中枢神経と末梢神経|感じる・考える(2)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、神経系についてのお話の2回目です。

 

[前回の内容]

神経細胞とグリア細胞|感じる・考える(1)

 

解剖生理学の面白さを知るため、感覚がとらえた情報を分析し、考え、身体を動かす役割を担っている神経細胞とグリア細胞について知りました。

 

今回は、情報を分析したり、伝えたりする中枢神経と末梢神経の世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

神経細胞のかたち

神経細胞の核は、星形のような神経細胞体のちょうど真ん中あたりにあります。枝分かれしているように見える部分は、樹状(じゅじょう)突起です(図1)。

 

図1神経細胞

 

神経細胞

 

神経細胞体から細長く糸のように伸びているのは軸索じくさく)(神経突起)です。神経細胞体が受け取った情報は、この軸索を伝って次の細胞へと伝えられます。カハールが指摘したように、樹状突起から神経細胞体、そして軸索へという情報の流れは一定で、変わることはありません。軸索は極細の線維のようなので、神経線維ともよばれます。

 

神経細胞どうしは、シナプスを介して情報伝達するのは覚えているわね?

 

はい。神経線維を通った電気信号がシナプスに到達すると、シナプス小胞から神経伝達物質が放出されて、それが次の神経細胞へ伝わるんですよね

 

そう。まるでバトンリレーのようにね

 

神経細胞が興奮するのは、電解質が細胞の中と外を出入りして、電位が変化するからでした

 

そうそう、それを活動電位といいました。ちなみに、活動電位を発生させるためには、ある程度の強さの刺激が必要です。それ以下の刺激では、神経細胞は興奮しませんし(=0)、それ以上どんなに強く刺激しても、興奮の度合いは変わりません(=1)

 

感覚受容器はAD(アナログ-デジタル)交換器

目やなどの感覚系が受けとる外部情報は、すべてアナログ情報です。私たちの視覚は、光を単なる「光」として認識するだけではなく、それが太陽の光なのか、蛍光灯の光なのか、または強い光なのか、弱い光なのかを、瞬時に識別することができます。

 

また、私たちの聴覚は、流れてくる音がピアノの音色なのか、犬の鳴き声なのかはもちろんのこと、それが心地よい音なのか、耳障りな音なのか、なつかしい音なのかという細かな「感じ」まで、つぶさに感じることができます。

 

ところがどうでしょう。それらの情報が神経細胞を伝わるとき、私たちが受け取った「感じ」は、「1」か「0」の組み合せしかないデジタルな信号に置き換えられています。

 

神経細胞は「興奮している(1)」か「静止している(0)」か、の2つの状態だけで、それはまるで、「トン(短点)」と「ツー(長点)」の組み合わせで表現される、モールス信号のようなものです。

 

このような無味乾燥なデジタル信号だけで、私たちはどうやって、複雑な「感じ」を実感することができるのでしょうか?

 

その秘密は、身体に備わったAD変換機能、つまり感覚受容器にあります。

 

たとえば、先のとがったペンシルを手のひらに押しつけ、皮膚を圧迫したとしましょう。その度合いが強くなると、皮膚にある感覚受容器はインパルス(電気的な信号)の発生頻度を増加させることで、その「感じ」をへと伝えます。

 

つまり、「刺激の強さ」というアナログな情報は、感覚受容器によって「発生頻度の増加」というデジタルな信号に置き換えられるのです(図2)。

 

図2感覚受容器はAD交換器

 

感覚受容器はAD交換器

 

それだけではありません。デジタルに置き換えられた信号が脳へと到達すると、脳の神経細胞は信号が意味する内容ごとに分析して、再びアナログ情報に変換します。

 

私たちはこうしてはじめて、実際に見たり、聞いたり、触れたりした「感じ」を、脳で実感することができるのです。

 

ということはつまり、感覚受容器が正常でも、受け取った情報を脳で再びアナログ情報に置き換えられないと、音も光も実感できない、ってことですか?

 

そうなの。ちなみに、私たちが利用するコンピュータも、実はこの情報伝達の仕組みを応用してつくられています。先端的なコンピュータが実は人間の機能を参考につくられたなんて、なんだか不思議でしょ

 

アナログからデジタル、そしてアナログへ、か。複雑だけど、よくできてますね

 

感覚によって人は行動できる

人間には実にさまざまな感覚が備わっています。五感とは、解剖生理学でいうところの特殊感覚、つまり、頭部のかぎられた場所(眼、耳、鼻、舌など)で受け取る感覚のことで、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、平衡覚がそれにあたります。

 

私たちの身体では、五感以外にもたくさんの感覚が機能し、内外からの情報を受け取って中枢神経へと伝えています。全身の広い範囲で受け取られるこれらの感覚は、一般感覚とよばれます(表1)。

 

表1感覚の種類

 

感覚の種類

 

それにしても、私たちはなぜ、このようにたくさんの感覚をもつに至ったのでしょうか。それはおそらく、植物と違い、自由に動きまわるためだと考えられます。自由に動きまわるということは、常に変化する環境に適応しなければならないということであり、それだけ危険も伴います。

 

発達した感覚系は、危険を未然に防ぐ重要な手助けになります。また、私たちが起こす行動のきっかけとなるのも、眼や耳のような感覚器から入ってくるさまざまな刺激です。

 

「光」「音」「におい」などの刺激は、感覚受容器で神経情報に変換され、中枢神経系において統合・処理されて一定の行動を起こす指令となります。そしてこの指令が、効果器である筋肉などに伝わって、さまざまな行動が発現します。

 

感覚とは、行動を起こすきっかけになるもので、人間を刺激する重要なスパイスでもあるのです。

 

感覚が伝わる仕組みは共通

どんな刺激を身体のどこで受け取るかは、あらかじめ決まっています。たとえば、眼は光の刺激だけを受け取り、音には反応しません。反対に耳は音、つまり空気の振動だけを感受して光の刺激には感応しません。このように、ある感覚器にとって、最も敏感に応じうる刺激のことを適当刺激といいます。

 

感覚器はそれぞれ、適当刺激を受けやすいように、独自の精巧な構造をもっています。しかしその一方で、感覚器が受け取る刺激が脳へと伝わるメカニズムは、驚くほど共通しています。

 

感覚には、感覚器と受容器、そして受容器内にある感覚細胞(受容細胞)が関係しています。たとえば、聴覚の感覚器は耳ですが、その受容器は蝸牛(かぎゅう)の中のコルチ器とよばれる部分にあり、さらには、そのコルチ器にある有毛細胞が刺激を受け取る感覚細胞であるという具合です。

 

感覚細胞が受け取った刺激は、電気信号となって末梢神経を通って中枢神経へと送られます。なかには皮膚における知覚装置のように、感覚細胞をもたずに神経線維の末端が直接刺激を受け取るものもあります。しかし、刺激が末梢神経を通って、それが中枢神経の脳へと届く流れは全く同じです。

 

感覚には、順応とよばれる現象もあります。一定の強さの刺激を持続的に与えられると、一種の慣れが生じて、主観的な感じ方が弱くなったり、反応しなくなったりするのです。順応の程度は、感覚によって違います。嗅覚や味覚の順応は早いのですが、痛覚はほとんど順応しません。これは、痛覚が人間が生きていくうえでとても重要な感覚の1つであることの証でしょう。

 

 

先生、ここで出てきた末梢神経という言葉がわかりません

 

そうか、神経系の分類について、まだ詳しく説明していなかったわね

 

神経系に、分類法なんてあるんですか?

 

ええ。ここまで出てきた呼び方ではまず、中枢神経末梢神経。これは、脳や脊髄などの中枢にある神経細胞と、それ以外の器官にある神経細胞を区別した呼び方。それ以外にも、分布や信号が流れる方向に注目した呼び方などいくつかあるので、表2をみてね

 

表2末梢神経の分類

 

末梢神経の分類

 

(田中越郎:イラストでまなぶ生理学。p.172、医学書院、1993より改変)

 

末梢神経と中枢神経

感覚器が受け取った「情報」を中枢神経である脳や脊髄へ伝えるのは末梢神経です。

 

中枢神経は、軍隊でいえば参謀本部にあたります。末梢神経を介して中枢神経へと伝えられた情報は、ここで分析・処理され、今度は「指令」となって末梢神経を伝わり、筋肉へと向かいます。

 

つまり、ここでの情報の流れは以下の(図3図4)のようになります。

 

図3情報の伝達

 

情報の伝達

 

図4神経系と伝達の経路

 

神経系と伝達の経路

 

末梢神経の分類法

末梢神経の分類は、大きく以下の3つです。

 

1.信号の方向による分類:求心性(上行性)神経・遠心性(下行性)神経

 

2.分布先による分類:運動神経・自律神経

 

3.出入りする中枢神経による分類:脳神経・脊髄神経

 

1つ目の「求心性・遠心性」という分類は、流れる電気信号がどちらの方向に向かっているかに着目しています。中枢神経へ向かって信号を送るのが求心性神経、中枢神経が下した判断を末端の筋肉へと伝えるのが遠心性神経です。

 

これに対して、命令を下す先の効果器に着目して分類したのが2つ目。内臓に分布するのが自律神経、手足などを動かす骨格筋に分布するのが運動神経です。

 

3つ目は、出入りする中枢神経が脳なのか脊髄なのかによる分類です。脳に出入りする脳神経は左右12対あり、おもに頭部や顔面、頚部を支配しています。脊髄神経は左右31対で、それぞれ対応する脊髄の番号がつけられています。

 

[次回]

視覚のメカニズム――眼|感じる・考える(3)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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