分程度かな…」と答えた。看護師として何点と評価する?

 

答え:NRS 5点。ただし…

NRSは患者申告に基づく評価であり、患者本人が「半分程度かな…」と答えているため、患者の言葉でそのまま評価した場合はNRSは5点となる。
しかし最初に、「かなり痛い」と訴えていたことと、顔をしかめていることから、「強い痛み」すなわち、8点前後と評価すべきである。
看護記録には、「NRS 5点。ただし、前回と比較して痛みはかなり強くなっているようである」などと記載しておくのが望ましい。

 

→NRSを確認

 

症例3

 

28歳の男性。右下腿骨折に対して全身麻酔下に観血的整復固定術が実施され、午後1時に帰室した。
術翌日の準夜勤務で、昨日の術後の痛みを10として現在の痛みの程度を尋ねたところ、「8程度」という返事であった。術後疼痛管理は適切か?

 

答え:できていない

術後から24時間以上経過した段階でNRS 8点であるため、適切な疼痛管理はできていないと判断し、担当医に疼痛時の指示を求めるのが望ましい。
なお、術翌日では「中等度の痛み」4~6程度でのコントロールを目安とするが、リハビリテーションを考慮すると「軽い痛み」1~3程度でコントロールすべきである。

 

→NRSを確認

 

症例4

 

5歳の男児。鉄棒から転落して左前腕を負傷し来院した。
左腕は動かさず、何を聞いても涙を流して泣いている状態である。NRSを使った疼痛評価は可能か?

 

答え:使用不可

幼児に対してはNRSは使用できないため、この場合はFPS(図1)を用いるのが妥当である。

 

→NRSを確認

 


[文 献]

 

 


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