術前術後のimmunonutrition(免疫栄養)はなぜ行われるの?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「術前術後のimmunonutrition(免疫栄養)」に関するQ&Aです。

 

比企直樹
北里大学医学部上部消化管外科学主任教授
峯真司
順天堂大学医学部附属順天堂医院食道・胃外科教授
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

術前術後のimmunonutrition (免疫栄養)はなぜ行われるの?

 

免疫強化栄養剤を投与することで術後合併症、特に感染性合併症の発生率が下がるといわれています。

 

〈目次〉

 

immunonutrition(免疫栄養)とは?

immune-enhancingdiet(免疫強化栄養剤、IED)、最近ではimmune-modulating diet(IMD:免疫調整栄養剤)とも呼ばれる栄養剤を、術前後に投与することで患者の免疫力を強化し術後合併症を減らそうという概念です。1990年代から少しずつ広まりました。これらの栄養剤には、通常の栄養剤よりもアルギニン、グルタミン、ω3系脂肪酸やRNAなど免疫を強化する成分が多く含まれています。

 

なぜimmunonutrition(免疫栄養)が行われるのか?

がん患者は術前から低栄養状態にあることが多く、そのような状況では免疫力が低下しやすいことが知られています。また、手術という侵襲が加わることで術後の免疫力がさらに低下することも知られています。IEDやIMDを経腸投与することで、感染性合併症の発生頻度が約半分に低下することがいくつかの無作為化比較試験で示されています(1),(2)。日本静脈経腸栄養学会のガイドラインで周術期のimmunonutritionは推奨されています。米国や欧州のガイドラインでも同様です。

 

一方でいくつかの問題点があります。大規模な比較試験はない、否定的な結果を示した試験も多い、対象が定まっていない、栄養剤の種類が多くどの成分が必要なのかわかっていない、量やプロトコルが定まっていない、などです。

 

IEDまたはIMDに含まれている成分の中で重要と思われているのはアルギニンとω3系脂肪酸です。アルギニンは必須アミノ酸ではありませんが、侵襲下では非常に重要な役目を果たすため条件つき必須アミノ酸といわれています。免疫力の増強だけではなく創傷治癒にも重要です。一方で敗血症には有害という意見があり、敗血症時にアルギニンを多く含む栄養剤を投与することは推奨されていません。ω3系脂肪酸はエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などですが、抗炎症作用があり注目されています。

 

immunonutrition(免疫栄養)どのように行うか?

前述したようにimmunonutritionの明確な適応は決まっていませんが、術前低栄養状態に陥りやすく、また侵襲も大きな手術として、食道がんをはじめとし、頭頸部がん、肝胆膵悪性腫瘍が対象になる場合が多いです。がんに対する胃全摘術に関しては、わが国で行われた無作為化比較試験でIED術前投与の効果は否定されました(3)。

 

わが国ではインパクト を1000mL/日×術前5日間投与する方法が一般的ですが、術前術後投与や術後投与単独でも有効だったという報告があります。

 

利用できる栄養剤の種類としては(図1)に挙げられるものがあります。最も広く使用されている栄養剤はインパクトです。

 

図1術前後に利用できる栄養剤の例

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 

術前後に利用できる栄養剤の例

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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