外国人患者さんの診療を助ける|医療通訳者インタビュー【前編】

日本に現在住んでいる外国人は約203万人(2012年末)ですが、中には日本語をうまく話せない方もたくさんいらっしゃいます。こうした方が病院で診療を受ける際に、医師やほかの病院スタッフとの会話を仲立ちして、適切な医療を受けられるようにサポートするのが「医療通訳者」の方々です。

 

病院で言葉が通じないとなれば、もちろん患者さんは不安ですが、医療者側も不安なのではないでしょうか。そうした場面において、どのような形で通訳者が関わるのか。特定非営利活動法人多言語社会リソースかながわ(以下、MICかながわ)で医療通訳をされている、古山季玲さんにお話を伺いました。

 

病院のあらゆる場面を通訳としてサポート

古山さんは台湾のご出身。2002年のMICかながわ設立以来、中国語の医療通訳者として活躍しています。

 

ベテラン医療通訳者の古山さん

 

「日本に来て32年、神奈川県に来て18年ほどになります。MICかながわの医療通訳者は、医療機関と提携して外国人患者さんのサポートを行います。設立直後のMICかながわに初めて来た医療通訳依頼を受けたのが私で、それからずっと医療通訳を続けています」

 

医療通訳者としてのキャリアが長い古山さん。診療のさまざまな場面で通訳として入っているそうです。

 

「病院の中で患者さんの関わるあらゆる場面が、医療通訳の対象になります。外来や入院中の診察、検査前の説明、入退院時の説明、手術前の同意書記入など。患者さんが病院から介護保険適用施設へ移動される際の説明なんかも含まれますね」

 

通訳する相手も医師、看護師、事務の方、医療ソーシャルワーカーの方などまちまちだそうです。

 

看護師を助ける医療通訳

看護師の通訳をするのは、患者さんの入退院時の説明が多いといいます。

 

「手続きの流れや、用意するものについての説明はしばしば通訳します。日本の病院に入院したことがない患者さんだと、どうしてよいかさっぱり分かりませんから、ちゃんと用意してもらえるようにきちんとと伝えることが大切です。入院中に使うタオルやスリッパといったちょっとしたものでも、入院してからだと通訳がいないので伝えるのが大変です。そういう場面では、医療用語だけでなく一般会話、生活言語の能力も必要ですね」

 

病院の制度や医療に対する考え方が、国によって大きく異なる場合もあります。そのため、国による文化の違いを考慮した説明が必要になるそうです。

 

「例えば妊娠・出産に関しては、妊婦健診から妊娠中の定期健診、赤ちゃんの1か月健診ぐらいまで、定期的に通訳の機会があるのですが、中国と日本でいろいろな違いがあります。

 

中国では、妊婦さんは『赤ちゃんのために二人分の栄養をとらなければいけない』と言われるので、体重を気にせずたくさん食べます。また、妊婦さんは風邪をひかないように、お風呂に入らず、頭も洗いません。特にお産をしてから1か月間はこの点が重視されます。これは昔からの習慣で、ずっとそうするように言われてきたんです」

 

こうした習慣をもつ人に対して「こうしてください」とだけ伝えても理解してもらえないことが多いといいます。

 

「『なぜそうしなければいけないのか』が分からないんです。だから、前提からきちんと説明してあげる必要があります。『体重管理をしないと妊娠中毒症の危険がある』『清潔にしておかないと感染症のリスクが高まる』といったことですね。きちんと理由を説明してあげれば、みなさん受け入れてくれます」

 

医療者側が外国人の患者さんに慣れていない場合、こうした行き違いはしばしば起こります。

古山さんが何度も通訳に入るうちに、看護師さんたちも文化の違いが分かってきて、しっかりと説明をしてくれるようになってきたそうです。

 

「文化の違いによる新しい発見はときどきありますね。医療通訳をしていて面白いところのひとつです」

 

「足さない、引かない」が大原則

医療通訳をする際には、「足さない、引かない」を最重視して臨んでいるといいます。

 

「例えば診察の場合、現場の主役は患者さんと医師で、医療通訳者は中立の立場です。話を聞いていて自分で思うところがあっても、口には出さないというのが鉄則ですので、あくまでも、言われたことをそのまま伝えます」

 

診察中のイメージ。あくまでも「患者さんと医師の対話」になります

 

患者さんの話の中で「これを言っておけば医師が判断しやすいのに」「余計なことを言わなければいいのに」と感じるような部分があっても、内容を足したり引いたりしてはいけないそうです。

 

「それでも、患者さんが聞きたいことをしっかり聞けるように努力します。日本人でも、患者さんが医師に遠慮して、聞きたいこと、分からないことをそのままにしてしまうことは多いですよね。そういうことがないように、患者さんと医師の双方にちゃんと納得してもらえるように努めます」

 

患者さんが頷いていても分かっていなさそうな場合には、理解できているかどうか確認したり、医師の説明が複雑になりすぎている場合には、もう少し易しい説明を求めたりといった調整を行うとのこと。

 

「ときどき、医師の説明をすごく訳しづらい場合があります。話が長かったり、区切りがなかったり。そういう場合には、『ちょっと待ってください』と医師の話を切ります」

 

「話者の話をうまく区切る」というのは、医療通訳として非常に大切なスキルなのだそうです。変なところで話を切って不快な思いをされないように注意しつつ、どううまく話を切るかが、ベテラン通訳の腕の見せ所のひとつだといいます。

また、通訳する際のご自身の立ち位置にもすごく気を遣うそうです。

 

「『患者さんと先生がちゃんと喋っている』形にならなければいけません。両者が直接、話をできるように座ってもらった上で、自然に話してもらえるように、かつ必要なときに医師の話を切りにいけるように、自分の位置を微調整します。診察が始まってから医師のほうへグイグイ寄っていく、というようなことはできませんから(笑)」

 

通訳の内容に合わせた事前調査

「医療通訳の依頼が来たら、いただいた情報にもとづいて、病気や症状について事前に調べます。特に、これまで通訳したことのない病気のときはしっかりと調べておくことが大切です」

 

事前の準備は必須とのこと

 

現場へ行く際には電子辞書やメモを携帯し、必要な用語をチェックできるようにしているといいます。

 

「携帯には今までの医療通訳で調べた単語がメモしてあって、ちょっとした単語帳として使っています。病院への電車の中で用語を復習したりしています」

 

日常生活の中でも、医療通訳の活動に関わるような事柄を見つけると、関心を持って調べてみるという古山さん。

普段からのしっかりとした準備が、医療通訳活動の礎となっているようです。

 

国や文化の違いを越えて、患者さんと医療者の橋渡しをする医療通訳のお仕事。

後編では、医療通訳を取り巻く事情や、現場からの声をご紹介します。

 

言語の面で患者さんをサポート│医療通訳者インタビュー 【後編】

 


【3月14日追記】

取材させていただいたNPO法人・多言語社会リソースかながわ様が、「国際交流基金地球市民賞」を受賞されました。

同賞は地域の特性を活かして、他のモデルとなるような優れた国際文化交流活動を行っている団体に対して贈られる賞です。受賞を機に、医療通訳に関わる活動の輪がいっそう広がっていくとよいですね。

国際交流基金 - 2013年度国際交流基金地球市民賞

 

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