病気の子どもと家族に安らげる場を―ドナルド・マクドナルド・ハウスってどんなところ?

ドナルド・マクドナルド・ハウスは難病の子どもとその家族のための滞在施設です。単に病院のそばで宿泊できるだけなく、子どもの入院で離ればなれになっている家族が集う場であったり、病気の子どもという共通点を持った家族が心を寄せ合う場であったり。付き添いの家族にとって、ハウスはなくてはならない場所です。

 

「地域住民が医療を支える」という新しい考えの下で誕生したハウスの運営は、100%寄付や募金で成り立ち、多くのボランティアがその活動を支えています。

 

 

始まりはあるアメフト選手の活動から

アメリカンフットボール選手として活躍していた、フレッド・ヒルの3歳の娘が白血病と診断されました。娘の治療に付き添う彼が見たのは、病院のソファーで何日も寝起きし、満足な食事も取れずに疲弊する患者の家族たち。彼自身もまた、自宅から病院が遠く離れていたため、精神的に肉体的に、そして経済的に多くの負担を抱えることになりました。

 

「病院のそばに家族が安らげる場所があれば」

 

病院の近くのマクドナルド店舗のオーナーや病院の医師たち、チームメイトらの協力を得て、フレッド・ヒルは募金活動を開始。彼の思いに賛同した多くの人々の支援を受けて、1974年、アメリカのフィラデルフィアで世界第一号のドナルド・マクドナルド・ハウスが開設されました。

ハウスの理念は「Home away from home(第二のわが家)」。患者や家族にくつろげる場所を提供する活動は今や全世界に広がり、ハウスは36カ国339カ所に開設されています(2014年10月現在)。

 

日本では2001年に「せたがやハウス」が誕生して以来、東京や北海道、高知など、小児の高度先進医療を行う病院のそばに9つのハウスが開設されました。利用料金は1人1日1000円。ハウスに隣接する病院で治療中の20歳未満の患者と付き添い家族が利用できます。

 

ハウスの親善大使の「ドナルド」とせんだいハウスマネージャーの中島さん。夜に見ると泣いてしまう子もいるそう…(笑)

 

支えているのはボランティアと企業からの寄付

「せんだいハウス」は、日本で2番目に開設したハウス。宮城県仙台市郊外に建ち、徒歩5分の位置に「宮城県立こども病院」があります。

 

昨年オープンから10周年を迎え、来年には宮城県立こども病院と、医療型障害児入所施設である宮城県拓桃医療療育センターが機能連携することが決まっていて、ますます必要性が高まっているハウスです。

 

せんだいハウスは2階建てでベッドルームが16室あり、利用者が自由に使えるキッチンやダイニング、ランドリーやプレイルームなどを完備しています。

 

せんだいハウスには200名ほどのボランティアが登録してくれている、と教えてくれたのはハウスマネージャーの中島康志さん。職員5名と、高校生から70代までのボランティアで、24時間ハウスの運営・管理を行っています。ボランティアはハウスキーピングが主な仕事。ホテルとは違って、食事や洗濯、清掃などは自宅と同じように利用者が行い、ボランティアがそれを支援する、という形です。

 

そのほかにも庭の管理や手作りのベッドカバーの縫製、ハウスをPRするイベントへの参加など、ボランティアの活動はさまざま。ハウスで食事を作って提供したり、手作りのお菓子を振る舞ったりという「ミールプログラム」に参加してくれる団体もあります。

 

洗剤や事務用品といった消耗品、食材や調味料、おもちゃなど、ハウスで利用できるほとんどが個人や企業からの寄付によるものです。

 

利用者家族が集うリビングルーム。大きな窓から日が差し込む

 

医療スタッフ・ボランティア・ハウス運営者の役割分担

病気の子どもやその家族が滞在する場所なだけに、ハウスは病院と綿密な関わりがあります。ハウス運営に携わることを協議する運営委員会の委員長は、隣接する病院の院長が務めていて、ハウスの状況は病院側でも把握し、ハウスを利用する患者の状況なども、必要がある場合は病院と連携しています。

 

さらに、ハウスと病院のボランティア、病院の医療スタッフで共同の研修会を行ったり、意見交換会を開いて病気の子どもや家族との関わり方などを話し合ったり、といった活動もあるそうです。

 

調味料や食材なども、企業や個人からたくさんの寄付がある

 

では、実際に利用者と接するとき、ハウスではどのようなことに注意しているのでしょうか。「本当に難しいです」と中島さんは話します。

 

「基本的には立ち入りすぎず、『付かず離れず』を心がけています。笑っていても心の中はわかりませんし、皆さんそれぞれ状況が違いますから。もちろんお子さんのことを話したければ聞きますし、『大丈夫ですか』『お食事されていますか』と声をかけることもあります」

 

実際に利用者を対象に行ったアンケートでも「程よい距離感が心地よかった」との声が多く聞かれました。

その上で中島さんらスタッフが気をつけているのは「あいさつ」だといいます。

 

「ハウスから病院に出かけるときの『いってらっしゃい』、帰ってきたときの『おかえりなさい』は欠かさないようにしています。あいさつをすることで、一人じゃないって感じてもらいたくて」

 

「どこかのお母さんがボランティアさんの胸で泣いているのを見ました」

ハウスのベッドルームにはテレビがありません。テレビがあると部屋にこもりがちになってしまうため、あえて設置していないのだそう。

 

炊事や洗濯などで利用者の家族同士が顔を合わせることで自然に言葉を交わし、会話が生まれます。病気は違っていても、同じように悩み、不安を抱える家族同士が交流することが安らぎにつながっているのかもしれません。

 

利用者家族の思いが詰まった「つぶやきノート」

 

ベッドルームには必ず、何を書いてもいいという「つぶやきノート」が置いてあります。

 

「どこかのお母さんがボランティアさんの胸で泣いているのを見ました。みんないっぱいいっぱいなんだって感じました。優しい言葉をかけられると泣いてしまいそうになります」

 

「難しい年頃の息子と治療方針が合わずに悩んでいましたが、同じ年頃のボランティアさんと話すことができて助かりました」

 

「どうしてこの子だけが、と思うことは今でもあるけど、ここに来るとみんながんばってるってわかる」

 

ノートには子どもの病気に対して何もしてあげられない無力感、ハウスやボランティアへの感謝、退院が決まった喜びなど、率直な思いがつづられています。両親だけでなく、祖父母のコメントもたくさん見られました。

顔を合わせる以外でも、利用者の家族同士が思いを共有できる大切なツールです。

 

ハウスは家族にとって必要不可欠な存在

ハウスは付き添いの家族が寝泊りするだけの場ではありません。ずっと付き添いをしている家族が面会時間外にハウスでリフレッシュしたり、普段は家で留守番をしているきょうだいがお母さんに会って甘えたり、子どもの外泊許可がおりたときにハウスで一家だんらんしたり。ときにはリビングで、滞在している家族を巻き込んで子どもの誕生会を開くこともあります。

 

「こんな部屋もあるんです」と中島さんが見せてくれたのは、広々としたベッドルーム。ほかの部屋と違い、バスルームやトイレだけでなく、キッチンやダイニングがあります。

 

「長期入院している子が退院の練習をしたり、利用者さんの中には6人きょうだいなんて子もいて、ここで全員が顔を合わせたりするんですよ」

 

病気の子どもにとって、いつでも家族がそばにいることほど心強いことはありません。家族も1秒でも長くそばにいてあげたいと思うことでしょう。しかし、付き添う家族は子どもの病気を気にかけつつ家に残してきた家族のことも心配し、家にいる家族もまた心細い思いをしています。そんな家族にとって、ハウスはかけがえのないない存在です。

 

40周年を記念した、ドナルドとおそろいの「スマイルソックス」。ハウスで300円募金ごとにプレゼントしてくれる

 

ことしの10月、ハウスは誕生から40周年を迎えました。今までもこれからも、たくさんの家族の絆を守るためハウスの活動は続いていきます。ハウスの活動を応援するにはさまざまな方法があります。ボランティアに参加する以外に各ハウスで募集しているサポート会員になったり、振込や振替で寄付したり、マクドナルドの店頭で募金に協力する方法もあります。さらに、ハウスでは物品の寄付も募っています。HPでは各ハウスで不足している日用品の「ウィッシュリスト」を掲載しています。

 

医療を提供することはできないけれど、自分たちのできることで患者を支えたい。ハウスはたくさんの人たちの善意によって運営されています。

 

【看護roo!編集部】

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