看護師からもがん患者からも相談を受けられる存在「ぴあナース」の活動

自身もがん経験者で、沖縄県でがんを経験したナースによる患者支援の会「ぴあナース」を設立した上原弘美さん。現在の活動や会への思いなどについてお話を伺いました。

 

がんはいろいろな気付きをくれた神様からのギフト 「ぴあナース」上原弘美さん【2】

 

 

【前編】 看護師ががん患者の立場になって気づいたこと。医療者と患者をつなぐ「ぴあナース」

 

看護師にも患者さんにも相談の場が必要 

「ぴあナース」設立後、上原さんが最初に取り組んだのが、沖縄県内のがん患者に関わる拠点病院の看護師を対象にした、患者の心のケアに関するアンケートでした。回答を得た235名の多くが「心のケアができていない」と答え、その理由として「忙しい」「どう声をかけていいか分からない」を挙げました。

 

「さらにぴあナースにどういう活動を望みますかと尋ねたところ、『患者さんにどうやって声をかけたらいいか教えて欲しい』『自分たちは実際には業務に追われてできないが、患者さんの話を聞いてあげる場所をつくって欲しい』という声が多く、看護師のためにも患者さんのためにも、相談の場が必要だと痛感しました」

 

そこで、ぴあナースは看護師として医学的知識があり、さらにがん経験者の立場からカウンセリングができる「ピアカウンセリング・ナース」の養成を目指し、活動をスタート。2012年3月にはがんに関する専門知識、ナースの意思決定支援のためのナーシングケア、臨床心理士による相手を理解するためのロールプレイ、医療ソーシャルワーカーによる社会資源について、臨床倫理など、盛りだくさんの内容で第1回研修会を実施。県外からの参加者5名を含む11名が参加しました。

 

11月にはコミュニケーションスキルに関する2回目の研修を実施。県外の反応がよかったことから、昨年は東京、名古屋、沖縄へと開催場所を広げ、参加者も年々増えています。今後は青森、広島などで開催予定です。

 

また沖縄県内では月1回のペースで、がん患者のための交流会「なまくまcafé」を主催。ぴあナースによるレクチャーやアロマ、ヨガなどを取り入れています。

 

沖縄方言で「今ここ」の意味を持つ、患者と家族の交流会「なまくまcafé」

 

それぞれが看護師として相談員として

活動開始から約4年。現在は会員も50名になり、沖縄だけでなく、東北、関東、関西、東海、九州に広がっています。

 

「将来は全国に支部をつくってみんなが集い学ぶ場を提供し、それぞれが必要な情報や、勇気と元気をもらって自分の職場や地域で還元していける会にしていきたいです。例えば病院での患者支援の取り組みへの改善案などを出したり、医学教育の分野でも患者の気持ちと医療者として両方の立場から伝えることで貢献できます。また、地域で相談を受ける役割も担えると思います」

 

すでに相談員として、地域で活動を行う会員もいます。上原さん自身も、2011年から沖縄県地域統括相談支援センターに常駐。がん経験者の立場で、がん患者とその家族の不安や悩みに答える相談員としての活動がメインの仕事になっています。

 

「会員としても、看護師や患者さんの家族から相談を受けられるようになったのがうれしいです。医療者なので安心して相談できるという声もいただいています。将来的には“ピアカウンセリング・ナース”の資格制度ができ、医療現場で活動できればと考えています」

 

患者さんにどう接していいかわからない看護師さんへ

看護師や患者の家族からの相談で一番多いのは「どう接すればいいか」。上原さんは何か特別なことをしよう、言おうと思わずに「普通に話をして欲しい」と答えるそうです。

 

「もし、声をかけにくかったら『今、お話してもいいですか?』と聞いてしまえばよいと思うんです。病院ではつらい治療に耐えている姿を見ることが多いだけに、がんに対してマイナスのイメージを持っている方も多く、それが接し方に悩む理由になっているのではないでしょうか。私もそうでした。でも、元気になる患者さんもたくさんいます。病状だけでなく、もっと患者さんの生き方や生活を思えば声もかけやすくなると思います。毎日忙しいでしょうが、ほんの数分でできることもあるはず。こういうことを、今後はナース向けの講習会などでも伝えていきたいですね」

 

勤務先の沖縄県地域統括相談センターで(右が上原さん)

 

看護師が患者さんに関心をもつこと

また、上原さんは患者側にも「医師が詳しく説明してくれない」と諦めてしまうのではなく、受け身にならずに疑問点を聞くべきだと伝えているそうです。自分の病状や治療について、知る権利があれば知っておく義務もあるのだから、とのこと。

 

「私自身も診察室の椅子に座ると緊張してしまい、聞きたいことをメモしていったのに聞けないという経験をしました。主治医に思ったことを言えるようになったのは何年も経ってからのことです。だから、そういう場面で “どうでしたか?”と聞きやすい雰囲気をつくってあげられるといいなと。患者さんの一番近くにいる看護師が、もっと患者さんに関心を持つことで不安もずいぶん解消されるはずです。医師にも伝えているのですが、なかなか伝わらなくて。でも、伝えて続けていかなければいけないと思っています」

 

つらい経験も無駄ではなかった

現在もぴあナースの会員は増えていて、医師や看護師からの口コミで知る人も多いそうです。

 

「会員には看護師という仕事が好きで誇りを持っている方が多いです。それだけに現状を変えたいという思いがあるのだと思います。患者でもある看護師は両方の立場であるという強みの一方で、まだ心身共に不安定な状況で忙しい現場に復帰しなければいけない厳しさもあります。皆さん、孤独を感じているのだと思います。でも、会に入ったことで孤独から解放され、元気を取り戻す姿をたくさん見てきました。会員が、大好きな看護師の仕事に戻っていく姿を見られることが私の一番の喜びです」

 

がんを経験した看護師だからこそできることを探したい!

 

今でこそ「ぴあナース」の代表として、全国を飛び回り、研修で大勢の前に立っている上原さんですが、以前は大人しく、物事の中心になるタイプではなかったと言います。活動を通して以前お世話になった上司に再会し「上原さんって、こんなふうに先頭に立ってやる人だったっけ?」と驚かれたそうです。

 

「がんはいろいろなことに気付かせてくれた、神様からのギフトだと思っています。私ががんという体験を活かすことで、がんを体験した看護師たちに今までやってきた仕事もつらい病気の経験も、ムダではなかったと伝えていきたいです」

 


【上原弘美】

沖縄県出身。2004年に左乳がんと診断され、手術。その後、右乳がん、境界型悪性卵巣腫瘍の手術も受ける。2010年「ぴあナース」設立。2011年より沖縄県地域統括相談支援センター勤務。


【ナースによる患者さん支援の会『ぴあナース』特集】

【前編】看護師ががん患者の立場になって気づいたこと。医療者と患者をつなぐ「ぴあナース」

【後編】看護師からもがん患者からも相談を受けられる存在「ぴあナース」の活動

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