ICU日記

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICU日記」について解説します。

 

剱持雄二
市立青梅総合医療センター 看護主任

 

 

 

Key point
  • ICU日記を書き綴ることで集中治療後に苦痛だった体験を整理でき、うつなどの精神症状や認知機能をサポートできる。

 

 

ICU日記とは

  • ICU 日記とは、ICU での療養中の出来事を患者に同意を得たうえで、医療者が記述して作成する。
  • 日記作成の過程で患者の体験を医療者と患者側がより密接に共有することが可能になる。
  • ICU 日記をみた患者は、病状について考えを巡らせることで心のケアにつながる。
  • また、患者にとっては混乱して断片的だったことが、時系列で整理ができるようになる。
  • ICU 滞在中に友人や家族、医療スタッフから受けたサポートがわかるため、患者自身がケアを理解しやすくなり、希望をもつことができるとされている。
  • 看護師が中心となって、ICU 日記が適応される患者を定め、 医師から患者へのインフォームドコンセントのもと、ICU 日記の記述を始める。
  • 人工呼吸療法を受けているときから離脱するとき、初めて離床するときなど写真やイラストを含めて記述をすると効果がある印象である。
  • 写真掲載は患者側が希望するのか事前に患者に選択していただく。
  • 全体的な記述内容としてはカルテなどの診療録とは異なる、日常的な療養の様子やスタッフやご家族との談話の様子などを記しておく。
  • この ICU 日記は、患者の立ち位置や現在の状況などの見当識の把握を助け、不安・抑うつ・PTSD (post traumatic stress disorder:心的外傷後ストレス障害)症状を軽減することによってPICS を予防する可能性がある1)
  • 日記をつけることは、患者のみならず家族の PTSD症状を減少させることが示されている2)

 

 

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ICU日記の使用方法例

  • 主担当看護師がピックアップした患者に対して、担当医師の協働のもと、患者・家族に ICU 日記に関する説明をする。
  • 同意を得た後、ICU 日記の記載を開始。
  • ICU 日記は一般的な大学ノートを半切りにし、その日のイベントや出来事、患者の生活、リハビリ状況などを担当看護師の判断で定期的に記録する。
  • 患者・家族の希望があれば写真を添えることもある。
  • ケアに関わった担当医師・理学療法士・臨床工学技士が記載してもよい。
  • 患者自身が記載しても構わない。

 

 

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ICU日記の事前準備3)

1ICU 日記の表紙に患者ラベルと自施設のラベルをつける(図1)。

 

図1ICU日記の表紙例と記載内容

ICU日記の表紙例と記載内容

 

2主治医もしくは担当医に ICU 日記を開始することの許可を得る。

 

3患者・家族に ICU 日記を開始することを説明する(入院案内などに合わせて説明するとよい)。

 

 

 

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ICU日記の記載内容の実際

写真1実際のICU日記例

実際のICU日記例

 

1患者がどのように入院し、ICU に入室したのかから ICU 日記を始める。

 

2記載した日付、署名、職名を記載する。

 

3繊細な状況、医師の判断による病状、今後の方針、機密性のある情報は避ける。

 

4ベッドサイドで患者や家族に口頭で説明して安心してもらえるものだけを書く。

 

5患者が後で読むときにギャップがないように毎日記載する。

 

6経過が変わりなくても少なくとも 1 行は書く(例:「あなたの状況に変わりありません」「人工呼吸器血圧のサポートが必要な状態です」)。

 

7看護計画、カルテ、経過記録に日記を開始したと記載し、次のシフトにも周知できるよう申し送るようにする(患者情報用紙にも記載する)。

 

8日記が継続するよう各勤務帯で記録することを看護指示として残す。

 

9日記は患者ごとのオーバーテーブルに保管する。

 

10抜管、気切、初めての離床、歩行など患者にとって重要なイベントについて書く。

 

11患者・家族、主治医・担当医、ICU 看護スタッフ、メディカルスタッフなどすべてのスタッフの記載を歓迎する。

 

12専門用語には配慮するなど適切なものを心がける。

 

13他の同意書など書類同様の配慮をする。

 

注意点
  • 患者と家族が望むなら患者と一緒に写真撮影をしてよいが、患者の同意なしに患者・家族の写真を掲載してはならない(写真は家族が撮影したものを掲載する)。
  • 自施設のカメラで撮影した場合は、保管したメモリーや写真のコピーは消去する。
  • 後日写真を貼れるように、日記にスペースを確保し、他の人々がそのスペースに書き込むのを避けるため、写真スペースであることをわかるように明記する。

 

 

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引用・参考文献 閉じる

1)Garrouste-Orgeas M, Coquet I, Périer A, et al. Impact of an intensive care unit diary on psychological distress in patients and relatives. Critical Care Medicine. 2012;40( 7 ):2033-2040.

2 )Jones C, Bäckman C, Griffiths RD. Intensive care diaries and relatives' symptoms of posttraumatic stress disorder after critical illness: A pilot study. Am.J. Crit. Care. 2012;21( 3 ):172-176.

3 )ICU-DIARY.ORG,http://www.icu-diary.org/diary/Support.html 2021年10月25日閲覧

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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