生理食塩液のネブライザー投与、痰をやわらかくするには意味がない?

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
痰をやわらかくするためのケアについて解説します。

 

南雲秀子
東京医療学院大学保健医療学部看護学科助教

 

生理食塩液のネブライザー投与、痰をやわらかくするには意味がない?

 

一時的に痰はやわらかくなりますが、しばらくすると元に戻るでしょう。
身体への水分補給のほうが、自然で長続きします。

 

〈目次〉

痰はある程度やわらかくなるものの…

従来より、痰をやわらかくするために、滅菌蒸留水や生理食塩液、あるいは生理食塩液を滅菌蒸留水で半分に希釈した半生食などを使う吸入療法が行われてきました。これらはいずれも、霧状の水分を固い痰の存在する気管や気管支に吸入させて喀痰の粘稠度を下げようとするもので、実際に痰はある程度やわらかくなります。

 

気管や気管支の表面には粘液を分泌する細胞があり、通常は、それらの細胞が分泌した粘液の水分によって、喀痰はある程度の固さにコントロールされ、咳嗽によって排泄できるようになっています。

 

これらの粘液は、肺に吸い込まれた比較的乾燥した外気(吸気)によって多少の蒸発をしています。しかし発熱で換気量が多いときや、脱水症状で体液量が減少したときには、分泌量に比較して蒸発する水分が多くなり痰が固くなります。したがって、ネブライザーによって吸気の水分量を増やすようにすれば、気管の表面にある粘液が蒸発しなくなり、喀痰はやわらかくなります。

 

ただし、この方法はネブライザーを使っているときにしか効果がありません。例えば、ネブライザーを20分間使用したとします。その間に痰がやわらかく出しやすくなっても、終了してしばらくすると、気管や気管支の表面は、以前と同じ状態に戻ります。ですから、しだいに痰が固くなるのは当然です。「1日3回のネブライザー療法をして、その後1時間だけ痰が出しやすくなる」というのでは、十分な治療にならないかもしれません。

 

身体への水分供給(飲水、補液)が大切

肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪で、発熱や脱水症状がある患者さんならば痰をやわらかくして嗽によって痰を出し、気道のクリアランスを改善することが大切です。しかしこのような患者さんには、ネブライザーを使用して吸気の水分補給をするよりも、患者さんの身体への水分の供給を増やすことが、より自然で効果的です。

 

つまり、飲水を促すか、それがだめならば輸液等による補液量を増やします。それにより、粘液の分泌が増えて痰がやわらかくなります。

 

なお、心不全などで飲水量に厳しい制限のある患者さんには、医師の指示により去痰薬で痰をやわらかくします。痰がやわらかくなれば弱い咳でも痰が出しやすくなり、気管内に溜まった痰が少なくなれば呼吸困難が軽減して換気量が減り、さらに痰が固くなりにくくなるでしょう。

 


[文献]

  • 1)日本呼吸器学会 COPDガイドライン第4版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版.メディカルレビュー社,東京,2013;108-110.

 


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P.38「生理食塩液のネブライザー投与、痰をやわらかくするには意味がない?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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