そもそも不穏って何?|不穏のメカニズム、せん妄との違い

『エキスパートナース』2014年12月号<不穏への対応>より抜粋。
不穏について解説します。

 

大上俊彦
亀田総合病院心療内科・精神科部長代理

 

そもそも不穏って何?どんなメカニズムで現れるの?
せん妄とはどう異なるの?

 

不穏とは“行動が活発になり、落ち着きがない状態”のことで、せん妄などさまざまな原因により生じます。
せん妄は、“身体疾患などが原因で生じる意識障害の一種”です。

 

図1不穏とせん妄の現れ方(イメージ)

不穏とせん妄の現れ方(イメージ)

 

Point

  • 不穏の中にはせん妄が含まれている場合もある。
  • 不穏は“落ち着きがない状態”を表す言葉であるが、せん妄は“ある種の意識障害を指す診断名”である。

 

〈目次〉

 

不穏とは、行動が過剰で落ち着かない状態のこと

落ち着きがないことも、暴れることも不穏と呼ばれる

「不穏」とは、文字通り「穏やかでないこと」を意味します。状況が不安定で危機や危険をはらんでいる、というニュアンスもあります。

 

医療場面でも「不穏」という言葉はもちろん「穏やかでない」という意味で使われますが、「過剰な動き」「行動の増加した状態」などとされ、落ち着きがなくなったり、叫んで暴れたりする状態のことを言います(図1-①)。また、「治療を拒否したり、ラインを抜いたりする」といった行動も不穏患者さんに見られることがあります。

 

なお、英語ではagitation(アジテーション:動揺、興奮)、あるいはrestlessness(レストレスネス:落ち着かないこと)などの単語が不穏に相当するようです。

 

身体的苦痛やせん妄、不安が不穏を引き起こす

不穏はさまざまな原因により現れます。痛みが強い、息が苦しいなど強い身体的苦痛があると不穏になることはあります。また、強度の不安などによって不穏が生じることもあります。

 

薬剤の副作用や離脱症状で不穏になったり、アルコールの離脱症状で不穏になる場合もあるでしょう。また、次項で述べるせん妄も、不穏をきたす重要な原因の1つです。

 

せん妄は、見当識障害などの意識障害がある状態

せん妄では、覚醒度にムラがみられる

不穏と似た言葉に「せん妄」があります(図1-②)。

 

せん妄は患者さんに認められる「ある種の意識・認知機能障害を呈する状態」につけられた名称(診断名)で、結果的に不穏を呈することが多いです。

 

せん妄の症状としては、見当識、記憶、注意力に障害があったり、時間によって覚醒度にムラがあることが挙げられます。

 

また、定義にはさまざまなものがあり、代表的なものとして以下が挙げられます。

 

  • 比較的急性で、多くは一時的な、中等度あるいは軽度の意識障害(意識混濁)にさまざまな精神症状(幻覚や妄想、興奮や困惑など)を伴う状態(文献1
  • 身体疾患や中毒の結果として起こってくるところの、急性で変動する意識障害・認知機能障害(文献2

 

意識障害をきたす疾患はせん妄につながりやすい

せん妄の原因とメカニズムの詳細については『不穏につながりやすい疾患は?内服薬は?』などに示しますが、大切なことは、せん妄は意識障害の一種である、ということです。

 

したがって、意識障害をきたすような疾患や症状(表1)があればせん妄が生じやすいと言えます。

 

表1意識障害をきたす疾患や症状

意識障害をきたすようなエピソードがあると、せん妄につながりやすい

 

不穏にせん妄が伴う場合と伴わない場合がある

不穏は“行動に着目”しており、せん妄は“意識に着目”している点が異なります。不穏とせん妄は両方とも現れる場合と、どちらかが単独で現れる場合とがあります(図1)。

 

「せん妄」と聞いたときイメージする患者さんは、不穏という言葉からイメージする患者さんと似ているのではないでしょうか? この理由は、このように不穏とせん妄の2つが同時に現れるためです。

 

一方、「不穏ではないせん妄」(例:ぼーっとしていてあまり動かないが、記憶や見当識がおかしくなっている状態〈低活動性せん妄〉)も「せん妄ではない不穏」(例:記憶や見当識などしっかりしていて意識障害はないが、痛みに耐えられなくて落ち着かない状態)もあります。

 

不穏とせん妄の関係は、例えて言えば、「自殺企図」と「うつ病」の関係のようなものです(図2)。

 

図2不穏とせん妄の関係

不穏とせん妄の関係

 

自殺企図」とは自殺しようとする“行動”に着目しており、「うつ病」は、気分や感情などの“状態に着目したもの(診断名)”です。

 

このツールは,患者との会話や病歴聴取,看護記録,さらには家族からの情報などによって得られる全情報を用いて評価します。せん妄の症状は1日のうちでも変転するため,DSTは少なくとも24時間を振り返って評価します。

 

「自殺企図」があれば必ず「うつ病」と診断できるわけではないし、「自殺企図」のない「うつ病」もあるし、「うつ病」ではない「自殺企図」というものもあるわけです。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)酒井郁子,渡邉博幸編:“どうすればよいか? に答える”せん妄のスタンダードケアQ&A100.南江堂,東京,2014;120.
  • (2)深尾憲二朗:せん妄の症状と精神病理.精神科治療学2013;28(8):977-984.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.73~「そもそも不穏って何?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年12月号/ 照林社

SNSシェア