「医療者の日常業務」に患者さんが感じている不安
緩和医療専門医

皆さん、こんにちは。
今回は、私たち医療者が日常的に行っている検査について、患者さんの視点から考えてみたいと思います。
採血、レントゲン、CT、MRI、内視鏡...そのどれもが、私たち医療者にとっては日常的な業務の一部です。
しかし、患者さんにとってはどうでしょうか?
多くの患者さんにとって、検査を受けることは大きな不安や恐怖を伴う経験といえます。
頭では理解できても感情が許さない
60歳の高橋さん(仮名)という患者さんのケースを紹介します。
彼は大企業の役員で、仕事に自信を持ち、部下からも慕われる存在でした。
しかし、進行胃がんの手術を受けた後、再発しないか定期的なCT検査を受けることになりました。
高橋さんは検査が近づくたびに、次のような不安に襲われていました。
「再発したらどうしよう」
「抗がん剤治療はしたくない」
「もしかして、お腹の違和感は再発の兆候?」
この不安から、検査の1週間ほど前から仕事に集中できなくなり、早退して車で遠方までドライブに出かけて気分転換するという状況でした。
緊張は検査の結果が出るまで続き、無事になんともないとなると、ようやく安堵できる。
この繰り返しでした。

次に、医療者である私自身のケースについて、お話しさせていただきます。
私は昨年、甲状腺がんと診断され、手術を受けました。
それなりに進行していたため、甲状腺を全摘し、周辺のリンパ節を郭清する手術でした。
幸い、手術は成功したと言われましたが、その後の定期検査のたびに、予想以上の不安を感じることになりました。
たとえば、明らかに風邪を引いて喉の調子が悪いときでも、こんな不安が頭をよぎります。
「この喉の痛みは、もしかしたら甲状腺がんが再発したからではないか」
「再発したら、もう仕事どころではなくなってしまうのではないか」
もちろん、体調が回復すれば「ああ、よかった」とホッとできるのですが、心の中にどこか不安が残り続けるのです。
定期的に受ける甲状腺機能検査や超音波検査の前には、次のような思いが湧き上がります。
「何か異常が見つかるのではないか」
「再発したらどうしたらいいだろう」
緩和ケア医として、多くのがん患者さんと関わり、数えきれないほどの検査をオーダーしてきた自分でさえ、このように感じてしまうのです。
自分ではなく患者さんのこととして考えれば、そこまで不安にならなくてもよいと頭では理解できるのですが、感情はそれを許さなかったのです。
正直、このような自分に少し驚きました。
この経験を通じて、私は患者さんの立場に立って考えることの重要性を改めて痛感しました。
医療者である私たちにとって、検査のオーダーは日常的な業務です。
しかし、患者さんにとっては、その検査結果が人生を大きく左右する可能性があるのです。

安心して検査を受けてもらうために看護師ができる工夫
では、看護師に何ができるでしょうか?
患者さんの不安を和らげ、少しでも安心して検査を受けてもらうために、いくつかの工夫を提案してみます。
いずれも、こうしてもらえたら、自分も安心できただろうなと思えるものです。

1検査前の声かけ
「検査を受けるのは不安ですよね」と声をかけてみましょう。
不安な気持ちの根本解決は難しいかもしれませんが、不安なときに支えになるのは「私の気持ちを分かってくれる人の存在」です。
患者さんの気持ちを傾聴し、共感的な態度で接することが大切です。
また、初めての検査の場合、「検査内容が分からない」という不安も大きいでしょうから、検査の流れや所要時間などを丁寧に説明し、イメージを持ってもらいましょう。
2検査中のサポート
可能な範囲で、患者さんの近くにいて声をかけましょう。
「順調ですよ。あと〇分くらいで終わりますよ」など、進行状況を伝えることで少しでも安心できるはずです。
3検査後のフォロー
検査が済んでからも、とくに結果が出るまで日数がかかる場合は不安が募るものです。
「結果が気になりますよね」と不安に感じる気持ちに共感する関わりが大切です。
結果が出るまでの流れと次の診察予定、そして不調が生じたらいつでも連絡してよいことも伝えましょう。
これらの配慮は、一見些細なことに思えるかもしれません。
しかし、患者さんにとっては大きな支えになるのです。
また、継続的に患者さんの様子を観察し、必要に応じて医師や他の医療スタッフと情報共有することも大切です。
高橋さんのように明らかに不安が強いときには、心理的なサポートを提案することを検討してもよいでしょう。
患者さんの立場に立って考えよう
看護師は、患者さんと最も近い距離で接する医療者です。
だからこそ、患者さんの不安や恐れを理解し、寄り添うことができる立場にあります。
検査を「ただの日常業務」と捉えるのではなく、常に「患者さんにとっての大きな出来事」として考える姿勢を持ってほしいです。
いや、おそらく皆さんはその考えを持っていると思うのですが、検査が日常になって、忙しい日が続くと、その当たり前のことを忘れてしまわないでしょうか。
私は自身の経験を通じて、患者さんの不安や恐れがいかに大きなものであるかを身をもって感じました。
皆さんも、次に検査に関わるときは、患者さんの気持ちに今まで以上に注目してみてください。きっと、新たな気づきがあるはずです。
そして、その気づきを活かしたケアが、患者さんの大きな支えになるのです。
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永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長廣橋 猛
2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。また、病院勤務と並行して、医療法人社団博腎会野中医院にて訪問診療を行う二刀流の緩和ケア医。日本緩和医療学会では理事として、緩和ケアの広報、普及啓発、専門医教育などの活動を行っている。「がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康の考え方」(KADOKAWA)」など著書複数。
編集:宮本諒介(看護roo!編集部)
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