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2015年10月08日

出生は人生最大の危機|子孫をつくる(3)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、生殖についてのお話の3回目、そしてこの連載の最終回です!

〈前回の内容〉

生殖機能の発育と生殖器の構造|子孫をつくる(2)

解剖生理学の面白さを知るため、生殖の機能と生殖器の構造について知りました。

今回は人生最大の危機である出生について、ヒトが生まれる奇跡の世界を探検することに……。

 

生まれる前の世界

ところで、ナスカさんは生まれる前の世界について、想像したことがある?

あるかなー。あったとしても、ほとんど何も覚えていません

じゃあ、ちょうどいいわ。胎児になったつもりで、心の奥に眠る記憶を呼び起こしてみましょう

そんなことって、できるんですか?

ここまで旅してきたあなたなら、きっとできるわよ。さあ、目を閉じて想像してみて。あなたはいま、母親の胎内にいるの。きっとすごく、気持ちがいいはずよ

 

子宮の中では、羊水に満たされた羊膜腔の中にいます(図1)。

 

図1胎児と胎盤

胎児と胎盤

 

羊水の温度は、母体の体温よりちょっと高めの38℃くらいかしら。その中で、あなたは気持ちよさそうに浮かんでいます。

生きていくために必要な肺や消化器、肝臓腎臓などの器官は、そろっています。しかし、子宮の中ではそれらを使う必要はほとんどありません。子宮内では、胎児は胎盤と臍帯を通じて母体とつながり、酸素と二酸化炭素のガス交換や栄養の摂取、老廃物の排泄などすべて、母体の血液を介して行っているからです。

母体から栄養をもらい、大きくなったあなたは思うでしょう。「そろそろ自由に動きまわりたい」。そのための運動器や感覚器だって、ちゃんともっているのに、と。けれど、そこは子宮の中です。手足をむずむずしても、動きまわることはできません。

母体からの血液が流れ込む胎盤は、危険な物質をせき止めてくれる関所です。おかげで、微生物などの外敵と接触する心配もありません。

安心に満ちた子宮の世界。あなたはそこで、約40週(280日間)暮らします。

 

人生最大の危機──出生

さあ、出生の瞬間です。母親にとっては喜ばしいこのときも、新生児にとっては最も怖い瞬間です。子宮の外へ出た瞬間から、それまで経験したこともないようなたくさんの危険にさらされ、自立した生命体としての活動を強(し)いられるからです。

新生児にとっての冒険は、胎盤からの血流が途絶えることから始まります。子宮にいる間、胎児の細胞はこの臍帯血を通して酸素を取り込み、二酸化炭素を排出していました。しかし、もう胎盤には頼れません。新生児は一刻も早く、自力で呼吸しなければなりません。

「オギャー」という産声は、命の叫びです。新生児は使っていなかった肺を精一杯膨らませ、自らの肺で酸素と二酸化炭素のガス交換を行い始めます。この自発呼吸への移行は同時に、大きな血流の変化を伴います。

いわゆる胎児循環からの脱却です。

 

胎児循環って何ですか?

胎内にいる間は、胎盤が胎児の呼吸器、消化器、泌尿器などの働きを請け負っています。だから、胎児の循環は肺や肝臓に流れないの

成人の血液循環とは、ずいぶん違いますね

そうなのよ

 

胎児循環からの脱却は、命がけ

胎児循環の大きな特徴は、心臓から肺へと向かうはずの血液が流れないことにあります。下大静脈を通って右心房にくる酸素化された胎盤血は、卵円孔とよばれる心房中隔の孔を通って左心房にシャントされ、肺循環を迂回(うかい)します。

臍帯血は、母親の肝臓で解毒された安全な血液です。貯蔵する必要もないので、肝臓を通らず、静脈管を通って直接下大静脈に入ります(図2)。

 

図2胎児循環

胎児循環

 

ところが、出生で胎盤からの血流が途絶えると、このような血液の流れは一変します。肺呼吸が始まると、しぼんでいた肺は一気に広がり、閉じていた肺の血管は膨らんで、そこに血液が流れ始めます。

心臓の血液は肺へと流れるようになり、豊富な酸素を取り込んだ血液は左心房に戻ってきます。肺から左心房に血液が戻ると、左心房の内圧は高くなり、胎児循環に必要だった卵円孔はやがて、自然に閉じていきます。

出生はまた、外敵との接触ももたらします。新生児は子宮を出て腟を通り、外界の微生物と出合うことで、必要な免疫力をつけていきます。

ヒトが「生まれる」ということは、このような命がけの大転換を次々と遂行していく奇跡の物語なのです。

 

どう、少しはイメージできた?

私が生まれるときにもやっぱり、こんな奇跡の連続があったんでしょうか……

もちろんよ。これはナスカさんだけじゃなく、この本を読んでいるみんなにも、同じように起きたことなの

なんだか、すごく不思議な気分です

 

加齢とともに起こるからだの変化と寿命

加齢に伴う身体機能の衰えは、どんな人も避けてとおることはできません。優れた運動選手でも、筋骨格系の能力は35歳までにピークを迎え、その後は次第に衰えていきます(図3)。

 

図3加齢に伴う筋力・姿勢の変化

加齢に伴う筋力・姿勢の変化

 

中年の初期になると、多くの場合、感覚器も衰え始めます。年を重ねると老眼になり、耳が聞こえにくくなります。最初は高い音を聞く能力が低下し、徐々に低音も聞きにくくなります。そのほか、皮下脂肪の減少と腹部脂肪の増加が起こったり、皮膚が薄くなってしわができるなどします。

いまのところ、老化の原因ははっきりとはわかっていません。遺伝的に老化がプログラムされているという説や、さまざまなエラーが蓄積するためであるという説などがあります。

細胞レベルの研究では、生体組織から取り出した細胞を適切な条件で培養しても、細胞分裂の回数にはかぎりがあるということがわかっています。これを、ヘイフリック限界といいます。

細胞分裂の限界に関係しているのは、染色体末端のテロメアという部分です。テロメアはいわば、命の回数券のようなもの。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなり、最終的にこれ以上分裂できない状態で、細胞は死を迎えます。

 

かぎりあるから人生は楽しい

人が生まれ、生きて、死んでいくことには、いったいどんな意味があるのでしょうか。寿命はどんな生物にもやってきます。私たちがもつ身体はしょせん、遺伝子が乗る乗り物に過ぎないのだと考えれば、人生に意味はなく、人は遺伝子を残すために生まれたのだ、と勘違いしてしまいます。

 

有性生殖という大発見は私たちに死をもたらすことで、同時に生の喜びも与えてくれました

どういうことですか?

もしも、命が永遠だったら、と考えてみて。そんな人生、退屈なだけじゃないかしら?

いわれてみれば、そうですね

それに、命が永遠だったら、誰もそれを、大事には思わないでしょう? 人生は、かぎりあるから楽しいの

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典]『解剖生理をおもしろく学ぶ』(編著)増田敦子/2015年1月刊行

解剖生理をおもしろく学ぶ

引用・参考文献 

著作権について

この連載

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