心臓の電気伝導の性質|心臓と心電図の原理

 

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

〈前回・前々回の内容〉

 

心臓の電気伝導の原理(原則1~5)

 

正常心電図編(原則6~10)

 

今回は、心臓の電気伝導の性質について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

いよいよ、不整脈についての核心に肉迫していきます。

 

不整脈を理解するためには、心臓での電気の伝導の性質についての理解が必要となります。不整脈を理解するために不応期というものを知っておきましょう。

 

<原則11>心臓は電気が通った後、しばらくの間、刺激に反応しない不応期をつくる

カエルの実験の話をしましょう。カエルの足の筋肉に電気刺激を与えると筋肉が収縮しますが、心臓と同じように規則正しく刺激を繰り返し、刺激の間隔をどんどん短くしていくと電気刺激に筋肉がついていけなくなります(図1)。

 

図1不応期の原理

不応期の原理

 

これが不応期です。つまり、1回刺激して筋肉を収縮させると、その後しばらくは刺激しても反応しない時間ができます。この時間を不応期というのです。

 

心臓も筋肉ですから、1回電気が通るとしばらくは電気が来ても反応しない時間、つまり不応期があります。1週間仕事をして1日休むようなもので、日曜日は仕事の依頼がきても拒否するわけです(この場合は不応期1日)。

 

不応期にも絶対不応期相対不応期があり、相対不応期には強い刺激にのみ反応します。日曜日の午前中はどんなことがあっても仕事はしないが、午後なら「お金をたくさんくれれば仕事をしましょう」というわけです(絶対不応期半日、相対不応期半日)。ただし、相対不応期のときは仕事もスローペースになり、伝導が遅くなります。

 

<原則12>不応期は心房筋<心室筋<左脚<右脚<房室結節の順で長い

不応期は心筋の種類によって違います。主なものではいちばん短いのが心房筋、次に心室筋、左脚、右脚で、房室結節がいちばん長い不応期になっています。休みの少ないのが心房で、いちばん長く休みをとるのが房室結節です。

 

ややこしい話が続くので不応期と伝導速度を整理しておきましょう。

 

不応期は休み時間、伝導速度は興奮の伝わるスピードです。心房筋・心室筋は、伝導速度は速く、不応期は最短です。脚・プルキンエ線維は心室内高速ですから、伝導速度は最速、不応期はやや長めです。房室結節がいちばんのナマケモノ。伝導速度はゆっくりで、不応期も最長です。

 

<原則13>相対不応期(受攻期)の心筋は不安定な状態にある

絶対不応期の日曜の午前は部屋に鍵をかけて休んでいるFので問題はありません。しかし、相対不応期、すなわち日曜の午後は鍵を開けられて注文が入るので、タイミングによっては機嫌を損ねて暴れ出します。

 

後述する心室性期外収縮では、電気刺激が相対不応期というムシの居所が悪いタイミングに入ると、心臓が暴れて心室頻拍とか心室細動という生命にかかわる不整脈を引き起こす場合があります。この機嫌の悪い日曜の午後の相対不応期を受攻期とよびます(図2)。

 

図2絶対不応期と受攻期

絶対不応期と受攻期

 

<原則14>刺激伝導系には自動能があり、洞結節がいちばん強力。下位ほど能力が低下する

自動能をひと言でいうとペースメーカーになる能力です。洞結節はまわりからの刺激がなくても規則正しい間隔で電気信号をつくる能力をもっています。

 

この“規則正しい間隔で電気信号を発信する能力”を自動能といいます。言い換えれば、全体のリズムをつくる能力、ペースメーカーになる能力です。自動能は、洞結節ばかりではなく他の心筋細胞にも備わっています。

 

では、もし洞結節が不調になってしまい、信号が出せなくなってしまったら、どうなるでしょう。心臓が止まってしまいますね。それでは困りますので、今度は房室接合部(房室結節+ヒス束)が自動能を発揮します。

 

洞結節も、房室接合部も故障してしまったらどうしましょう。今度はさらに下位の脚・プルキンエ線維で、電気信号を発生します。

 

では、なぜ通常は洞結節がリズムをつくるのでしょうか。答えはその能力の違いです。洞結節が、いちばん短い間隔で電気信号を出す能力をもっているので、心臓全体がそのリズムで動きます。

 

次に強力なのが房室接合部(房室結節+ヒス束)、そして脚・プルキンエ線維と下位に行くほど、自動能は弱く、不安定になっていきます。

 

具体的には、洞結節は1分間に50~150回、房室接合部(房室結節+ヒス束)は40~60回、脚・プルキンエ線維は30~60回の頻度で、周期的に電気を発生する自動能をもっています(図3)。この頻度は、そのときの状況で変わりますから固定されたものではありません。

 

図3心臓の自動能の部位

 

心臓の自動能の部位

 

<原則15>自動能は信号が入るとリセットされる

でもそれぞれの部位が自動能を発揮して、それぞれの周期で信号を出すと、ややこしいことになりますね。そこで、必要なのがリセットという機能です。

 

タイマーにも付いていますが、ゼロに戻す機能、つまりいままでのことは水に流そうという都合のよい機能です。

 

自動能は、外からの信号で興奮するとリセットされてしまうのです(図4)。

 

図4リセット現象

リセット現象

 

話を簡単にするために、洞結節が1秒に1回(60回/分)、房室接合部が1.5秒に1回(45回/分)、脚・プルキンエ線維が2秒に1回(30回/分)の電気信号を出す自動能をもつとしましょう。

 

洞結節から信号が発信されますと、房室接合部(房室結節+ヒス束)、脚・プルキンエ線維と伝導していきますから、各自動能をリセットしていきます。上位の自動能が、下位の自動能より強力なかぎり、下位の自動能は出る幕がありませんね。

 

しかし、たとえば洞結節が故障して、信号が届かなくなったら、今度はリセットされない、房室接合部は1.5秒に1回(45回/分)の信号を発生します。

 

さらに、もしヒス束の伝導がなくなって(房室ブロックといいますが)、心室に信号が届かなくなれば、リセットされない脚・プルキンエ線維が自動能を発揮して2秒に1回(30回/分)の間隔でペースメーカーとなるのです。

 

洞結節もリセットされます。1秒の間隔で信号を出している洞結節に、たとえば0.7秒のタイミングで、外から信号が入ってきますと、その時点で洞結節の自動能はリセットされて、そこから1秒後に信号を出します。

 

会社組織も、役所も、病院もリーダーシップの強いトップが命令を出して、組織を引っ張っていきます。でも、トップが不調になれば、次に偉い人、そこもダメなら、さらに下の人といった具合に、なんとか仕事が継続されていきますが、やはり下からの命令は弱いというわけです。

 

*****

 

これで、心臓と心電図の原理は終わります。内容を理解できたでしょうか。あなたの隣には、かわいいハートマークが描かれていますか。

 

いよいよ次は心電図に突入しますが、次回チョットだけモニター心電図の電極の装着法を説明しておきます。

 

〈次回〉

 

モニター心電図の装着法

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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