聴診器を当てるべき場所(疾患別)|基礎編(8)

 

聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説します。
構成は、聴診器の使い方から呼吸器の構造を解説した【基礎編】と、疾患の解説と筆者が臨床で遭遇した症例の聴診音を解説した【実践編】の2部に分かれています。基礎編は全8回にまとめましたので、初学者はまずはここからスタートしてください。

 

[前回の内容]

副雑音の特徴|基礎編(7)

 

基礎編ラストの第8回目は、「聴診器を当てるべき場所(疾患別)」についてのお話です。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

聴診器の使い方や呼吸器系の解剖生理、呼吸音・副雑音の特徴などについて解説してきましたが、ひと通りは理解できましたか?

 

はい。今まで何となく聴診音を聴いていましたが、それぞれの音に意味があったり、聴診ってものすごく大切なことだったんですね。

 

わかってもらえて良かったです。
聴診は簡単そうに見えますが、実はものすごく奥が深い、重要な医療行為なんです。
これがわかれば、基礎編はもう卒業ですね。

 

次からはいよいよ実践編かぁ。
聴き漏らさないように、しっかりと音を聴いていきますよ~!

 

慌てない、慌てない。
実践編に行く前に、実際の患者さんを聴診する際、どこを重点的に聴診したら良いかをここで解説しておきます。
実臨床でとても役に立つポイントですので、大切ですよ。

 

〈目次〉

 

疾患ごとに聴診器を当てる位置は異なる

疾患によって、音がよく聴こえる位置(聴診器を当てるべき位置)があります。そのため、聴診時には、聴診器を適切な位置で、患者さんの胸壁にしっかりと密着させて音を聴きましょう。

 

ここでは、代表的な疾患の患者さんに対して、聴診を行う場合のポイントを紹介します。

 

気管支喘息の患者さんは前胸部の頸部に当てる

気管支喘息を発症している患者さんでは、吸気または呼気時に笛音が聴こえます。特に聴診器を当てるべき位置は、図1です。

 

図1気管支喘息発作の患者さんの聴診位置

 

気管支喘息発作の患者さんの聴診位置

 

特に、前胸部の頸部を中心に聴きましょう。

 

副雑音は、肺野(気管支の末梢から肺胞のある肺の奥の部分)よりも気管や気管支領域で聴こえることがあるため、頸部を中心に音を聴くことが大切です。

 

胸部で聴こえる音が、頸部や口元で聴こえない場合は、病変がかなり末梢の気管支で発生していると判断できます。場合によっては、通常の聴診だけでなく、強制呼気も行いましょう。

 

強制呼気とは、患者さんに息を吸ってもらった後、おもいっきり息を吐き出してもらう方法です。これを患者さんに上手に行ってもらうためには、聴診時に「はい、吸って~」「強くフーっと吐いて~」などと声かけすると良いでしょう。

 

memo笛音は多重奏に聴こえたり、頸部でも聴こえる

笛音は、複数の音が聴こえる場合(笛音の多重奏)と、1種類の音のみが聴こえる場合があります。スクウォークは頸部では聴こえませんが、胸部で聴こえる笛音の90%は頸部でも聴こえます

 

また、聴こえる笛音の高さは、口元からの距離の近さに比例するのではなく、気管支壁の硬さと狭窄部位の狭さに依存します。そのため、複数の笛音が聴こえる場合、気管が狭窄している可能性があります。

 

気管支拡張症の患者さんは前胸部と側胸部の中下肺野に当てる

気管支拡張症を発症している患者さんでは、肺の中肺野(または舌区)に異常を生じていることが多いです。そのため、両側胸部ブラジャーの当たる乳房領域~側胸部)を中心に音を聴きましょう(図2)。

 

図2気管支拡張症の患者さんの聴診位置

 

気管支拡張症の患者さんの聴診位置

 

特に、前胸部の中下肺野を中心に聴きましょう。また、側胸部も前胸部と同じ位の高さの位置を聴きましょう。

 

時々、気管支拡張症の患者さんで、いびき音が聴こえることがあります。これは、粘り気のある分泌物(例:喀痰)が気道の壁に貼り付き、空気の流れによって振動することが原因です。そのため、気管支拡張症の患者さんのいびき音を確認するためには、患者さんに咳払いを行ってもらい、いびき音が消失するかを確認すると良いでしょう。

 

間質性肺炎の患者さんは両側下肺野(特に背側)に当てる

間質性肺炎を発症している患者さんでは、両側肺の下部に病変があることが多いです。そのため、まずは背側(背部)から聴診を行い、特に下部を中心に聴診器を当てましょう(図3)。この位置で、吸気時に捻髪音が聴こえるかどうかを聴きましょう。

 

図3間質性肺炎の患者さんの聴診位置

 

間質性肺炎の患者さんの聴診位置

 

特に、前胸部は下肺野を中心に聴きましょう。背部は中肺野下肺野の辺りを中心に聴きましょう。

 

呼吸音が聴こえにくくても安心しない

患者さんのなかには、呼吸音が聴こえにくい方もいます。しかし、呼吸音が聴こえにくいからといって、疾患ではないという理由にはなりません。特に、胸水や気胸無気肺のほか、COPD(chronic obstructive pulmonary disease;慢性閉塞肺疾患)や喘息重積発作、肥満の患者さんでは呼吸音が弱くなる特徴があります。

 

また、偶然、音が聴こえなかったという可能性もあるため、安易な判断はしないようにしましょう。例えば、仰臥位から座位にして、すぐに聴診をすると捻髪音が聴こえることがあります。

 

呼吸音を聴く際は、一度だけでなく、同じ場所で複数回聴くことが重要です。

 

Check Point

  • 呼吸音を聞く場合、まずは前胸部と背部をまんべんなく聴診する習慣を身につけよう。
  • 気管支喘息の患者さんは前胸部の頸部を、気管支拡張症の患者さんは前胸部と側胸部の中下肺野を、間質性肺炎の患者さんは両側下肺野(特に背部)を中心に聴く。
  • 呼吸音が聴こえにくくても安易な判断をせず、何度も同じ場所で音を聴く。

 

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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