終末期ケアと意思決定支援

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は心不全の終末期ケアについて解説します。

 

加瀬美樹
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

心不全における終末期ケア

心不全ガイドラインにおける緩和ケア※1と終末期ケア※2

心不全は、症状が出現した心不全ステージCの後に適切な治療を行うことで長期にわたり寛解し、その後、寛解と増悪を繰り返し、徐々に進行する時期を経て最終的に難治性・末期の心不全(ステージD)に至ります(図1)。

 

図1心不全とそのリスクの進展ステージ

心不全とそのリスクの進展ステージ

 

2005年のAHA(米国心臓協会)心不全ガイドラインからステージDの患者さんに対しての治療選択にエンド・オブ・ライフケアが含まれ、2013年ACCF(米国心臓病学会財団)/AHA心不全ガイドラインでは心不全入院患者さんと、外来患者さんの診療手順を初回評価から緩和ケアに至るまで包括し、QOL改善に対して焦点が当てられています。

 

心不全における緩和ケアと終末期ケア

ステージDに至るまでの時期に、今後たどると考えられる経過について医療者、患者さん・家族が共通認識をもち、患者主体の意思決定を支援することで、ステージDに至った際に症状緩和を含む終末期ケアという選択を選ぶことができるようになります。

 

現実的には、発症早期に心不全の経過を一般論として患者さんへ説明し、入退院を繰り返すようになった時期に、最期に向けた意思決定(準備)を退院前にしていきます。最期を迎えたい場所、最期までにしておきたいことなどを確認しておくことで円滑な意思決定ができるようになります。そして、緩和ケアの過程の最後に、人生最期の数日から数週間における終末期のケアを行うことができます。

 

経過見直しと意思決定支援のタイミング

1年ごとに心不全の経過を見直し(再評価)、医療者、患者さん、家族で病期を共有します(表1)。

 

表1再評価の契機となるできごと

心不全の再評価の契機となるできごと

 

 

 

慢性心不全の意思決定支援のポイント

慢性心不全患者における意思決定支援の問題と課題として、病の軌跡は増悪、寛解を繰り返すため、最期まで寛解の可能性を信じ治療を続け、患者さんは苦痛とともに一生を終え、医療者、家族にも精神的苦痛が残ることも少なくありません。

 

心不全の患者さん、家族のほとんどは予後についての情報を知らないことが多いため、最期の迎え方について家族と話し合っていない場合が多く、代理意思決定者が苦悩する場面が多くあります。医療者は患者さんの予後をみすえ、患者さんと家族が前もって意思決定できるよう支援していく必要があります(図2)。

 

図2慢性心不全の予後2)

慢性心不全の予後

 

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、患者さんが将来や終末期について医療者とともに話し合うコミュニケーションプロセスです(図3)。患者さん自身が作成する人生設計を意味します。具体的には、人生の最期をどのように過ごしたいか、どのような医療を受けたいかなどについて話し合い決定する過程です。生命維持装置に関する希望について、患者さんが何に価値を置き、どう生きたいかを明確にし、経過のなかで可能な範囲で希望を満たしていく作業のことをいいます。

 

 

図3アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

 

適切な治療を行うとともに、医療者・患者さん・家族を含めた周囲の人々の間でも経過を共有し、末期に至るまでの意思決定を支え、全人的苦痛に対処する過程が、心不全の終末期ケアに通じる心不全の緩和ケアなのです。

 

 

 


[memo]

  • ※1 緩和ケア(上へ戻る
    生命を脅かす疾患に直面している患者さんと家族に対して、疾患の早期より全人的に対処しQOLを改善するためのアプローチ。
  • ※2 終末期ケア(上へ戻る
    人生最期の数日から数週間におけるケア。

 


文献

  • 1)Antman EM,Cohen M,Bernink PJLM,et al.The TIMI risk score for unstable angina/non-STelevation MI.A method for prognostication and therapeutic decision making.JAMA 2000;284:835-842.
  • 2)池亀俊美企画編集:特集 「おさらい」で看護力UP! 3大疾患 総復習.循環器ナーシング 2015:5(3).
  • 3)内藤博昭医学監修,伊藤文代編:循環器看護ケアマニュアル 第2版.中山書店,東京,2013.
  • 4)百村伸一,鈴木誠編:慢性心不全のあたらしいケアと管理 チーム医療・地域連携・在宅管理・終末期ケアの実践.南江堂,東京,2015.
  • 5)佐藤幸人編著:CIRCULATION Up-to-Date Books 02 スペシャリスト集団になる! 最強! 心不全チーム医療.メディカ出版,大阪,2014.
  • 6)佐藤栄子編著:事例を通してやさしく学ぶ 中範囲理論入門 第2版.日総研出版,愛知,2009.
  • 7)木原康樹,森山美和子,広島大学病院心不全センター 他 編著:心不全ケアチーム構築マニュアル 広島発・チームの作りかたと地域連携の道のり.メディカ出版,大阪,2016.
  • 8)日本心臓リハビリテーション学会:指導士認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.日本心臓リハビリテーション学会事務局,東京,2011.
  • 9)Yancy CW,Jessup M,Bozkurt B,et al.2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines.Circulation 2013;128:e240-e327.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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