急性硬膜下血腫

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』より転載。
今回は急性硬膜下血腫の検査・治療・看護について解説します。

 

尾崎裕基
東海大学医学部付属八王子病院看護部 集中ケア認定看護師

 

 

 

急性硬膜下血腫とは?

急性硬膜下血腫は、頭部外傷によって生じることが多い疾患です。

発症部位は図1のとおりです。

 

図1硬膜下血腫の発症部位

図1硬膜下血腫の発症部位

 

 原因①:直接的および回転加速度的に脳皮質の損傷をきたし、脳表の血管が損傷しそこから硬膜下腔へ出血するもの

 

 原因②:回転加速で脳の移動が起こり、架橋静脈が破綻することによって生じる出血

 

全年齢層で認められますが、原因①のほうが原因②よりも多く、原因①は高齢者の転倒で多くみられます。また、小児の虐待で比較的多いとされています。原因②はスポーツ外傷で多くみられ、5~15分程度は意識清明である場合が多いです。

 

硬膜外血腫に比べて予後は不良で、死亡率は40~60%といわれています。

 

 

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患者さんはどんな状態?

ほとんどのケースが受傷直後より意識障害を呈します(表1)。

 

表1意識障害の重症度分類(GCS

表1意識障害の重症度分類(GCS)

 

出血量が軽度、または初期では頭痛、悪心・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状、失語症、けいれんが生じます。

 

多くは血腫側の瞳孔散大、片麻痺が生じます。

 

出血増大により鉤ヘルニアを起こすと、反対側の大脳脚によって脳損傷を起こし、同側の片麻痺が生じます(約15%)。

 

memo:鉤ヘルニア

テント切痕ヘルニア(小脳テントの開口部から脳が押し出されるヘルニア)のひとつ。動眼神経や中脳を圧迫し、瞳孔散大や意識障害、片麻痺をきたす。

 

さらに血腫が増大すると除脳硬直呼吸パターンの変調を起こし、死に至ります。

 

 

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どんな検査をして診断する?

頭部単純CTによって診断されます(図2)。

 

図2急性硬膜下血腫のCT画像

図2急性硬膜下血腫のCT画像

 

画像上特徴的な所見として、三日月型の高吸収域を認めます。

 

受傷側と反対側を示すこともあります(contrecoup injury)。

 

 

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どんな治療を行う?

急性硬膜下血腫の主な治療は、保存的治療、外科的治療(穿頭術開頭術外減圧術)の2つに分かれます(表2)。

 

表2急性硬膜下血腫の主な治療方法

表2急性硬膜下血腫の主な治療方法

 

保存的治療は特に再出血予防が必要なため、降圧と安静になります。

 

外科的治療は、手術適応基準に基づいて行います。手術後の管理は他の疾患と同様に重要です。

 

手術

基本的には予後不良であるため、手術の適応基準に該当すれば血腫除去を目的とした手術が選択されます(表3)。

 

表3急性硬膜下血腫の手術適応基準

表3急性硬膜下血腫の手術適応基準

 

memo:mass effect

血腫が物理的に周囲を圧迫すること。

 

緊急の場合は一時処置として穿頭する場合がありますが、ほとんどは開頭血腫除去術が選択されます。

 

脳浮腫が強い場合、二次性脳損傷を予防するために外減圧術が施されて手術が終了します。

 

輸液

止血目的として、一般的にカルバゾクロムスルホン酸、トラネキサム酸が投与されます。

 

多くの場合、脳挫傷が合併しているためフリーラジカルスカベンジャー(脳保護薬)や、脳浮腫予防に濃グリセリン・果糖注射液(グリセオール®)、D-マンニトール(マンニットール®)が投与されます。

 

けいれん予防のため、1週間以内に抗けいれん薬(フェニトイン、ホスフェニトイン、レベチラセタムなど)の投与が開始されます。

 

循環管理

再出血と脳灌流の低下を予防するため、血圧管理が必要になります。血圧は多くの場合140mmHg以下で管理されますが、「頭部外傷治療・管理のガイドライン」では収縮期血圧を100mmHg以上に保持すると、神経学的予後の改善をもたらす場合があると記されています。

 

呼吸管理

二酸化炭素には末梢血管拡張作用があり、脳血流にも影響を及ぼすといわれています。そのため、GCS3~8点の重症例では気管挿管による気道確保が検討されます。

 

PaCO2を30~35mmHgに保つのは即時性がありますが、短時間に止めるほうがよいとされています(図3)。

 

図3血管拡張作用

図3血管拡張作用

 

memo:アシデミア・アシドーシス

アシデミアは酸血症ともいい、pHが7.35未満になった状態のこと。アシドーシスは、酸塩基平衡を酸性側にしようとする状態のこと。

 

memo:アルカレミア・アルカローシス

アルカレミアはアルカリ血症ともいい、pHが7.45以上になった状態のこと。アルカローシスは、酸塩基平衡をアルカリ性側にしようとする状態のこと。

 

 

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看護師は何に注意する?

急性硬膜下血腫などの頭部外傷では、二次性脳損傷の予防が重要です。そのため、神経学的所見の変化や水分バランスの観察と合わせて、バイタルサインの測定を行うことが望ましいとされています。大切なのは、現存している症状の変化を見逃さないことです(表4)。

 

表4急性硬膜下血腫患者の観察ポイント

表4急性硬膜下血腫患者の観察ポイント

★1 眼のみかた
★2 徒手筋力検査
★3 けいれん発作(てんかん発作時の対処)

 

memo:CPOT(Critical-care pain observation tool)

挿管・非挿管患者の両方に使用可能。「表情」「体の動き」「人工呼吸器との同調性」または「発語」「筋緊張」の4項目について、それぞれ0~2点で医療者が評価する。

 

memo:BPS(behavioral pain scale)

人工呼吸器管理中の患者さんが対象。「表情」「上肢の動き」「人工呼吸器との同調性」について、それぞれ1~4点で医療者が評価する。

 

memo:NRS(numerical rating scale)

「痛みなし」を最小の0とし、「考えられる中での最悪の痛み」を最大の10として、11段階で患者さん自身に評価してもらう。

 

memo:VAS(visual analogue scale)

「痛みなし」と「考えられる中での最悪の痛み」を両端とする直線上で、痛みがどこに位置するか、患者さんに示してもらう。

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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