こんなことで救急車?! 看護師が感じる救急車利用の実態

近年、救急車の搬送件数が増加しています。皆さんの中にも実際に体感されている方が多いことでしょう。

 

「救急の日」の今日、改めて、救急車利用の現状、そして、看護師として何ができるかを考えてみませんか。

 

【ライター:宮前直美(看護師)】

 

 

 

看護師が経験した軽症者の救急車利用例

 

これで救急車を呼んだ?_軽症者の救急車利用_看護師が感じる軽症者利用

 

上記は、看護roo!サイト内で行った、「『これで救急車呼んだの?!』な患者さん、経験ある?」のアンケート結果です。
805人中526人…なんと半数以上の65%が「これで救急車呼んだの?」と驚いた患者さんに遭遇したとの結果になりました。

 

もちろん、患者さんにしたら、「重症かも!」と思って救急車を呼んだのかもしれません。とはいえ、寄せられた患者さんの例を見ると、そうではない患者さんも多いようです。

 

具体的にどんな患者さんが運ばれてきたのか、同アンケートにいただいた声や、私の見聞きした例を挙げてみましょう。

 

1)実際に看護師が体験した「これで救急車呼んだの?」な患者さん

【「なんでこんなに待たされるんだ!」で救急車を要請】

 

救急外来_軽症者の救急車利用

 

hooさん(看護roo!アンケートより)

ほかの病院の外来で長時間待たされ、受付で怒鳴りちらすも取り合ってもらえなかった60代の男性。
病院の外に出てすぐに救急車を要請、主訴は「腰痛」。救急車から降りるときには「痛い、動けない」ってずっと言っていたのに、目を離すとトイレまでスタスタ歩いていました。
後で救急隊員へ聴いたところによると要注意人物として有名でした。

 

外来で待つのが嫌だからって、救急車を使わないでいただきたいですね!

 

【「夜中に寝ていて耳の中に虫が!」で大パニック!】

 

耳に虫_軽症者の救急車利用

 

A市民病院救命救急センター看護師

夜、寝ているときにの中に虫が入ったと救急車要請した若い男性。
本人は寝ていたら耳の中に虫が入ったと大パニック。さらにそれがゴキブリと判明し、大騒ぎの絶叫しまくり。あまりにも暴れるのでセデーションをかけて、耳鼻科医が登場し摘出しました。

 

パニックになる気持ちも分からなくはないですが、別に救急車でなくても…と思ってしまいます。

 

【学校からの救急搬送。出てきた子どもは…】

 

救急車の不適切利用_軽症者の救急車利用

 

A大学病院救命救急センター看護師

「小学生の子が、手を切った」と学校から救急搬送。子どもは、到着と同時にジャンプして救急車から降りてきました。
けがの程度は調理実習で指をほんのちょっと切っただけ。同乗していたのは学校の先生。「保健室は?」「そんなにこの子の親はモンスターペアレンツなの?」と疑うようなケガでした。

何らかの理由で保健室は使えなかったり、養護教諭がいなかったりしたのだとしても、「救急車を呼んだほうがいいケガかどうか」の判断はしてもらいたいところですね。

 

ちなみに、看護roo!アンケートには、ほかに「鼻血」「虫刺され」「夫婦喧嘩で殴られた」「便秘」「眠れないから」「風邪薬が欲しいから」…など、「本当に救急車が必要?」という理由で救急車で来院した驚きの患者さんの例が報告されています。

 

また、症状がないのに、「暑くてクーラーも扇風機もなく一泊涼みたいから」「透析日だから」「タクシーが捕まらないから」「夜間どこの病院に行けばいいのかわからなかったから」…など、ちょっと信じられない救急車の利用理由までありました。

 

 

2)医師3割、看護師5割が「救急車での搬送の必要性が低い」と感じているという結果も

2017年に開催された、「第20回日本臨床救急医学会・学術集会」では、「日常業務で経験する救急車による搬送で、必要性が低いと感じる事例の割合とその理由」というアンケート調査が、医師や看護師などの学会員に行われました

 

その結果、医師3割、看護師の5割が救急車による搬送の必要性が低い患者さんが多いと感じていることが分かりました(「『風邪薬が欲しくて』救急要請!?-救急車の適正利用で医療者らが本音トーク」より)。

 

「本当に救急車が必要な場合」と実際に運ばれてくる患者さんの差が、実際の現場では大きな違いがあるという結果のようです。

 

過去最高を更新し続けている、救急車の救急搬送人数。しかし、その約半数が軽症者!

前述のとおり、看護師である皆さんなら、「救急車での来院が本当に多くなったなあ…」と実感されていると思いますが、実際、どれくらい増えているのでしょうか。
消防庁の調査を元に、実際の数を見てみましょう。

 

2016年中(1~12月)の救急車の出動件数は620万9,964件、また、救急搬送人数は562万1,218人です。1)
これに対して、2017年(速報値)になると、救急車の出動件数は634万2,096件(2.1%増)、救急搬送人数は573万5,915人(2.0%増)となり、これは、過去最多の結果です。2)

 

なお、ここ数年、これらの数値は、毎年「過去最多」を更新し続けています表12)

 

表1救急車による救急出動件数及び搬送人員の推移

救急出動件数_搬送人数

文献2を元に作成

 

このように、過去最高を記録し続けている救急車による搬送人数のうち、軽症(外来診療)者数は2,78万4,595人(48.5%)と、約半数という結果でした(図1)。2)

 

図1重症度別の搬送人員数

重症度別_搬送人数

文献2を元に作成

 

この結果から、皆さんが普段「軽症者の救急車での来院、多くない?」と感じる感覚は、正しいということが分かるかと思います。
つまり、現在、必ずしも、「救急搬送=重篤な人」というわけではないのです。

 

では、この軽症者の救急搬送も、やはり増加しているのでしょうか?

 

2019年中の軽症(外来診療)者の搬送人員数は278万4,595人です。2016年中は276万9,201人だったことを考えると、1万5,394人減りました。しかし、全体の搬送人員数の割合から見れば、48.5%と、まだまだ高い割合であることにはかわりありません。2)

 

看護師としてできることはある?

1)なかなか普及しない救急車適正利用の啓発

総務省消防庁が、増加する救急搬送件数や、救急医療の制度などについて「救急業務のあり方に関する検討会」(以下、検討会)として検討を始めたのは平成17年度(2005年)からです。

 

それ以降、すぐに救急車を呼んだほうがいいかどうかをまず相談する窓口として、「♯7119」や「♯8000」(小児用)を各都道府県に設置したり、緊急度を判定するためのアプリ「Q助」(図2)を作成するといった対応が、関係各機関により行われています。

 

図2全国版救急受診アプリ Q助

Q助_救急受診アプリ

 

ほかにも、救急車の適正利用については、さまざまな機関で啓発が行われています。 しかし、上に示した通り、データを見る限りは、残念ながら、その効果はほぼ、表れていないようです。

 

2018年(平成30年)の検討会でも、『(救急車の適正利用の)普及啓発にはまだ足りない』という結果で終わっています。

 

2)救急車の有料化は有効?

救急車のタクシーがわりの出動要請に関しては、過去、検討会でも具体的な対策が話し合われたことがあり、救急業務の一部有料化という案も出たようです。

 

しかし、仮に有料化を導入する場合、どのような患者から料金を徴収するのか、徴収する患者かどうかを医師がどのように判断するのか、また徴収する金額やその方法はどうするのかなど、さまざまなコンセンサスが必要であることなどから、見送られました。

 

つまり、有料化を実現するよりも、まず、適切な救急車利用への普及に力を入れることにしたのです。

 

しかし、今後も軽症者の救急搬送が増加の一途をたどるのであれば、救急業務の一部有料化は、真剣に考えていかなければならない問題だと思われます。

 

ちなみに、診療時間外に救急センターを受診し、なおかつ軽症である場合は、時間外診療の加算部分を患者さんが全額自己負担することになっている病院もあります。

 

救急車の有料化にしても、時間外診療加算の全額自己負担にしても、当然ながら、「受診が必要な患者さんの受診抑制につながる」可能性はあります。
それに対しては、「本当に必要な患者さんが救急車を利用しなくなるのは避けたい」と思う医療者がほとんどでしょう。

 

そのためにも、どうすれば救急車の適正利用を増やしていけるのでしょうか。

 

例えば、救急車で軽症の患者さんが来院したとき、救急隊や医師とも協力しながら、患者指導を行うのも一つの方法でしょう。
また、前述した「Q助」について紹介したり、総務省消防庁が作成している「救急車利用リーフレット」を患者さんやご家族に渡すこともできます。

 

実際の医療現場で一人一人が発信し啓発していく…。
ゆっくりではありますが確実に、軽症者の救急搬送減少につながる努力も必要なのではないでしょうか。

 

 

Illustration/はやしろみ(アトリエおてて)

編集/林 美紀(看護roo!編集部)

 

参考文献

1)総務省消防庁:平成29年版 救急・救助の現況(PDF)

2)総務省消防庁:報道資料「平成29年中の救急出動件数等(速報値)」の公表(PDF)

3)総務省消防庁:救急業務のあり方検討会(平成27年度)「救急業務のあり方に関する検討会報告書」(PDF)

4)市立島田市民病院:時間外加算の自己負担

 

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