統合失調症|一般病棟でもよく出会う精神疾患・症状の基礎と対応のヒント

『エキスパートナース』2014年10月号<精神症状への対応>より抜粋。
一般病棟でもよく出会う精神疾患のひとつ、総合失調症について、基礎知識と現れやすい症状への対応をまとめました。
治療の場での精神症状へのかかわり方』で解説した基本的なかかわり方を、実際に現場で、どのような言葉かけで生かしていけばいいのかを紹介します。

 

宮内倫也
可知記念病院精神科

 

〈目次〉

 

統合失調症の基礎知識

統合失調症の患者さんは小さな変化やノイズを敏感に察知する能力をもっていますが、それに揺さぶられてつらさにもつながります。

 

“先を案じる”ことに縛られて、湧き上がる不安感に圧倒されます。それを抱えられなくなると“外からやってくるもの”として対処しようとし、その現れが幻聴であり被害妄想です(周りに“わかられている”感覚)。

 

ほかには、自分の考えが他人に筒抜けになると感じる“思考伝播”、身体の感覚が異常なものにさせられると感じる“身体への影響体験”(体中に配線を入れられている、など)、意欲が出なくて活動が落ちる“自発性の低下”、感情の色合いが単調になる“感情の平坦化”などの症状があります。

総合失調症

 

統合失調症の薬剤治療の進み方

抗精神病薬を用いますが、改善しづらいことがあり幻聴や妄想に苦しむ患者さんも多いです。

 

副作用は錐体外路症状高プロラクチン血症、抗コリン作用による口渇消化管運動抑制など。発熱や筋強剛や意識障害をきたす“悪性症候群”は致死的になることも。

 

統合失調症の経過観察とアセスメントのポイント

幻覚や妄想が目立たずに自発性の低下が主体の患者さんもいます。患者さんが動かないと何とか動かしたくなりますが、外の世界を怖く感じていることも多いため、無理強いはしないほうがよいかもしれません。また、不眠が続くと容易に症状が悪化します。

 

注意点は、幻覚や妄想があっても統合失調症とは限らないこと。身体疾患(例えば炎やステロイドの副作用)でも起こりますし、どの精神疾患も重症化すると妄想的な部分が強くなってきます。

 

統合失調症の対応のポイント

話すときの距離は少しだけ遠めにとることを意識します。関係性ができていないときに距離が近いと、統合失調症の患者さんは怖さを感じることがあります。

 

幻聴や妄想に対しては後述しますが、「不思議だねぇ」というくらいの返しで、でも特に被害的な幻聴や妄想は、その奥底に不安や不信があるかもしれないというイメージをもっておきましょう。それだけでも患者さんに伝わる空気は違ってくるように感じます。

 

接するときは、あまり眼を見ないことが大事。じっと眼を見ることは、統合失調症の患者さんにとって侵襲的になることがあります。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:幻聴の訴えがあるとき

幻聴が聞こえてきてつらいときは、ふだんどうやって対処しているのかを聞いてみて、今もそれをできそうか尋ねます。

 

そしてこちらの対処としては「私は経験してないけど、不思議だねぇ。ずっと続くことはないと思うんだけどね」くらいの感じでいいと思います。

 

ただ、自分や他人を傷つけるような命令をする幻聴や妄想については「それが間違ってたら取り返しがつかないから、しないでください」と伝えましょう1

 

また、図1のようにお話しするのも大事です。噛み砕いて紙に書きながら、患者さんに話してみます。「いや、そうじゃない。絶対に違う」と言われたらいったん退く。意地になって説得しようとすると失敗しますから、「不安・不眠・過労・孤立」が症状を悪化させることだけお話しして、ほかはタイミングを見て何回か繰り返してそっと伝えます。

 

看護のポイントも上記の4つの要素を重点に。

 

図1幻聴があるときの説明のしかた

 

●“不安・不眠・過労・孤立”によってこころが限界になると、どんな人も幻を体験します。
●例として雪山の遭難や“マッチ売りの少女”があります。遭難すると嫌な声が聞こえたり山小屋が見えたりするし、マッチ売りの少女は死ぬ前にごちそうや暖炉の幻を見ました。

 

● そして、他人の声のようだけれども、自分の考えが声として聞こえてくる場合があります。
● そのため、“自分の思うことを言い当てられる”“自分の自信のないところを言われる”と感じます。

 

●実際の他人の声ではないので、気にかけないでおくのが大事です。
●“不安・不眠・過労・孤立”は幻の声を強くしてしまうため、それらの改善をしましょう。

 

ここが大切!

  • 患者さんに、“いつもの対応”ができそうか尋ねてみましょう。
  • 自分や他人を傷つけるような命令をする幻聴は、「間違っていたら取り返しがつかないから」と止めましょう。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:治療拒否や攻撃的態度があるとき

被害妄想が強いと、治療に対しても「毒が入ってるだろ!」「なんでこんなことするんだ!」と言われて難渋することがあります。実際、精神科でもなかなか治療に乗ってくれずに困ってしまうことも……。

 

まずこんなときは、「先生はあなたの身体の病気が心配で、今はあなたの人生の中で大事なときだと思っています。私も同意見です」としっかりと伝えます。少し興奮が強いときは、身体診察をするとよいとされます。手首の脈を触れて、聴診をする。それで静かになることもままあり、言葉として「あなたはそう思えないかもしれないけど、本当は大丈夫なんですよ」と添えて根底にある不安恐怖をやわらげてあげます。

 

そして精神科にコンサルトをして、薬剤の調整をしてもらったり、接し方を相談したりしましょう。

 

ここが大切!

  • 根底にある不安恐怖をやわらげることが大事。
  • 身体診察をするのもよいとされます。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:患者さんが錯乱状態にあるとき

統合失調症の患者さんはふだんおとなしくていい人なのですが、追いつめられると“窮鼠(きゅうそ)猫を噛む”的な反撃に転じることがあります。こんなときは適切な鎮静が必要で、薬剤投与にかけましょう。けっして1人で対応せず、複数人で接し、警備員を呼び、かつ精神科にすみやかにお願いをします。

 

ナースの皆さんがすべて背負う必要はありません。鎮静の治療も“医師”という立場の人間が、患者さんに対して責任をもって行ったほうがシンプルでよいと思います。

 

ここが大切!

  • 適切な鎮静が必要な状況です。
  • 1人で対応せず、警備員や医師、精神科に連絡しましょう。

 

(illustration:江田 ななえ)

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)中井久夫:こんなとき私はどうしてきたか. 医学書院, 東京, 2007.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.83~「治療の場での精神症状へのかかわり方」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年10月号/ 照林社

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