急変時のルート確保はどこにとる?
『エキスパートナース』2015年1月号<臨床の裏ワザ・裏知識>より抜粋。
急変時のルート確保について解説します。
野崎浩司
環状通東整形外科副院長(麻酔科)
ショック状態や、心肺停止などのときは、静脈路確保(以下、ルート確保)が困難なケースが多くなります。急変した患者さんの手足は冷たくチアノーゼ、そして駆血帯で何度縛っても、血管は見えない……という状況を、皆さんも何度か経験していることと思います。
重症患者さんでのルート確保について、確認しましょう。
〈目次〉
急変時には「肘正中皮静脈」が第一選択
「急変です!ルート確保もできません!」と呼ばれて病棟に行くと、患者さんの“前腕”から必死にルートを探している看護師をよく見かけます。
日ごろは患者さんの動きやすさを考えて、利き手と反対の前腕にルート確保を行っていることと思いますが、急変時などにはその配慮をいったん忘れてください。
重症の患者さんはすぐに歩き出せませんし、手を動かすことも肘を曲げることもできません。内因性であれ外傷であれ、重症の患者さんの場合には、常に肘正中皮静脈からルートを確保しましょう。
できれば18~20G(ゲージ)の太いルートを、そして可能なら両肘部に1本ずつを確保しましょう。その際の輸液は、特に指示がなければリンゲル液か生理的食塩水で準備をしてください。
肘部からの確保が難しい場合は、一般病棟の成人患者さんではあまり穿刺をしない手背からの確保もチャレンジしてみましょう。
今から10年以上前は、重症患者さんにはすぐに中心静脈カテーテルを入れるという時代がありましたが、現在、急変時にはまず末梢のルートからの輸液負荷や薬剤投与確保で対応することが、ガイドラインなどでも推奨されています(文献1)。
その第一選択が肘正中皮静脈であることは覚えておいてください。
神経損傷のリスクが高い場所(魔の三角地帯)に注意!
血管確保に関連して、急変や重症ではないけれど、脱水や消化管出血などが基礎にありルート確保が難しい患者さんがいると思います。
“いつも狙う前腕の血管は見えにくく、手背も失敗してしまった”。そんなときに刺したくなるのが、手関節の茎状突起のそばを走る太い静脈ではないでしょうか?(図1)。
看護師向けの某ホームページには『ここを選択』と書いてありましたが、私は同意できません!
それは、ここは『魔の三角地帯』であり、神経損傷のリスクがとても高い部位であるからです(図2)。知っていましたか?
神経損傷の頻度は32,000例に1例という報告もあれば、6,300~25,000例に1例(文献2)など、報告によりバラつきがあります。
リスクをなるべく減らすためには、前述した手関節部のように、神経と血管が伴走している部位を穿刺しないことです。
また、神経損傷を疑う症状として表1のようなことを頭に入れておき、穿刺時に少しでも神経損傷を疑ったのなら、すみやかに留置針を抜去して、主治医に報告するのが最善の策となります。
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緊急時も定期の輸液も、“この部位を穿刺するしかない”ときは、そのリスクをわかったうえで行うようにしましょう(しかし、できれば刺さないのがベストです!)
[引用・参考文献]
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P.12~「臨床の裏ワザ・裏知識」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年1月号/ 照林社