気管吸引、「圧を止めて入れる」「圧をかけたまま入れる」どっちが適切?

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
気管吸引について解説します。

 

露木菜緒
国際医療福祉大学成田病院準備事務局

 

気管吸引、「圧を止めて入れる」「圧をかけたまま入れる」どっちが適切?

 

『気管吸引ガイドライン2013』1では「開放式であっても、閉鎖式であっても、挿入中は吸引の陰圧を止めておく」と記されています。
ゲージレスでない吸引器を使用する場合は、吸引圧の設定は、吸引カテーテルを完全に閉塞させた状態で行います。

 

〈目次〉

ガイドライン上は「止めて挿入」とされる

2007年に初版『気管吸引のガイドライン』が日本呼吸療法医学会から発表され、2013年に改訂版1が出されました。そのなかで、吸引カテーテル挿入時の陰圧に関して、“挿入の深さ”の項で「開放式であっても、閉鎖式であっても、挿入中は吸引の陰圧を止めておく」と記されています。また、解説のなかでは、「気管吸引カテーテルの挿入は愛護的に行う。無理な操作は気管、気管支壁を損傷する危険性がある」とされ、「吸引中は呼吸に必要な気道内の酸素も吸引していることを忘れないようにするべきである」とされています。

 

このことから、吸引カテーテルを挿入する際は、気管・気管支壁を損傷しないよう、かつ不要な気道の酸素を吸引しないように、「吸引カテーテル挿入時は陰圧を止めて挿入する」とされていると考えます。

 

吸引圧が過剰になってしまうことに注意

吸引手技によって、瞬間的に高い圧が生じる場合がある

しかし、そのためには注意しなければいけないことがあります。吸引圧の設定です。吸引圧は「-20kPa」以下が推奨されていますが、同ガイドラインにおいて「吸引圧を設定する際は、吸引カテーテルを完全に閉塞させた状態で行う」とも記されています。その理由を考えてみましょう。

 

大気圧(吸引カテーテルを閉塞させない状態)で吸引圧を-20kPaに設定したあとに、吸引カテーテルを閉塞させると、その後も陰圧はかかり続け、吸引圧はMax圧(-50kPa以上)になります。そのまま気管に挿入し、吸引カテーテルの閉塞を解除すると、Max圧が瞬間的に気管にかかることになります。圧が解放されれば瞬間の高い吸引圧が生じます。これは気管や肺にとって大変なストレスであり、気管・気管支壁の損傷のリスクとなります(図1-①)。

 

図1注意したい圧解放(圧制御のない吸引器の場合)

注意したい圧解放(圧制御のない吸引器の場合)

 

高い圧を生じさせないための対策

そこで対策として(図1-②)、吸引圧を設定するときにあらかじめ吸引カテーテルを閉塞させた状態で吸引圧を設定すれば-20kPa以上に上昇することがなく安全に吸引することができます。また、吸引カテーテルを閉塞させて吸引圧を設定した場合、閉塞を解除したときは-10kPa程度の低い圧になりますが、分泌物や気管壁に接触したときは、再び設定した-20kPaになります。

 

ただし、これは圧制御のない吸引器の場合です。20年ほど前から、このような高圧外傷を防止する吸引器が普及してきています。図2-①のような設定吸引圧が数字で示されたゲージレス吸引器です。この吸引器は設定した圧力以上に吸引圧が上昇しないように制御されているため、圧設定時に吸引カテーテルを閉塞させる必要はありません。 したがって、ゲージレス吸引器の場合、さらにゲージレスではない(圧制御のない)吸引器(図2-②)の場合も、“吸引カテーテルを閉塞させた状態”から圧を設定すれば、陰圧を止めて挿入したほうがガイドライン上は適切となります。

 

図2吸引器の種類

吸引器の種類

 

①吸引器は設定した圧力以上に吸引圧が上昇しないように制御される

 

「閉鎖式吸引カテーテル」「非挿管患者」「気管切開」の場合

一方、経口気管挿管の患者は人工呼吸器管理されていることが多く、その際は閉鎖式吸引カテーテルの使用が望ましいため、閉鎖式吸引カテーテルであれば吸引圧をかけずに挿入することが可能です。

 

また、非挿管患者の吸引時は口腔からの吸引であり、常に大気に解放された状態であるため、吸引カテーテルを閉塞させて挿入するなどは必要ありません(口腔から気管へは挿入できず、鼻腔吸引は基本的には禁忌)。

 

すると、気管吸引で開放式吸引カテーテルを使用する場合は気管切開の場合です。気管切開の場合は、挿入して10cm程度で気管分岐部まで到達するため、挿入時間はごく短時間です。ここからはガイドラインからは外れ筆者の私見ですが、開放式気管吸引は清潔操作など手技が複雑であり、ゲージレス吸引器でない場合は、吸引カテーテルを閉塞させたあとに吸引圧設定をすることが困難であることも推察できます。そのときの気管の高圧外傷を考えれば、短時間、吸引圧をかけながら挿入したほうが安全ではないかと考えます。また、ゲージレス吸引器の場合、カテーテルを閉塞させなければ-10kPa程度の低い圧であるため、高圧外傷や酸素の吸引も少なく、吸引圧をかけながら挿入しても危険性は少ないと考えます。

 

***

 

気管吸引において最も重要なことは、安楽に換気ができること、呼吸仕事量や呼吸困難感を軽減することであり、分泌物による気道の狭窄・閉塞が原因と考えられる場合を除いて必要以上の気管吸引を行うべきではありません。

 

気管吸引は、患者にとって侵襲的で、苦痛を伴う処置であることを忘れてはならないのです。

 


[文献]

 


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P.22~24『気管吸引、「圧を止めて入れる」「圧をかけたまま入れる」どっちが適切?』

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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