右腕では収縮期血圧が80mmHgだったが、左腕では 120mmHgだった。記録には左腕のみ記載していた。数時間後、気分不快を訴え意識消失した!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、患者さんの両腕で収縮期血圧を図ったら差があり、記録には高い数値の左腕のみ記載していたが、その数時間後に気分不快を訴え意識消失してしまった場合について解説します。

松井 貴生

社会医療法人大雄会 総合大雄会病院 看護部
集中ケア認定看護師

 

 

患者の両腕で収縮期血圧を図ったら差があり、記録には高い数値の左腕のみ記載していたが、その数時間後に気分不快を訴え意識消失してしまって、その様子に焦っている看護師のイラスト

 

ピンチを切り抜ける鉄則

バイタルサインが乳児と成人で異なるように、その正常・異常は対象の特性で判断します。
日頃からバイタルサインはトレンドを意識しましょう。
特に明確な理由はないけれど「何かおかしい」という感覚は、意外と的を射ていることが多いです。
五感(六感)を駆使して異常を早期に察知することが大切です。

 

POINT
  • フィジカルアセスメントを行う上でバイタルサインは重要な指標の1つですが、個人差も大きいため、経時的な観察が必要です。
    「左右差」はその場で異常に気づく重要なサインの1つになります。

 

 

起こった状況

症例

70歳代、男性、脳梗塞で入院中。
意識レベルはGCS:E4V5M6。
検温時に普段どおり右上腕で血圧測定を行ったところ収縮期血圧が80mmHgでした。

 

左上腕にマンシェットを巻き直し、再測定したところ収縮期血圧は120mmHgを示したため、左上腕の測定値を記録しました。
数時間後、ナースコールがあり訪室すると気分不快を訴え意識消失してしまいました。

 

 

どうしてそうなった?

大動脈解離によって偽腔が大動脈弓部から出る分枝血管の血流を妨げたため、上肢の血圧に左右差が生じたと考えられます。
また、時間経過とともに脳への血流も阻害され、意識消失を生じたと考えられます。
意識消失は、脳灌流に何らかの問題が生じていると考えられるため、緊急度、重症度ともに高い状態であり、迅速な対応が必要となります。

 

 

どう切り抜ける?

1 左右差は異常を発見するキーワード

臨床ではさまざまな疾患が背景にある患者さんが多く、バイタルサインのいわゆる正常値がその患者さんにとって適正かどうかは判断できないことがあります。
そのため、バイタルサインは「点」でみるのではなく、「線」でみる必要があります。
トレンドから逸脱があれば、異常ではないかと判断する材料になります。
経時的な情報が得られない場面では、「左右差」が異常の早期発見のキーワードになります。

 

今回の症例では、右上腕で測定した血圧が低値であると判断し、左上腕で再測定しました。
左右差を比較するという点はよいことです。おそらく計測がうまくいかなかっただろうと判断し、左上腕の血圧測定値を記録したと考えられますが、右上腕で再測定すべきであったと考えます。
再測定の結果、血圧の左右差が20mmHg以上である場合は生理的範囲外と考えます。

 

2 異常かどうか迷う場合は報告・連絡・相談

判断が難しい場合もありますが、悩む場合は迷わず報告・連絡・相談をします(図1)。

 

図1I-SBARCを使った報告

I-SBARCを使った報告をあらわした図

 

仮に何らかの処置や検査の指示がない場合でも、持続モニタリングされていなければ実施する、訪室回数を増やすなどして症状変化がないか観察を行うことについては検討する必要があります。

 

3 血圧の左右差、特に右上腕の血圧低値は急性大動脈解離 Stanford Aの可能性がある

大動脈解離は動的な病態を呈し、広範囲の大動脈とその分枝に影響を及ぼします。
解離によって分枝動脈への血流が低下することで灌流障害を生じ、部位によってさまざまな症状がみられます(図2)。

 

図2大動脈解離の部位による症状

大動脈解離の部位による症状をあらわす図

 

右上腕の血圧が低値を示すということは、なんらかの血流を阻害する要因があると考えられます。
血圧測定部位からその血流をたどっていくと右上腕動脈→腋窩動脈→右鎖骨下動脈と右総頸動脈が腕頭動脈として大動脈弓から分枝しています。

 

時間経過とともに気分不快と意識消失を生じたことから、脳への血流も阻害されており、上行大動脈近位で解離が生じたと考えられます。
特に、血圧左右差があり右上肢で血圧低下がみられる場合は大動脈解離 Stanford Aと関連があるといわれています1。

 

4 意識消失時の対応

気道確保とともに応援を要請します。
バイタルサインを測定し、末梢静脈路がなければ確保します。
確定診断のために造影CTが必要になります。
造影剤をインジェクタによる高速注入する場合は耐圧性が高くないチューブでは破損の恐れがあるため耐圧チューブ(図3)を準備しましょう。

 

図3耐圧チューブの例

耐圧チューブの例(写真)

 

また、造影剤の到達時間の遅延や左腕頭静脈でうっ滞などの可能性があるため、右上腕に留置する必要があります。


造影CTの結果次第では緊急手術となる可能性があります。
関係各所との連携が必要となるため、勤務帯での連絡先や連絡経路などはあらかじめ確認しておくことが必要です。

 

 

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引用文献 閉じる

1) Sasamoto N, Akutsu K, Yamamoto T, et al: Characteristics of inter-arm difference in blood pressure in acute aortic dissection. J Nippon Med Sch 2021;88(5):467-474.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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