いまさら聞けない「フリーエアー」の意味|けいゆう先生の医療ドラマ解説【18】

タイトル:外科医・武矢けいゆう先生の医療ドラマ解説_学習はドラマのあとで

執筆:山本健人

(ペンネーム:外科医けいゆう)

 

医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー

今回は「白衣の戦士!」第9話を取り上げます。

(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)

 

けいゆう先生の医療ドラマ解説

Vol.18 いまさら聞けない「フリーエアー」の意味

第9話では、新人看護師、斎藤光(小瀧望)の父親、渡(寺脇康文)が登場します。

 

渡は、突然の腹痛で光の勤める四季総合病院にタクシーでやってきます。

痛みの原因は胃潰瘍でしたが、検査の結果、腫瘍も見つかりました。

 

 

胃がん診断における典型的な経過

上部消化管内視鏡検査(カメラ)の結果を渡に伝える際に、外科医・柳楽(安田顕)はこう言います。

 

「病理検査の結果待ちですが、腫瘍は悪性の可能性が高いと思います」

 

これは、

 

・内視鏡で観察したところ、胃がんの可能性が高い腫瘍が確認された。

生検をして病理検査に提出しており、その結果で確定診断をつける。

 

という、胃がん診断における典型的な経過です。

 

 

胃がんに対する手術の説明

続けて柳楽は、渡にこのように伝えます。

「腫瘍の状態によっては体の負担を少なくする方法で手術ができます」

胃がんに対する手術の説明です。

 

胃がん手術には大きく分けて、開腹手術と腹腔鏡手術があります。

近年では初期の胃がんに対して腹腔鏡手術を行う施設が増えています。

 

 

数々の臨床試験で、進行胃がんに対しても腹腔鏡手術の安全性が報告されつつあり、施設によっては進行胃がんにも腹腔鏡手術を広く適用しているところもあります。

 

「腫瘍の状態によっては」とは「胃がんの進行度によっては」

「体の負担が少ない方法で」とは「腹腔鏡で」

という意味です。

 

医師の患者への説明が、具体的には何を意味しているのか、看護師として知っておくとよいでしょう。

 

 

胃がんの進行度の判断は、腹部造影CTや胃造影検査などを用いて行います。

渡は、こうした進行度を知るための精査(ステージング)の前段階だったことも、柳楽のセリフから汲み取ることができます。

 

 

「フリーエアー」とは?

精査・手術のために入院中の渡でしたが、突然の腹痛・吐血の症状に襲われます。

外科医の柳楽は、

「胸部レントゲンでフリーエアーが見られました。消化管に穴が開いている可能性が高く、これから緊急手術になります」

と伝えました。

 

この「フリーエアー」について解説します。

 

本来、腹腔内の空間には空気がありません。

ところが、胃や大腸など、消化管に穴が開くと中の空気が腹腔内に漏れ出します

 

この時、胸部レントゲンを立位で撮影すると、腹腔内にある空気が上に集まるため、横隔膜の下に空気のたまりが映ります。

 

これが、今回柳楽が説明した「フリーエアー」です。

 

もちろん、胸部レントゲンだけでなく、CTでもフリーエアーを観察することができます。

 

フリーエアー像を説明するレントゲン写真

 

胃がんが進行すると、胃の壁を突き破って穴が開くことがあります。

これを「穿孔」と呼びます。

 

放置すると腹膜炎が進行するため、抗菌薬の投与と、場合によっては緊急手術が必要になります。

 

胃がんは、胃にとどまっている限り、腹部の強い痛みを生じることはありません。

 

胃がん患者さんが強い腹痛を訴えた場合は、穿孔の可能性を頭に入れ、すぐに医師に報告する必要があるのですね。

 

 

進行胃がんに起こりうるもう一つの問題「幽門狭窄」

胃がんが進行した際に起こりうる問題として、穿孔のほかに看護師が知っておいた方が良い病態が、「幽門狭窄」です。

 

幽門前庭部の胃がんは、進行すると幽門(胃の出口)を狭窄させ、食べたものが容易に通過しなくなります。

胃内に多量の残渣が貯留し、時に腹痛を訴えたり、嘔吐したりすることもあります。

 

胃がんの患者さんで、こういった症状が出現した際には「幽門狭窄」の可能性を考える必要があります。

 

このような場合、食事摂取を可能にするため、早期の手術が必要になります。

 

切除可能な場合は、幽門側胃切除(胃の出口側の約3分の2程度を切除する術式)を行いますが、切除不能な場合(遠隔転移など、非治癒因子がある場合)は、バイパス手術を行うこともあります。

 

胃のバイパス手術の例

 

食事摂取ができないと、栄養障害に陥り、化学療法など有効な治療を始めることが難しくなります。

幽門狭窄は、早期介入が必要な進行胃がんの重要な病態として、覚えておくと良いでしょう。

 

余談ですが、「幽門狭窄」のことを、業界用語で「ピロステ」と呼びます。

 

幽門狭窄の英語“pyloric stenosis”の略ですね。

 

ナースの学習ポイント

・進行胃がんによる穿孔のリスクを知っておこう

 

・進行胃がんによって「幽門狭窄」が起こることを知っておこう

 


山本健人 やまもと・たけひと

(ペンネーム:外科医けいゆう)

医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。

「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterInstagramFacebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。

 

図表作成/中山佳之(看護師・イラストレーター)、他

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)

 

●今回のドラマ「白衣の戦士!」(日本テレビ系)

( 水曜よる10時 2019/04/10~2019/06/19 放送)

ドラマ「白衣の戦士!」のポスター

©日本テレビ

 

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