「新型たばこならいい?」にどう答える|有害成分“9割減”で愛用者急増中

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

加納亜子=日経メディカル

 

 

フィリップ・モリス・ジャパンの「IQOS(アイコス)」が発売されたのを皮切りに、利用者を急速に増やしている新型たばこ電子たばこ加熱式たばこの総称)。

 

今やその利用者は200万人以上とされ、国内に約2000万人いる喫煙者の1割以上が使用している。普及とともに医師を悩ませるのが、禁煙指導をした際に「新型たばこなら吸ってもよいか?」と問われた場合の返答だ。

 

「新型たばこはより効果的な禁煙方法から喫煙者を遠ざけ、結果的に禁煙を阻害する可能性がある。禁煙の手段として医師が推奨するべきではない」と言うのは国立がん研究センターたばこ政策支援部主任研究員の吉見逸郎氏だ。

 

「新型たばこが禁煙を妨げる可能性があることを伝えてほしい」と国立がん研究センターの吉見逸郎氏は要望する。

 

その論拠の1つとなるのが、新型たばこを用いた禁煙の有効性の低さを示した国立がん研究センターによるインターネット調査結果だ。

 

この調査では過去5年間に禁煙行動に取り組んだ禁煙施行者男女798人(20~69歳)を対象に、禁煙方法と禁煙成功者数、失敗者数を分析し、禁煙成功率を比較。

 

新型たばこの使用と禁煙成功率との関係を調べたところ、オッズ比は0.63(95%信頼区間[CI]:0.41-0.95)となり、新型たばこ使用群では禁煙成功率が有意に低かった。

 

一方、禁煙外来で薬剤処方を受けた群では禁煙の成功率が有意に高まっていた(オッズ比1.89[CI:1.02-3.49])。

 

吉見氏は「新型たばこを使用していた群では禁煙の成功確率が低く、禁煙外来で薬剤処方を受けた人では、禁煙の成功確率が約2倍になっていた。この結果は米国など海外で分析されている既知のメタアナリシスの結果などと一致している」と説明する。

 

患者が禁煙できない要因にはニコチン依存症がある。それを解消するにはニコチン代替療法やニコチン受容体部分作動薬といった薬物療法を用いてニコチンに対する離脱症状を緩和する必要がある。

 

新型たばこでは、既存の紙巻きたばことほぼ同量のニコチンを摂取することになり、かつニコチンの血中濃度の変動も紙巻きたばこと同様に大きい。そのため、「禁煙補助薬の代わりになるものではない」と順天堂大学呼吸器内科先任准教授の瀬山邦明氏も指摘する。

 

「吸入することで体内に有害物質が取り込まれるのは明らか。医師が推奨するべきものではない」と指摘する順天堂大学の瀬山邦明氏。

 

複数の学術団体が危険性を指摘

新型たばこが健康への影響が少ないと言われていることについても、「既存のたばこよりも害が少ないかどうかの検証はまだ十分にされていない」と吉見氏は言う。

 

国内では複数の学術団体が新型たばこの危険性を訴える見解を示している。

 

日本禁煙学会は昨年7月、新型たばこについて、当時の厚生労働相と財務相に「加熱式電子たばこの危険性」と題する文書を提出。同年10月には日本呼吸器学会が「非燃焼・加熱式たばこや電子たばこに対する見解」を、また日本禁煙推進医師歯科医師連盟も同年10月に「加熱式たばこに対する運営委員会緊急声明」を発表した。

 

いずれも新型たばこの使用が、健康に悪影響をもたらす可能性があること、そして喫煙者が呼出するエアロゾルを受動吸引することで健康被害が生じる可能性がある――と警鐘を鳴らす内容だ。

 

これらの見解で引用されたのは、アイコス(加熱式たばこ)と紙巻きたばこ(ラッキーストライク)で主流煙に含まれる成分を比較した文献(JAMA Intern Med. 2017 Jul 1;177:1050-2.)だ(表1)。

 

この研究では、アイコスの主流煙にホルムアルデヒドなどの発癌物質、アクロレインなどの毒性物質・刺激性物質が紙巻きたばこと同様に含まれていたことが示された。

 

表1:アイコスと紙たばこの主流煙に含まれる主な成分の比較。アイコスの主流煙では、紙巻きたばこと比べて多環芳香族炭化水素類は数パーセントにまで抑えられていたが、ホルムアルデヒドなどの発癌物質、アクロレインやベンズアルデヒドなどの毒性物質・刺激性物質は紙巻きたばこと同程度含まれていた。(※紙巻きたばこの主流煙が基準)(JAMA Intern Med. 2017 Jul 1;177:1050-2.から一部抜粋)

 

日本で急速に普及する「加熱式たばこ」だが……

新型たばこは大きく「電子たばこ」と「非燃焼・加熱式たばこ」(加熱式たばこ)に分けられる。液体を加熱してその蒸気を吸う電子たばこは、欧米を中心に海外で広く用いられている。

 

だが、日本ではニコチンの入った液体の販売が医薬品医療機器等法(薬機法)の規制対象となるため普及せず、代わりにたばこの葉に熱を加え、ニコチンなどの成分を含んだ蒸気(たばこベイパー)を吸う加熱式たばこが広まった。

 

国内で多く使われている加熱式たばこは図1に示す3製品だ。これらの製品を販売する各たばこメーカーは、紙巻きたばこと比べて「有害な成分を大幅に減らすことができる」と主張。

 

特にWHO(世界保健機関)が健康リスクが高いとする一酸化炭素やホルムアルデヒドなど9つの物質は「紙巻きたばこと比べて9割以上削減した」と販売元は説明。これらを受けて国内で急速に広まったようだ。

 

図1:国内で普及する主な加熱式たばこの一覧表。IQOS(アイコス)、glo(グロー)、Ploom TECH(プルーム・テック)、フィリップ モリス ジャパン、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン、日本たばこ産業)

 

アイコスを販売する米フィリップ・モリスは、通常の紙巻きたばこより有害性が低くたばこ関連疾患の発症リスクも低いとして、米食品医薬品局(FDA)に「リスクが軽減されたたばこ製品(MRTPs)」として承認申請中だが、FDAのたばこ製品の諮問委員会は、1月25日にアイコスについて「紙巻きたばこと比べて、たばこに関連する疾病リスクを低減できる充分な証拠は得られなかった」とする見解を公表している。

 

国内の行政も動き始めている。

 

厚生労働省は1月31日、「望まない受動喫煙の防止」として、新型たばこも規制の対象とする健康増進法の改正案を提出。これまで自治体により規制の対象や程度が異なっていたが、法改正が実現すれば、全国一律で加熱式たばこが禁煙・分煙の対象に含まれることになる。

 

並行して、たばこ税を増税する方針が「税制改正の大綱」で昨年12月に閣議決定されている。

 

これまで加熱式たばこは税法上「パイプたばこ」に分類され、税率が低く設定されていたが、今回の税制改定で加熱式たばこも増税対象となり、5年後のたばこ税額は紙巻きたばこの約7~9割まで引き上がる見込みだ。

 

規制の対象になったことに加え、税率が見直されたことで、新型たばこの普及スピードは緩やかになると見られる。とはいえ、既に加熱式たばこに切り替えた愛煙家も少なくない。

 

この数年で身近になった加熱式たばこについて、正しい知識を身に付け、患者指導に役立てたい。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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