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2016年04月18日

筋鈎(ランゲンベック扁平鈎)|鈎(1)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『筋鈎(ランゲンベック扁平鈎)』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方については様々な説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

 

〈目次〉

 

筋鈎は術野の空間と視野を確保するための器械

鈎が手術の操作性を向上させた

鈎(または鉤〈こう〉)は、開創した術野を、よりよく見えるようにするために使用する器具です。組織を牽引(=組織を引っ掛けること)したり、臓器や組織を圧排(=術野周囲の臓器や組織を除けること)して、手術の操作性を上げます。

筋鈎(きんこう)のなかには、ランゲンベック扁平鈎(へんぺいこう〉という鈎がありますが、この「扁平」とは、「平らな」という意味です。柄の部分が平らになっている鈎のことを示しています(図1)。

図1手術で使用される筋鈎

 

組織を牽引したり圧排するために使用

筋鈎は、外科など開腹を伴う手術で使用されます。開創後、主に皮下組織や筋層の牽引、組織の圧排に使用します

また、整形外科など「開腹を伴わない」手術の場合、例えば、皮膚から骨までの組織を圧排するために使用されます。

 

筋鈎の誕生秘話

開発者は外科学者であり生物学者でもあるDr.ランゲンベック

筋鈎にはさまざまな種類のものがありますが、「ランゲンベック扁平鈎」と呼ばれる鈎があります。医療器械には、開発者の名前が付けられることが多いため、「ランゲンベック扁平鈎」の「ランゲンベック」とは、ベルンハルト・フォン・ランゲンベック(以下、Dr.ランゲンベック)のことではないかと推測されます。

Dr.ランゲンベックは、外科学者や医学者、病理学者、生物学者などと紹介されています。

 

世界初の胃癌手術で筋鈎が誕生した?

外科医として有名なテオドール・ビルロート(以下、Dr.ビルロート)の経歴の中に、「1851年にベルリン大学で、Dr.ランゲンベックの助手になる」という記述が残っています。

Dr.ビルロートは、ドイツ出身のオーストリア人外科医で、1881年に世界で初めて胃癌手術に成功したことで有名な医師です。Dr.ビルロートが手術を成功したときには、Dr.ランゲンベックのもとを離れていた可能性はありますが、Dr.ビルロートがDr.ランゲンベックから何らかの影響を受けていたと考えると、もしかしたら、胃癌の手術、または治療の際に、筋鈎が誕生したのかもしれません。

 

筋鈎の特徴

サイズ

筋鈎の鈎部分の幅や深さの組み合わせには、規格があります。術野の深さや範囲によって、鈎を使い分けます図2)。なお、筋鈎の柄の部分の長さは、どれも同じです。

図2鈎の規格とサイズのイメージ

規格 幅(mm) 深さ(mm)
0号 8 20
1A 10 25
2A 13 40
2B 13 60
3A 18 40
3B 18 60
3C 18 85
4A 25 60
4B 25 85

(参考文献2を参考に作成)

 

図2にあるサイズ以外にも、形成外科や整形外科で行われる「手の外科」と呼ばれる、術野がとても小さい手術の場合は、さらに小さい筋鈎を使用します。

 

形状

鈎部分は柄に対して直角に曲がっています。さらに、鈎部分の先端部は数mm程度直角に曲がっている形状です。この部分が、牽引や圧排した組織のストッパーになります

 

材質

ほかの鋼製小物と同様に、ステンレス製です。

 

製造工程

筋鈎が製造される工程は、コッヘル鉗子やペアン鉗子と同様です。素材を型押しし、余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整を行います。

 

価格

メーカーによって異なりますが、一般的なサイズのもので1本3,000~5,000円程度です。

 

寿命

筋鈎に明確な寿命はありません。使用していた年数だけでなく、使用頻度や使用環境なども考慮します。また、寿命を考える上で、洗浄や滅菌時などの工程で粗雑な扱いをしていないかなど、日ごろの扱い方やメンテナンスも重要な要因です。

 

筋鈎の使い方

使用方法

筋鈎のなかでも2A鈎は、腹膜前までに使用されることが多い鈎です。術野の深さや範囲に合わせてサイズを確定させます。

例えば、切開位置が正中切開3~4cmの場合、皮膚切開後、止血をしながら脂肪層を分けて腹直筋前哨に達したら前哨を切開し、鉗子と筋鈎(扁平鈎)を用いて、やさしく筋層に分け入り、後鞘・腹膜に達することができます(図3)。

図3鈎の使用例

筋鈎で皮膚を牽引し、鉗子で組織を把持します。

 

類似機器との使い分け

組織や臓器の牽引や圧排に使用する鈎類には、筋鈎以外にも、どこに、どのように使うか、どこの手術で使うか、などによって、多種多様な鈎を使い分けます

筋鈎と同様にポピュラーな鈎のなかに、「腹壁鈎(別名:鞍状鈎)」という鈎があります。これは、半円状に曲がった鈎の内側に、腹壁を引っ掛けて使用します(図4)。

図4筋鈎と腹壁鈎の形状の違い

上が腹壁鈎、下が筋鈎です。

 

使用する鈎は術野の深さに合わせて選択

鈎は、外科の開腹手術の場合、腹膜までのアプローチに使用されます。つまり、皮下組織や筋層がその使用対象になるため、術野の深さに合ったサイズの筋鈎を準備しておく必要があります。

例えば、大きく開腹する外科手術の場合、開腹後には筋鈎は使わないと考えて良いです。なぜなら、開腹後は、肝臓鈎など、より深くの組織を圧排するための鈎類を使うからです。

一方で、開腹しない外科手術(ヘルニア手術)や、開腹スぺースが小さい手術(虫垂炎など)、整形外科手術などの場合は、術野の深さに合わせて、複数の筋鈎を使用します。特に、太めで皮下脂肪層が厚い場合や、股関節などの厚い組織下が術野となる場合は、4B鈎や4C鈎といった鈎の部分が長い(深い)ものを使用します。

 

禁忌

禁忌というほどではないのですが、術野の深さに合わない筋鈎は、術野へは出さないように注意しましょう。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

筋鈎と鞍状鈎との取り間違いを防ぐ

器械出しの際、取り間違いをすると、手術に大きな影響を与えることがあるため、最も注意が必要です。しかし、似ている器械同士の場合、慣れていないと、取り間違える可能性もあります。

筋鈎と似ている器械は、鞍状鈎です。筋鈎は、鞍状鈎に比べて細長いです。一方、鞍状鈎は柄の部分よりも鈎の幅が広く、丸みを帯びた器械です。鈎は、柄の部分は長さも形も同じため、鈎の形で見分ける必要があります

 

使用前はココを確認

筋鈎(扁平鈎)の先端には、2mm程度直角に曲げられたストッパーがあります。この部分も含めて、欠損や損傷箇所がないかを確認します。

 

術中はココがポイント

術野をよく見て、術野のどの部分で使われるのかを予測し、長さや深さを判断します。筋鈎の器械出しは、助手(“鈎引き”と呼ばれる役割を持つ医師)に渡すことがほとんどです。

筋鈎を持つときは基本的に、鈎の部分が、自分の手のひらから甲に向けて、引っ掛けるように持ちます図5)。

図5筋鈎の持ち方

手のひらから手の甲にかけて、筋鈎が引っかかるように持ちます。

 

形成外科や手の外科(整形外科)で使うような、さらに小さい筋鈎の場合は、同じ方向で、自分の指に引っ掛けるようにして持つと、ドクターに渡しやすくなります。

ドクターへ手渡す際には、ドクターがすぐに使えるように、柄の部分がドクターの手のひらに収まるように、ドクターの手のひらに「パシッ」と軽く当てながら渡します図6)。

図6筋鈎の手渡し方

手渡す際には、ドクターの手のひらに「パシッ」と軽く当てるイメージです。

 

このとき、「2A鈎です」のように、筋鈎のサイズを伝えながら渡すと、なお良いです。

 

memo鈎の扱いは、手術の行方を左右する

「足持ち3年、鈎引き8年」という言葉を聞いたことがありますか?

これは、整形外科の世界でまことしやかに囁かれている、整形外科医の下積みの長さやその過酷さを言い表している言葉だそうです。

確かに、上手な鈎引きは、手術の進行に対してとても重要で、狭い切開創の中でどれだけ術野が確保できるかは、鈎引きにかかっているともいえます。

そのためには、鈎で術野周囲の組織を引き上げることはもちろん重要ですが、それぞれの場面に合った筋鈎を選択することも大切なポイントになります。

まさに、直接介助の看護師の腕の見せ所ともいえるでしょう。

 

使用後はココを注意

術野から筋鈎が戻ってきたら、まずは欠損や破損など損傷がないかを確認します。この時点で問題があれば、術野の確認が必要です。問題がなければ、生理食塩液などを含ませたガーゼで血液や組織などの付着物を拭き取っておきます。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄方法の手順は、下記(1)~(3)までは、ほかの器械類の洗浄方法と同じです。

(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落しておく
(3)感染症の患者さんに使用した後は、あらかじめ付着物を落とし、消毒液に一定時間浸ける

 

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは、鈎類をまとめて置く

洗浄用ケース(カゴ)に並べる場合は、ほかの器械と重ならないよう、余裕を持っておきましょう。ほかの器械とは場所を分けて、筋鈎類だけをまとめておくと、片付けるときもペアで組みやすくなりますので便利です。

 

滅菌方法

ほかの器械類と同様に、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。

なお、滅菌完了直後は、非常に高温なため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

[関連記事]

 


[参考文献]

 


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Illustration:田中博志

Photo:kuma*


協力:高砂医科工業株式会社


著作権について

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