日本初の気管挿管患者の口腔ケア統一手順 6つのポイント

気管挿管患者の口腔ケアは、人工呼吸器関連肺炎(VAP)や誤嚥性肺炎の発症を予防する重要な手段でありながら、日本では標準化されたマニュアルなどはなく、各病院独自の方法で実施されている。

 

現在、日本クリティカルケア看護学会と日本集中治療医学会の委員会が合同で、気管挿管患者の口腔ケアの統一手順を作成しており、第12回日本クリティカルケア看護学会の交流集会8「気管挿管患者の口腔ケア手順」で報告された。その模様をレポートする。


田戸朝美氏、門田耕一氏、佐藤憲明氏、渡邊 裕氏

気管挿管患者の口腔ケア手順について発表した(左から)田戸氏、門田氏、佐藤氏、渡邊氏

 

日本の看護学校で口腔ケアを学ぶのはわずか22%

気管挿管患者の口腔ケア手順のポイント6つ

挿管時に菌が押し込まれている!

気管挿管患者の口腔ケア手順の今後

 

日本の看護学校で口腔ケアを学ぶのはわずか22%

急性期における患者の口腔ケアは、これまで患者の快適さが目的とされていたが、現在はVAPなどの予防のための感染制御が主な目的となっている、と話すのは田戸朝美氏(山口大学)。

 

この流れは日本だけではなく、世界でも同じだが、その認識は日本よりも進んでいる。
田戸氏によると、アメリカではクリティカルケア領域における気管挿管患者の口腔ケア技術を看護学校で学んだ看護師は67%なのに対し、日本では22%と少ない。
また、海外では、気管挿管患者の口腔ケアを含んだガイドラインが多いのに対し、日本のガイドラインなどでは口腔ケアは含まれていないのが現状である。

 

ただし、ガイドラインについては、海外では0.12~0.2%のクロルヘキシジンの使用が認められているのに対し、日本では口腔粘膜への使用が禁止されているといった法的制限も一つの理由である。

 

同じく発表者の門田耕一氏(岡山大学)は、看護師の口腔ケアの認識として、看護師の日常業務の重要性の認識と煩雑性について調べた研究結果を示した。
それによると、口腔ケアを「重要だと思う」と答えた看護師の割合が高かったのに比べ、口腔ケアを行うのに「時間がかかる」と答えた看護師の割合が低かったという。

この結果から門田氏は「口腔ケアは重要なケアの一つであり、手がかからずにできるという認識はあるものの、忙しいときには回数が減ったり、質が下がっているのではないか」と推測した。

 

気管挿管患者の口腔ケア手順のポイント6つ

田戸氏は、発表の中で、気管挿管患者の口腔ケア手順(以下、口腔ケア手順)の基本コンセプトは、「VAP予防が念頭に置かれており、気管挿管患者向けのガイドラインとなるということ」と説明した。
そのために、今回の口腔ケア手順を検討する際には、現存するエビデンスの確認を行い、理論的に妥当と考えられるものを取り入れたと説明する。
田戸氏が説明した口腔ケア手順のポイントは以下の6つ。
ただし、現時点ではまだ確定ではなく、今後、パブリックコメントなどを経て、完成となる予定だという。

 

1)口腔ケアの実施回数

口腔ケアにはブラッシングケア維持ケアの2つの方法があり、それぞれを適宜組み合わせて行う。

 

ブラッシングケアはプラーク(垢)の除去を目的にブラッシングを行い、ブラッシング後は汚染物の回収を行うもの。

 

また、維持ケアは口腔内の清浄、湿潤環境の維持を目的に、貯留した汚染物の除去と加湿・保湿を行う。
それぞれを適切な回数で行うことで、より口腔ケアの効果が出るのではないかという。

 

2)感染管理

口腔ケア時には、口腔内の汚染物が飛散するといわれている。
そのため、実施する際は、隣のベッドとのカーテンは閉め実施者はスタンダードプリコーションに準じる

 

なお、患者には口腔周囲以外の頭頂部を含む上半身を未滅菌シーツで覆ったり、口腔ケア終了後は口腔周囲だけではなく、患者の顔をタオルで清拭することなども有効ではないかとした。

 

3)アセスメント

口腔ケアのアセスメントは初回に必ず行い、その後は状況に応じて行うこと。
アセスメントを行う際には、Clinical Oral Assessment Chart(COACH)などのアセスメントツールを用いて行うことが望ましい。

 

4)気道管理・体位調整

口腔ケア後、および体位変換を行う前には口腔内吸引を積極的に行い、その後、体位は15~30度に頭部挙上させるか、側臥位で行う方が良い。

 

また、口腔ケアを行う前後には、カフ上部吸引を積極的に行い、その後は、忘れずに気管カフを適切圧に調整する

 

5)口腔内清掃とブラッシング

口腔内清掃は洗口液を塗布したスポンジブラシで口腔内の汚染物などを除去する。
実施する際は、保湿剤を取り除くように、奥から手前に向かって清拭する。
スポンジブラシに付いた汚染物が付着した状態で口腔内へ再挿入するのは避ける。

 

ブラッシングケアは洗口液を塗布したブラシを用いて歯垢をブラッシングで除去する。

 

6)汚染物の回収

汚染物の回収は、ケアを行う人数および実施者の技術力によって、洗浄法清拭法かを選ぶ。

 

洗浄法は20ccシリンジを使用し、歯間を中心に洗浄水を注入し、もう1人が排唾管か吸引チューブで汚染物と洗浄液を吸引する。

 

清拭法はスポンジブラシで口腔内の奥から手前に向かって汚染物を取り除くように清拭する。
ブラシに付着した汚染物は八折ガーゼや排唾管、吸引チューブなどを用いて確実に回収することが望ましい。

 

挿管時に菌が押し込まれている!

VAPの原因菌の進入経路は、ほとんどすべてが経気道的であると田戸氏はいう。
たとえば、人工呼吸器の回路内汚染であったり、口腔咽頭内の原因菌が気管チューブの外側からカフをすり抜けて気道内に侵入するなどである。

 

戸田氏によると、口腔咽頭内の原因菌は、挿管時に口腔内の菌が押し込まれているためだということが、すでに研究で明らかになっているという。
そのため、口腔ケアでは汚染物を垂れ込ませないよう、回収することが重要であると話す。

 

佐藤憲明氏(日本医科大学付属病院)は、口腔ケア時にどれだけ周囲に口腔内物質が飛散しているかの研究結果を提示し、ブラッシング法、洗浄法、どちらの方法でも飛散は免れないとし、そのために口腔ケア時の感染予防は重要であると話す。
そのため、「口腔ケアで用いる物品はすべてディスポにすべきである」と述べた。

 

気管挿管患者の口腔ケア手順の今後

今回報告された口腔ケア手順は、現場での導入が可能であり、VAP予防に効果があるとされているものを集約していると、発表者は口々に説明する。

 

渡邊 裕氏(東京都健康長寿医療センター研究所)は「この手順を全看護師が遵守することができれば、手術開始前後でのVAP発生率や死亡率を比較することができ、十分なエビデンスをとることができる」と口腔ケア手順の広がりを期待する。

また、現場で活用しやすいよう、フローチャートやチェックリストなどの分かりやすいものを目指しているといい、今後は、今年中に各学会による発表およびパブリックコメントを募集する予定だという。

 

【看護roo!編集部】

 

※2016/7/25 内容を一部編集いたしました

 

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2016年6月4日(土)~5日(日)
第12回 日本クリティカルケア看護学会学術集会

【会場】

自治医科大学
 

【集会長】

中村美鈴(自治医科大学看護学部) 
 

【学会HP】

一般社団法人 日本クリティカルケア看護学会

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