せん妄を発症すると、患者の予後にどんな影響があるの?|人工呼吸ケア

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』より転載。

 

今回は「せん妄の影響」に関するQ&Aです。

 

茂呂悦子
自治医科大学附属病院看護部

 

せん妄を発症すると、患者の予後にどんな影響があるの?

 

せん妄の発症により、死亡率の上昇、ICU滞在および入院期間の延長、ICU退室後の認知機能障害の進行といった影響があることが報告されています。

 

〈目次〉

 

せん妄とは

せん妄(delirium:デリリウム)という言葉は、紀元前25年ごろの古代ローマの学者アウルス・コルネリウス・ケルススが、発熱や頭部外傷による精神障害を表すのに用いたのが初めとされる。しかし、この用語は定着せず、ICU精神病や ICU症候群、敗血症症、肝性脳症、中毒性混乱状態、急性混乱状態、代謝性脳症、急性脳症候群など複数の用語が用いられ、せん妄研究が遅れた要因として指摘されている

 

1970年代にAPA(米国精神医学会)は、精神障害の診断基準としてDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)を提示した。改訂版であるDSM-Ⅳは、評価ツールの開発を含む多くのせん妄研究で引用され、せん妄の予後への影響も明らかになってきた。

 

せん妄による影響

Elyらは、ICUで人工呼吸管理を受けた275人の患者を対象に調査し、年齢、疾患の重症度、昏睡、鎮痛・鎮静薬の使用といった共変数を調整しても、せん妄は6か月後の死亡率上昇(P=0.03)と在院日数延長(P<0.01)の独立予測因子であったと報告している

 

Pisaniらは、ICUへ入室した60歳以上の患者304人を対象に分析し、せん妄の期間と1年後の死亡率に有意な相関があった(ハザード比1.01、95%信頼区間1.03〜1.18)と報告している

 

Girardらは、ICUで人工呼吸管理を受けせん妄を発症した患者を対象に調査し、ICU退室3か月後で79%(76人中55人)、12か月後でも71%(52人中37人)に軽度から重度の認知機能障害が認められたと報告している

 

米国集中治療医学会は、2002年に提示した鎮痛・鎮静に関するガイドラインの改訂版として、2013年にPADガイドライン(『PADガイドラインってなに?』)を発表している。このなかで、せん妄と死亡率上昇、ICU滞在・在院日数の延長、退院後の認知機能障害の進行との関連についてエビデンスレベルBとしている

 

Column「低活動型」のせん妄って?

せん妄は、一般的に、以下の3種類に分類される。

 

  1. 過活動型:ラインを抜こうとする、ゴソゴソ動くなど、活動が亢進するタイプ
  2. 低活動型:うつ状態、無関心、傾眠傾向を呈するタイプ
  3. 混合型:上記①②の両者が混在するタイプ

一般的に「せん妄」というと、過活動型をイメージするだろう。しかし、急性期でせん妄を発症した患者の場合、低活動型を示していることが多い。特にICUでは、せん妄患者のほとんどが低活動型に分類される*

 

低活動型のせん妄の判定は非常に難しい。だからこそ、せん妄判定用のスクリーニングツール(CAM-ICU、ICDSCなど) を用いて、定期的にせん妄の判定を行うことが推奨されるのである。

 

なお、せん妄の重要な症状は「注意力の障害」であり、必ずしも不穏症状を呈するとは限らないことを知っておく必要がある。

 

道又元裕  

 

杏林大学医学部付属病院看護部長  

 

略語

 

  • APA(American Psychiatric Association):米国精神医学会
  • DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders):精神疾患の診断・統計マニュアル。2014年現在、DSM-Vが提示されている。
  • PADガイドライン:Clinical Practice Guidelines for the Management of Pain, Agitation, and Delirium in Adult Patients in the Intensive Care Unit

[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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