採血した針を自分の指に刺してしまった!
『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、採血した針を自分の指に刺してしまった場合について解説します。
東京医科歯科大学病院看護部
感染症看護専門看護師・集中ケア認定看護師

ピンチを切り抜ける鉄則
針刺し直後、施行中の作業を中断し、直ちに針刺し部位を大量の流水と石けんで十分に洗浄します。
そして、感染リスク低減のために針刺し後の対応フローに従い行動することが重要です。
- 針刺し時に適切な行動がとれないことは、自分自身を重大な感染症罹患リスクにさらすことになります。
それを避けるためにも、「針刺し時の適切な行動」を把握しておく必要があります。
起こった状況
症例
Aさん、70歳代、男性。90歳代の母と2人暮らし、娘と息子は独立。
アルコール依存症ですが、治療を自己中断中です。
ここ数か月は食欲低下ながら、アルコールは飲んでいました。
排泄以外はベッドに臥床して過ごしていました。
数日前から反応が鈍かったのですが、自宅で経過を見ていました。
この日、母の呼びかけにも反応がなかったため救急車にて来院、ウェルニッケ脳症、低栄養、脱水の診断で入院となりました。
入院後に輸液を投与し、意識レベルは徐々に改善しましたが、辻褄の合わない言動や起き上がりなどの体動も見られるようになりました。
新人看護師が医師の指示にて採血中に、Aさんは「痛いだろ!やめろ」と叫び激しく動きました。
その際に看護師は、採血した針を自分の指に刺してしまいました。
どうしてそうなった?
Aさんは、入院後、意識変容がありアルコール離脱症状によるせん妄であったことが考えられます。
現状の認知ができないことで治療や処置の協力が得られにくい状況であったことが考えられます。
看護師Bは採血時のAさんの行動予測が不十分であったこと、採血時の針刺し危険予知のアセスメントも不足していたことが考えられます。
どう切り抜ける?
1 誤って針刺しをしたときは、直ちに流水で十分に洗浄する
針刺し直後、施行中の作業を中断します。
この事例では、採血の途中でしたので、直ちに応援を呼び、針刺しの事実を伝え、患者さんの安全確保を他スタッフへお願いして、すぐに針刺し部位を大量の流水と石けんで十分に洗浄することが必要です。
それから、リーダー看護師や管理師長へ報告します。
2 患者さんの感染症と自分のワクチン接種歴や抗体価を確認する
針刺しによる血液曝露は、血液媒介感染症のリスクです。
血液を介して感染するリスクのある感染症は、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HBC)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、梅毒、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)などが挙げられます。
感染リスクの点から、針刺し時に感染しうる病原体として、HBV、HCV、HIVが重要となります。
まず、曝露源の患者さんのHBs抗原(HBs抗原が陽性であれば現在B型肝炎に感染している)、HCV抗体(陽性なら現在HCVに感染しているか、もしくは過去に感染したことがある)、HIV抗体などから感染性を確認します。
それから、針刺ししたスタッフのHBVワクチン接種歴およびHBs抗原/抗体価、HCV抗体価、HIV抗体により、針刺し(曝露)後予防策とフォローアップの方法が異なるため、健康診断時にそれらの結果にも着目し確認しておきましょう。
3 針刺後の対応フローに沿った行動をしよう
針刺しによる感染成立のリスクは、HBV30%程度、HCV3%程度、HIV0.3%程度とされています1-3。
針刺しによる感染リスク低減のために、所属施設の針刺し時の対応フローに従い行動することが重要となります(図1)。
図1HBV、HCV、HIVによる針刺し・切創、皮膚・粘膜曝露発生時の処置

※1 曝露源不明の場合や患者さんが同定できても検査の同意が得られない場合や検査実施が不可能の場合は、HBV、HCVの曝露源と仮定して対処する。
HIV感染の曝露の可能性がある場合はHIV曝露源と仮定して対処する。
※2 曝露者のHBs抗原・HBs抗体の検査結果が24時間(遅くとも48時間)以内に判明しない場合は、結果を待たずにHBIGの投与を考慮してもよい。
※3 HBVキャリア(HBs抗原とHBs抗体がともに陽性、またはHBs抗原陽性でHBs抗体陰性)の場合は、肝臓診療科受診を勧める。
国立大学附属病院感染対策協議会編:Ⅵ.針刺し・切創,皮膚・粘膜曝露.病院感染対策ガイドライン2018年版(2020年3月増補版).じほう,東京,2020:268.より引用
HBVは特に感染力が強く、乾燥した環境表面でも数日間にわたって感染力を維持することもあるため、血液曝露リスクのある職員はワクチン接種により十分量の抗体価(CLEIA法で10mIU/mL以上)を獲得する必要があります。
ここで注意しておきたいことは、ワクチン接種により獲得したHBs抗体力価は経年変化するため、前述したように、健康診断時の結果の確認や、所属施設の感染担当者の指示に従った行動が自身の身を守るためにも重要となります(図2)。
図2医療従事者の針刺し事故後のB型肝炎感染予防

日本血液製剤機構:医療従事者の針刺し事故後のB型肝炎感染予防.(2024/3/18アクセス)
HCVに関しては、現在のところ、針刺し後の有効な感染予防薬はないため、指示通りの期間の追跡検査の結果に応じて行動しましょう。
HIVはHBVやHCVと比較してその感染力はきわめて弱く、世界的にも職業的曝露によるHIV感染例は少ないのですが3、曝露源がHIV陽性者の場合の対処としては、針刺しした者は速やかに抗HIV薬を服用すべきかを専門医と相談し、決定する必要があります。
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1) 日本環境感染学会:医療法人のためのワクチンガイドライン 第3版.環境感染誌 2020;35:S1-S4.
2) 職業感染制御研究会:血液体液曝露後の対応.2018.(2024/3/18アクセス)
3) 国立大学附属病院感染対策協議会編:Ⅵ.針刺し・切創,皮膚・粘膜曝露.病院感染対策ガイドライン2018年版(2020年3月増補版).じほう,東京,2020:266-277.
4) エイズ治療・研究開発センター:血液・体液曝露事故(針刺し事故)発生時の対応.(2024/3/18アクセス)
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社



