差額ベッド代の請求トラブルを避けよう

 

今回はXで話題になっていた差額ベッド代について扱ってみます。

 

 

差額ベッド代がトラブルになるワケ

多くの病院では看護師がベッドコントロールを行っており、そのため、差額ベッド代の説明も看護師から行うことが一般的かもしれません。

 

ベッドコントロール担当から「個室しか空いてないよ」と言われると、患者が「差額ベッド代を伴う個室入院を希望する」か、「他院への入院でも仕方ないと考える」か、希望を聞きながら方針を決めていくしかありません。

 

しかし、ここで医師から「個室しかないけどいい?」みたいな曖昧な聞き方をして入院の承諾を得た後に、実際の差額ベッド代について詳細の説明を看護師に丸投げすると、トラブルの温床になります。
そのため、説明の仕方(誰がどこまでどんなふうに説明するか)や、病院としての考え方をしっかり共有しておく必要があります。

 

まずは、「差額ベッド代」がどんな時に求めることができるのかをしっかり理解しておきましょう。

 

そもそも「差額ベッド代」はどういう場合に求められる?

看護師の皆さんならご存知だとは思いますが、差額ベッド代とは、通常の病室(一般的には4人部屋以上の大部屋)ではなく、それより条件の良い個室などを使用した場合に、患者に請求される大部屋との差額費用を指します。

 

差額費用が必要な病室は、正式には「特別療養環境室」と呼ばれます。条件の良い個室であれば、1人で利用する個室ではなくても、数人で利用する部屋であっても差額費用が設定されることはあります。

 

患者の中には個室を希望する方も多くいですし、入院という最悪な状況を、できる限り快適に過ごしてもらいたいという医療従事者の願いともマッチするものですから、重要な制度です。

 

とはいえ、長期入院になれば差額ベッド代の負担が増え、入院費が莫大なものになることもあり得ます。都市部では1日数万円請求されることも少なくありませんし、健康保険の対象外のため、かなり痛い出費となります。そのため、できるなら余計な出費をしたくないので、払わなくて良いなら払いたくない人も当然いらっしゃいます。

 

問題は、払わなくても良いのに過剰な支払いを請求されてしまっている実態があり、トラブルの温床になっていることです。

 

 

差額ベッド代を要求できる場合については、平成28年に厚生労働省から通知があり、原則それに従うことになります。まずはそれを整理しておきましょう。

 

ルール1 特別療養環境室は病床の5割まで

全室個室!というのが本当は望ましいのかもしれませんが、患者に負担(差額ベッド代)を求めて良いのは、全病床の5割までとされています。

 

なお、国や地方公共団体が開設した病院については、それぞれ2割以下、3割以下と定められています。

 

ルール2 特別療養環境室は適切なものであること

差額ベッド代をいただくのですから、当然ほかの病床とは差別化が図られなくてはなりません。
適切な療養環境と認められているのは、以下の要件を満たすものだけです。

 

厚生労働省通知(特別療養環境室関係)より作成

 

近年はどこの病院も、4床を超えた大部屋をあえて新築では作っていないように思います。なお、多床室を特別療養環境室にするのであれば、壁で区切るなどの配慮が求められます。

 

ルール3 特別療養環境室は患者の選択によって提供すること

差額ベッド代が発生する病床へ入院する場合は、事前に患者に十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなくてはなりません。
患者の中には、一人だと寂しいので大部屋を希望される人もいます。事前にそういった患者の希望を聴取するのが大事です。

 

前述の厚生労働省の通知では、同意を得る際には、部屋の設備や環境を丁寧に説明し、料金を文書で明示した上で署名をもらう必要があるとされています。さらに、受付窓口や待合室など、わかりやすいところに特別療養環境室のベッド数や、場所、料金を掲示することになっています。

 

ルール4 差額ベッド代を求めてはならない時がある

次の場合には差額ベッド代を求めてはならないことになっています。

 

厚生労働省通知(特別療養環境室関係)より作成

 

「差額ベッド代」が求められないのはどんな場合?

病院の都合で個室に入室してもらう場合、差額ベッド代は要求できません

 

例えば、COVID-19などで個室管理をしたい場合などは、「COVID-19だから個室に入院してもらうしかない」というのではなく、部屋代のかからない2人部屋や4人部屋にCOVID-19の人を集約して、個室管理を円滑にするような工夫が求められます。
そういった工夫を行った上で、「個室でも大部屋でもどっちでもいいけど、どうしますか?」という提案をして、初めて決定権が患者側に移行しますので、ここは注意が必要です。

 

また、救急入院の時には困ることがあります。

 

病院としては「あと1床しか空いていない。しかも特別療養環境室だ」なんてこと、ありますよね。こんな時、もし、そこへの入院を病院が勧めるなら、差額ベッド代を求めることはできません

 

ただ、どこの病院も満床近い状態での運用をしている中、特別療養環境室しか残っていない場合は、そこを求めている人(差額ベッド代を払ってでも当該病床に入院したいと考えている人)に提供したいと考えるのも自然な話です。

 

もし、完全満床状態であるなら、通常は入院をお断りしたり、外来から転院調整をしたりといった対応をしているのではないかと思います。
しかし、希望する部屋が空いていない場合には、満床に準じた措置を取らざるを得ないことはあります。

 

つまり、その病院にどうしても入院してほしいと病院側が考えるのであれば、一旦は特別療養環境室に入院していただき、大部屋が空いたら移動してもらい、その間の差額ベッド代は求めない(減免措置)対応となります。
しかし、そういうわけではないなら、入院時期を延期する、転院調整をするなどのオプションを患者に提示し、選択してもらうのがベターと考えます。

 

あくまでも選択権は患者側にあるべきです。
説明の際には、「うちに入院しないと不利益を被るでしょうね。でも希望の部屋は空いていないので実質満床です。他院への転院をしますか?」みたいな脅迫めいた説明は、到底患者都合などと言えませんので、フラットな説明が求められると思います。
 

***


最後に、実は今度の診療報酬改訂で、救命救急センターから地域の二次救急病院などへの、いわゆる下り転院搬送について、看護師や救急救命士同乗の場合に加算がつくようになりました。転院を推進する動きがあるわけですね。

 

しかし、患者にとっては、大病院に救急搬送されて、そこに入院したいのだけれど個室しか空いておらず、半分不本意ながら転院して、転院のために余計お金がかかるということになると、自由な選択を妨げられたと感じてしまうかもしれません。

 

患者にとって不本意な高額の入院費を請求することはあってはなりませんが、患者側が求める一定レベル以上の療養環境も整備したい病院としては板挟み。
上手な説明ができるよう、この機会に自院の体制を見直してみてください。

 

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執筆

薬師寺慈恵病院院長薬師寺泰匡

富山大学卒。初期臨床研修中に日本の救急医療の課題や限界に触れつつ、救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸和田徳洲会病院の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年から薬師寺慈恵病院に職場を移し、2021年1月からは院長として地方二次救急病院の発展を目指している。週1回岡山大学の高度救命救急センターに出入りして、身も心もどっぷり救急に浸かっている。呼ばれればどこにでも現れるフットワークの軽さが武器。呼んで。

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

 

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