心臓の電気伝導の原理|心臓と心電図の原理

新連載!看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

初回の今回は、心臓の電気伝導の原理について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

はじめに~『モニター心電図なんて恐くない』連載にあたって

連載をスタートするにあたって、はじめに心臓と心電図の原理を理解しましょう。

 

といっても、「それが難しいんだよね」といって、早くも拒否反応が出ていませんか。大丈夫です。

 

この連載で理解する内容(原則)は、たったの16個しかありません。

 

まずは、勉強のお手伝いをしてくれるお友達を紹介します。

はじめに

 

<原則1> 心臓は電気刺激で収縮・拡張する血液のポンプ

収縮と拡張

冒頭から恐縮ですが、市販のマヨネーズ知っていますよね。手で絞ると中のマヨネーズが出てくるアレです。

 

大まかにたとえれば、心臓に似ています。血液というマヨネーズを絞り出しているのが心臓なのです。ただし、心臓の場合は血管というチューブを通して血液を送り出し、また吸い込んで送り出すという作業を繰り返しています(図1)。

 

図1収縮と拡張

収縮と拡張

 

心臓という容器は筋肉の袋でできていて、筋肉が縮むと袋の容積が小さくなって血液を絞り出します。筋肉がダラっとリラックスすると袋の容積が大きくなって血液を吸い込むというしくみになっています。

 

心臓の筋肉ですから心筋といいます。この心筋が縮んで血液を絞り出すことを収縮、緩んで袋を大きくして血液を吸い込むことを拡張といいます。筋肉は電気の刺激で収縮し、刺激が去っていくと拡張します。

 

肺循環と大循環

さて、心臓という心筋の袋は、実は4つの部屋に分かれています。この事実は有名ですが、その理由はなかなか世の中では知られておりませんので、この機会に特別に教えましょう。

 

心臓はハートといいますので、紙になるべく大きくハートマークを書いてみましょう。これが心臓です。次に真ん中に縦に実線を入れてください。どうです、これで左右2つの部屋に分かれましたね(図2)。

 

図2心臓の絵を描いてみよう

心臓の絵を描いてみよう

 

この縦の線は、中央で左右を隔てているので、中隔といいます。

 

では、左右の部屋の上と下にチューブを書き足してください。計4本のチューブが手足のように四方に出っ張りましたね。このチューブは血管です。

 

この右側の部屋(向かって左側)が右心系といって、全身から血液を吸い込んで、肺に送り出すポンプ系で、上の吸い込む血管が大静脈、送り出す血管が肺動脈です。ちなみに心臓に入って来る(吸い込む)血管を静脈、心臓から出て行く(送り出す)血管を動脈といいます。

 

もう片方の左側(向かって右側)の部屋を左心系といい、肺から血液を吸い込んで、全身臓器に送り出すポンプ系です。肺から心臓に入るので、上の血管は肺静脈、左心系から全身に出ていく血管を大動脈といいます。図3のように左心系と右心系を分けてみると理解しやすいですね。

 

図3右心系と左心系

右心系と左心系

 

肺動脈から肺を巡って心臓に入る血液の流れを肺循環といい、右心系がポンプとなっています。

 

大動脈から全身臓器を通って大静脈から右心系に戻る循環を大循環といい、左心系がポンプの役割を担います(図4)。

 

図4肺循環と大循環(体循環)

肺循環と大循環(体循環)

 

つまり心臓は2つのポンプが合体してできていて、1回の収縮で肺と全身臓器に同時に血液を送り、拡張時に肺と全身から血液を受け取るしくみになっています。

 

心房と心室

これで、左右2つの部屋に分かれている理由はわかりましたね。

 

実は心臓は上下にも分けられるのです。先ほどのハートのなかに、横にギザギザ線を入れてみましょう。これで上下に分けられたでしょう。上の部屋が心房、下の部屋が心室です(図5)。

 

図5心房と心室

心房と心室

 

実際に肺と全身に血液を送り出す筋肉ポンプの働きは下の部屋、心室が受け持っています。心房は心室に送る血液を、全身あるいは肺から受け取って一時ためた後、拡張した心室に十分に送り込んで心室のポンプ機能を補助する役目です。

 

心房は補助ポンプともいえる存在で、心室が拡張して容積を大きくしているときに、心房は収縮して心室に血液を送り出し、心室が収縮しているときは、心房は拡張して、肺あるいは全身から血液を吸い込んでいます。つまり、心房と心室は逆モーションで動いて、2段ロケットのように血液の出し入れを行っているのです(図6)。

 

図6ポンプの働き

ポンプの働き

 

 

さてもう一度ハートの絵を見ましょう。4つの部屋に分かれていますね。

 

右上の部屋は右心系の心房ですから、右心房といい、全身から大静脈に集められた血液を受け取って右心室に送り出し、その右心室は、肺動脈で肺に血液を送る、肺循環のメインポンプです。

 

同じように左には、肺からの血液を肺静脈から心臓に吸い込む左心房、さらに、大動脈から全身に血液を送るメインポンプの左心室があります(図7)。これで心臓は4つの部屋に分かれましたね。

 

図7心臓の4つの部屋

心臓の4つの部屋

 

動脈弁と房室弁

心臓のメインポンプである心室にせっかく心房から送り込まれた血液が、収縮時に心房側に逆流したり、また、拡張の際にせっかく肺・全身に送り出した血液が戻ってきたりしては、ポンプとしては効率が悪いですね。この逆流を防ぎ、血液の流れを一方向に保つために、心室の入口と出口には逆流防止弁が付いています。

 

心室の出口にあって、送り出した血液が心室に逆流するのを防いでいるのが動脈弁で、右心系では肺動脈から右心室への逆流を防ぐ肺動脈弁です。左心系では大動脈からの左心室への逆流を防ぐ大動脈弁が付いていて、それぞれ、心室の収縮時に動脈側にめくれて開放し、収縮が終わって動脈側の圧力が心室よりも高くなると、めくれた弁が閉じて逆流を防止します。

 

同様に心房と心室の間、つまり心室の入口にも房室弁という逆流防止弁があります。これは心室が拡張しているときは血液を吸い込むために、弁が開いていて、収縮時は心室内の圧が高まって、弁が閉じて心房への逆流を防いでいます。

 

右心系は、3枚の弁からなる三尖弁、左心系は2枚の弁で僧侶の帽子のように見える僧帽弁です。心臓には心室の出入り口に1つずつ弁があり、右左で計4つの弁があるわけです。

 

ではまた、ハートマークに戻りましょう。縦線は中隔でしたね。心房を左右に分ける中隔を心房中隔、心室を左右に分ける中隔を心室中隔といいます。

 

横のギザギザ線は、そう房室弁ですね。右心系のギザ線は三尖弁、左心系のギザ線は僧帽弁です。横をギザ線、縦を実線で書いた理由は、縦は中隔ですから血液の交通はないので実線、横は上から下つまり心房から心室へ血液が流入しますので、ギザ線にしました。ついでですから、心室の出口、肺動脈・大動脈の根元にも、ギザ線で肺動脈弁、大動脈弁を書いておきましょう(図8)。

 

図8心臓にある弁と中隔

心臓にある弁と中隔

 

固有心筋と刺激伝導系

ポンプとして収縮・拡張する心房筋・心室筋を固有心筋または作業心筋といいます。これに対して効率よいポンプ機能を果たすために、心臓を管理・調整する心筋を特殊心筋または刺激伝導系といいます。

 

固有心筋と刺激伝導系は、現場のスタッフと管理職みたいなものです。原則2から、この刺激伝導系をたっぷり解説します。

 

<原則2> 心臓は洞結節というペースメーカーから周期的に電気信号を発信する

前項で、心筋は電気刺激によって収縮し、刺激がなくなると拡張するといいました。この電気刺激の発生場所が洞結節です。また、この信号が伝わって流れていくことを伝導といいます。管理職の特殊心筋を刺激伝導系というゆえんです。

 

さて、さっきのハートマークを出してください。右心房の向かって左上、胸に当てた場合は右上に星印を付けましょう。

 

そこが心臓の電気の発信基地、通称ペースメーカーです。正しくは洞結節という場所で、正常なら1分間に50~100回くらいのペースの規則正しい周期で電気信号を出しています(図9)。自発的に電気信号を出す能力を自動能といいます。

 

図9洞結節はペースメーカー

洞結節はペースメーカー

 

<原則3>房室間の唯一の通り道は房室接合部(房室結節+ヒス束)である

彼とのデート中に、ハートの形をした池をみつけました。そこであなたは水面に石を投げてみることにしました。石が落ちたところを中心に円形の波紋が広がります。この状態が、そのまま心臓の動きに当てはまります。石は洞結節、水面は心臓です。

 

洞結節からの電気信号は心房の中を波紋のように広がって、心房の筋肉を収縮させるのです。心房内を広がった電気信号は心室に伝わるのですが、心房と心室との間には、通り道が1つしかありません。

 

何度も恐縮ですが、ハートマークを出してもらえますか。現在、ハートマークには縦線と横線、そして左上に星印が入っていると思います。その図の上の、縦線と横線の交点部分を注目してください。心房側に星のマークを、つなげて心室側にのマークを描きましょう。

 

この交点部分が心房と心室の間の関所、その名も房室結節で、それに続くヒス束と合わさって通り道をつくっています。この2つを合わせて房室接合部といいます(図10)。

 

図10心房と心室を結ぶ房室接合部

心房と心室を結ぶ房室接合部

 

人間の身体は雷で感電してしまうくらいですから、電気をよく通します。しかし、房室間は電気が通らず、唯一の通り道が房室結節+ヒス束の房室接合部なのです。

 

<原則4> 電気は房室結節でタメをつくり、ヒス束を通って心室に出る

さあ、ここで疑問がわいたあなたは、かなり聡明な方とお見受けします。なぜ、わざわざ心房心室間は房室接合部だけを通り道にするのでしょうか。実はそこに、心臓がその血液ポンプとしての機能を効率よく果たすための技が潜んでいるのです。

 

電気が伝導する速さは、まさに一瞬の出来事なので、洞結節からの電気信号は瞬く間に心臓に広がり、もし房室結節という関所がなかったら、ほとんど同時に心臓全体が収縮してしまいます。これでは、心房から絞り出された血液が十分に心室に入ってこないうちに心室が収縮を始めるので、効率がとても悪いわけです。

 

まず、心房が血液をたっぷりと心室内に送り出し、その後、心室を収縮させ、血液を効率よく送り出すというのが理想的な収縮です(図11)。

 

図11心臓の電気伝導と血液の流れ

心臓の電気伝導と血液の流れ

 

これを実現するために、心臓には刺激伝導系という特殊な伝導線維が存在するのです。上から見ると洞結節、房室結節+ヒス束(房室接合部)、脚、プルキンエ線維です。

 

まず、洞結節。これは先ほど説明したとおり、電気信号を規則正しく発信(ファイヤー)します。信号はさざ波のように心房に伝わり、心房内の血液を心室内に絞り出します。

 

この絞り出しの間、電気は刺激伝導系のメンバーの房室結節内で、“待て”のサインが出されているため、心室に出ていけません。心房が十分に血液を絞り出したのが確認されると、その後やっと“行け”のサインが出されて、心室の興奮が始まるのです(図12)。

 

図12血液の流れと電気信号の伝わり

血液の流れと電気信号の伝わり

 

心房の収縮が始まってヒス束を通って、“行け”サインが出るまでは0.06~0.12秒とわずかな時間です。このタメのおかげで、心房からの血液が心室内にたっぷり充満します。その後の収縮に備えるので、ポンプ機能の効率化にはとても大切な時間になっています。

 

<原則5> 電気は心室に出た後、脚・プルキンエ線維に乗って、速やかに収縮を完了する

本当に何度も恐縮ですが、ハートマークを出しましょう。

 

房室接合部から下に二股に分けて、右室側と左室側にいちばん下まで線を引くと、これがそれぞれ右脚左脚、そこからハートマークの外側縁に引いた線はプルキンエ線維といい、みんな刺激伝導グループのメンバーです(図13)。

 

図13刺激伝導系のしくみ

刺激伝導系のしくみ

 

これらはすべて心筋よりも伝導速度が速く、一瞬の間に電気を心臓全体に伝える仕事、いってみれば高速道路の役割を担います。しかも順序正しく効率よく絞り出しができるように設計された、優れものの高速道路です。もしこの高速道路がなかったら、電気は無秩序に一般道路を広がっていくので、とても効率の悪い収縮になってしまいます。

 

伝導の速度でいえば、脚・プルキンエ線維がいちばん早くて4m/秒、心房筋・心室筋つまり固有心筋は1m/秒程度です。ヒス束は1m/秒で心房・心室筋と同程度です。いちばん遅いのは、そうです房室結節で0.05m/秒程度です。ちなみに、洞結節は電気を発生する場所で、伝導はあまり関係ありませんが、測定してみると房室結節と同じくらいで0.05m/秒です。

 

これを踏まえて、心臓の収縮を考えてみましょう。

 

まず、洞結節が自発的に周期的に電気信号を出します。これが心房に伝わり、1m/秒の伝導速度で心房内を順次収縮させていきます。その興奮は、すべて房室結節に集まりますが、ここを0.05m/秒という、心房の20分の1の遅さでノロノロと進みます。

 

この間に心房の収縮は終了し、拡張した心室に十分血液を送り込みます。

 

ヒス束から心室に入った興奮は、脚・プルキンエ線維を4m/秒という、心房の4倍、房室結節の80倍という高速で、心室内を伝導し、順序よく、素早く心室全体に伝導し、効率よい心室収縮を行うのです。

 

ここで、心臓の電気伝導の原理をもう一度復習しておきましょう。

 

心臓の電気伝導の原理

  • <原則1> 心臓は電気刺激で収縮・拡張する血液のポンプ
  • <原則2> 心臓は洞結節というペースメーカーから周期的に電気信号を発信する
  • <原則3> 房室間の唯一の通り道は房室接合部(房室結節+ヒス束)である
  • <原則4> 電気は房室結節でタメをつくり、ヒス束を通って心室に出る
  • <原則5> 電気は心室に出た後、脚・プルキンエ線維という高速伝導路に乗って、速やかに収縮を完了する

 

[次回]

正常心電図の原則

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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