脳神経看護で大切なことは?

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』より転載。
今回は脳神経疾患をもつ患者さんの傾向や看護の基本について解説します。

 

大澤玲奈
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師

上野正文
東海大学医学部付属八王子病院看護部次長

 

 

脳神経看護でみる患者さんってどんな人?

中高年を中心に、年齢層はさまざま

脳神経疾患を代表する脳卒中の好発年齢は中高年です。中高年はさまざまな疾患を発症しやすく、好発年齢が中高年に該当する脳神経疾患は脳卒中以外にも数多くあります。

 

なかには小児や成年期に好発する疾患もあり、脳神経看護の対象は、さまざまな年齢層の患者さんということになります。

 

脳神経の主要疾患は脳血管障害

脳血管障害は、脳血管に関する疾患の総称です。虚血性、出血性だけでなく、無症候性や慢性変化による病態、血管性認知症や、高血圧性脳症なども含まれます(図1)。

 

図1脳血管障害の分類(NINDS-Ⅲ)

★1 一過性脳虚血発作(TIA;transit ischemic attack)
★2 脳動静脈奇形(AVM;arteriovenous malformation)

 

脳卒中は突然発症し、神経症状を伴う

脳卒中は、時に脳血管障害と同義で使われます。血管の狭窄や閉塞による虚血性疾患と、血管の破綻による出血性疾患に分けられ、脳出血クモ膜下出血脳梗塞があります。

 

脳卒中は突然発症し、神経症状を伴うのが大きな特徴です。「卒」は突然、「中」はあたる(あたって倒れる:卒倒)を意味しています。

 

脳卒中は、わが国の死因の第4位です(平成30年[2018年]人口動態統計より)。

 

memo:死因順位

第1位: 悪性新生物(腫瘍)
第2位:心疾患
第3位:老衰
平成30年(2018年)人口動態統計より

 

脳卒中は介護が必要となる原因疾患の1つです(図2)。認知症(18.7%)に次いで、脳卒中は第2位であり、男女別にみると、男性では脳卒中が1位となっています(平成28年[2016年]国民生活基礎調査より)。

 

図265歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因

図2:65 歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因

内閣府:平成30年版高齢社会白書.2018:32.より引用(2020.2.25アクセス)

 

基礎疾患・生活習慣の管理が重要

単純に脳血管障害の治療だけ行えばよいのではなく、基礎疾患および生活習慣の管理も必要になるのが特徴です(図3)。

 

図3脳卒中患者の特徴・リスクファクター

図3:脳卒中患者の特徴・リスクファクター

 

発症の要因は何か、基礎疾患・生活習慣に目を向けて情報収集をします。さらに、退院・再発予防・継続治療をするためにも、もともとの生活を把握し、生活改善に向けたアプローチが必要です。

 

memo:糖尿病

糖尿病は脳卒中のリスク因子となることに加え、高血糖の持続で微小血管が障害されることにより、神経障害を引き起こす(糖尿病性ニューロパチー)。

 

脳神経の障害部位によって症状が異なる

脳神経疾患をもつ患者さん(図4)は、身体機能障害のほかに、社会的・心理的にも障害を抱え、生活スタイル、社会関係、自己概念に大きく変化が生じます。

 

図4脳神経疾患の患者イメージ

図4脳神経疾患の患者イメージ

★1 運動麻痺
★2 言語障害
★3 認知機能障害
★4 ドレナージ
★5 脳卒中リハビリテーション

 

脳神経疾患によって生じる症状はさまざまです。脳神経のどの部分にどの程度のダメージを負っているかによって症状は変わります。

 

症状が完治する人、改善する人もいれば、後遺症が残る人、悪化する人もいます。発症後の経過は、疾患によっても患者さん個々によってもさまざまです。

 

自立生活が困難になる例が多い

脳神経疾患による症状、後遺症などで自立した生活が困難になるケースが多いのが特徴です。

 

自立した生活に復帰する人もいれば、介護や社会資源などのサポートを要する人、自宅退院が困難となりリハビリテーション病院や療養施設などに転院しなければならないケースもあります。

 

脳神経疾患の患者さん・家族を支えるチームを図5に示します。また、チーム医療で看護師が果たす役割は表1のとおりです。

 

図5脳神経疾患の患者さん・家族を支えるチーム

 

図5:脳神経疾患の患者さん・家族を支えるチーム

 

表1チーム医療における看護師の役割

表1:チーム医療における看護師の役割

 

意思決定支援など倫理的側面が課題となる

脳神経のダメージによる意識障害や認知機能低下、認知症をもつ患者さんの意思決定など、倫理的側面が課題となるのも特徴の1つです。

 

医療の現場では、「患者さん・家族がどうしたいか? どちらにするか?」など、意思決定を下さなくてはならない場面が多々あります。しかし、脳神経疾患の場合、患者さんが意識障害や認知機能障害などによって自らの意思表示が困難な場合は、家族または第三者などが代理で意思決定をしなくてはなりません。

 

意思表示が困難な患者さんの思いを考えたり、代理で意思決定をしなければならない家族の戸惑いや、揺れ動く心理状態に寄り添う看護師は、倫理的ジレンマを感じることがあります。患者さん・家族の心理状態に介入するのは難しいことですが、とても重要です。

 

意思決定支援には、医師や医療ソーシャルワーカー(MSW;medical social worker)、臨床心理士など、さまざまな職種と連携してかかわります。

 

経過が進むにつれて、患者さんの状況をみている家族は、「あのときの決断は正しかったんだろうか」と後々、不安や葛藤を抱くこともあります。

 

医療者は、そのときその場で患者さん・家族の思いに向き合って心理的ケアを継続していく必要があります。

 

 

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脳神経看護で大切なことは?

脳神経看護の基本となるもの

ここでは、脳神経の看護領域で働く看護師の誰もが身につけるべき、看護の基本を示します。

 

まずは、患者さん・家族に信頼してもらえるマナーを身につけることが重要です(表2)。

 

表2患者さん・家族に信頼してもらえるマナー

表2:患者さん・家族に信頼してもらえるマナー

 

0:患者さんを見る診る視る看る

患者さんのバイタルサインを大切にしましょう(図6)。血圧、脈拍は看護師が計測するものです。脈拍は触診するものであり、自動血圧計やSpO2モニターが教えてくれるものではありません。

 

検温は決められた時間だけ行えばよいのではありません。熱型を考えて体温を測りましょう。

 

図6五感を使う

図6:五感を使う

 

memo:「変わらない」ことも評価する

患者さんの症状も意識レベルも変わらない、指示内容も変わらない場合に、ただ「何も変わっていない」とだけで終わらせていないだろうか。

日々患者さんの情報収集をしながら、日々変化したこと、変化しなかったことを確認していく必要がある。

意識障害が遷延している患者さんでも、変わらずに1日過ごせた事実を評価することが大切である。

 

1:呼吸を助ける

安楽な呼吸を促進する姿勢を保持することは、看護師の責任です。

 

SpO2値だけが呼吸状態を表すものではありません。呼吸数、深さ、リズムなど、呼吸パターンを確認しましょう(図7表3)。

 

図7呼吸状態の観察

図7:呼吸状態の観察

 

表3呼吸パターンの異常

表3 呼吸パターンの異常

 

memo:呼吸状態の変化は急変の予兆

夜間帯に急変した患者さんを振り返ると、昼間からいつもより息苦しそうで活気がなかった、ということがある。

呼吸回数の増加・意識レベルの低下は、急変の徴候であることが考えられる。

「酸素投与をしていてSpO2が正常だから大丈夫」ではなく、呼吸数や呼吸の深さを観察することが大切である。

 

2:患者さんの飲食を助ける

患者さんの食事内容(食事の種類、形態、摂取カロリー)、栄養状態(タンパク、アルブミン値、血糖値、身長、体重)、食事摂取量を把握しましょう。

 

アレルギーの有無、嗜好を把握しましょう。

 

患者さんの口の中の状態(衛生状態、義歯の有無と部位、口腔ケアの方法、口内炎、潰瘍の有無)を把握しましょう。

 

3:患者さんの排泄を助ける

1日の排泄量IN・OUTバランス体重の推移を把握しましょう。

 

患者さんの意向と日常生活動作(ADL;activities of daily living)に合った排泄環境を整えましょう。

 

摂取したものが排泄されているかモニタリングすることも看護師の役割です。その日の状態しかみていないのでは意味がありません。排便がない場合、いつからないのかを確認しましょう。

 

排便がない場合、下剤が必要であることや、腹部の異常が潜んでいることも考えられます。安易に浣腸を施すことは、頭蓋内圧の亢進を引き起こすので禁忌です。

 

ベッドサイドで便器、尿器がむき出しになっていませんか? 患者さんの尊厳が守られているかを注意しましょう(図8)。

 

図8患者さんの尊厳を守る

図8:患者さんの尊厳を守る

 

memo:排泄と食事

排泄は、食事内容と合わせて確認する必要がある。食事に患者さんが消化できないものがあれば、変更を検討する。

 

4:患者さんが望ましい姿勢を保持するよう助ける

患者さんの姿勢を正しく保ちましょう図9)。

 

患者さんの安静度ADL関節可動域(ROM;range of motion)リハビリテーションの状況(時間、担当スタッフ)を把握しましょう。

 

患者さんが日常生活に使用する物品を適切な位置に置きましょう。

 

病室・病棟・廊下は移動時の安全を保ちましょう。

 

図9悪い姿勢とよい姿勢

図9:悪い姿勢とよい姿勢

 

5:患者さんの休息と睡眠を助ける

患者さんの睡眠を妨げないよう、話し声や物音などに配慮しましょう。意識障害の患者さんが多いと、ついつい声が大きくなりがちです(表4)。

 

表4患者さんの睡眠のために気をつけること

表4:患者さんの睡眠のために気をつけること

 

6:患者さんが衣類を選択し、着たり脱いだりするのを助ける

衣類の選択

患者さんの衣類や寝具が常に清潔であるか確認しましょう(表5)。

 

患者さんの状態や環境に応じた衣類・寝具であるかも確認し、患者さんが快適に過ごせるようにします。

 

表5衣類・寝具の観察

表5:衣類・寝具の観察

 

衣類の着脱

着脱を介助する際は、患者さんの体位を安定させ、短時間で済ませるようにします(図10)。

 

四肢の着脱は、手・肘関節、足・膝関節をしっかり支えて行い、患者さんに負担がかからないようにしましょう。

 

図10衣類の着脱

図10:衣類の着脱


 

7:患者さんが体温を正常範囲内に保つのを助ける

意識障害がある患者さんは自ら暑い・寒いと言うことができません。冷暖房はつけっぱなしにせず、温湿度計を参考に室温調節しましょう。看護師と患者さんでは、体感温度は異なります。

 

患者さんの状態に合わせて布団やタオルケットを選択しましょう。

 

直射日光が当たらないように注意し、風向きを考慮したベッド配置にしましょう。

 

8:身体を清潔に保ち身だしなみよく、また、皮膚を保護するのを助ける

患者さんの清潔を常に保ちましょう(表6図11)。意識障害がある患者さんは自らニーズを表出することができません。患者さんの汚れは看護の汚れです。

 

表6清潔を確認するポイント

表6 清潔を確認するポイント

memo:口腔内の状態は看護ケアの質を表す

口腔内の状態は、看護ケアの質を最もよく表すものの1つといえる。

ヘンダーソンは、意識を失っている人の口腔を清潔に保つのは非常に難しく、また危険な仕事であり、熟練した看護師でないと、有効にしかも安全に実施できないと言っている。

 

図11口腔の清潔を保つ

図11:口腔の清潔を保つ

memo:看護のアート

環境整備・シーツ交換・食事介助をヘルパーさん任せにして、「私の仕事」ではないと思っていないだろうか。こうした仕事も大切な「看護のアート」である。

 

9:患者さんが環境の危険を避けるのを助ける

患者さんが療養する環境は衛生的であるか、患者さんがつまずいたり、転んだりする危険がないかを確認しましょう。

 

転倒・転落の予防

廊下やベッドサイドに不必要な物品を置くことは避けます。

 

オーバーテーブルや床頭台を整理整頓します。

 

適切な履き物を選択します。

 

医療機器の準備

脳神経系疾患の患者さんはいつでも急変する可能性があるため、医療機器はすぐに使えるよう準備しておきます(図12)。

 

図12医療機器の確認ポイント

図12:医療機器の確認ポイントつ

 

感染対策

清潔な手でケアを行い、患者さん、家族、自分を守りましょう。手袋やエプロンはケアごとに交換します。

 

memo:感染症を拡げる医療者の手

1日のうちで何度患者さんに触れているだろうか? その手は清潔だろうか?

感染症から患者さんを守るのは医療者の手である一方で、感染症を拡げるのも医療者の手であることを意識し、感染予防に努めよう。

 

10:患者さんが他者に意思を伝達し自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける

意識障害がある患者さんは、自らの意思を表出することは困難です。看護師は患者さんの代弁者になりましょう。

 

患者さんが入院生活の中で感じている不快や窮屈な思いに寄り添い、少しでも快適な療養生活となるように努力しましょう。

 

患者さんや家族の、「どうなりたいのか」「どうしたいのか」という意思・思いを引き出しましょう。また、患者さんの欲求や希望については、ほかの看護師や医療スタッフと話し合い、共有しましょう。

 

memo:直接触れ合うことで、気持ちを伝え合う

苦痛を理解したいとき、努力を認めてあげたいとき、悲しい気持ちに寄り添いたいとき、回復を一緒に喜びたいとき、患者さんにやさしく触れてみよう。言葉だけのときより、もっと気持ちが通じ合うはず。

 

11:患者さんが自分の信仰を実践するのを助ける

『看護者の倫理綱領』(日本看護協会)には、民族・宗教・人種を越えて対象となる人々に平等に看護を提供することが記されています。患者さんに自分たちの価値観を押しつけていないか、すべての患者さんに対して平等に看護を提供しているか、常に考えましょう。

 

memo:看護者の倫理綱領

病院、地域、学校、教育・研究機関などあらゆる場で実践を行う看護者を対象とした行動指針。

 

12:患者さんの生産的な活動あるいは職業を助ける

患者さんの入院前の情報を収集し、どんな仕事や役割をもっていた人か、どんな習慣をもっていた人か、といった背景を把握しましょう。

 

患者さんが今、何をして過ごしているかを観察し、気分転換だけではなく、患者さんができる“仕事”がないかを考えましょう。

 

13:患者さんのレクリエーション活動を助ける

入院生活の中で、患者さんが楽しい気分になるような機会をつくりましょう。

 

音楽・読書・テレビ・ゲーム・散歩、ほかの人々との交流を通し、気分転換や喜びとなり、生活の流れにのっていると思えるように援助しましょう。

 

14:患者さんが学習するのを助ける

看護の目的を追求すると、患者さんや家族の学習を助けることは必然となります。患者さんの学習を助けるためには、患者さんの希望と、生活背景(住所・家族背景・家屋の状態・キーパーソン・経済状態)を把握する必要があります。

患者さんの自立を促しながら、温かみのあるかかわりをもつことが大 切です。過剰に手助けをするのではなく、努力を強制するのでもな く、患者さんの自尊心を大切にして、希望と目標を共有しましょう

 

memo:看護の目的

1:患者さんの自立性を可能なかぎり取り戻す

2:患者さんが制限があるなかでできるかぎり有意義に生きるのを助ける

3:患者さんの避けられない死を、患者さん・家族が“安らかに亡くなった”と受け止められるようにする

 

 

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脳神経疾患の経過

まずは一般的な脳神経疾患の経過の全体像をつかみましょう

表7-1脳神経疾患の発症から入院・診断、急性期

表7-1:脳神経疾患の経過1

★1 状態観察
★2 心理的サポート
★3 リハビリテーション

 

表7-2脳神経疾患の回復期、慢性期、維持期

表7-2:脳神経疾患の経過2
★4 退院支援

 

表7脳神経疾患の経過 一覧

横にスクロールしてご覧ください。

表7:脳神経疾患の経過 一覧

★1 状態観察
★2 心理的サポート
★3 リハビリテーション

★4 退院支援

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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