きっかけは「勤務先病院のお墨付き」! ベルーナドーム(西武ドーム)で働く看護師の仕事とは|病院以外のレア職場(4)

写真はすべて(株)西武ライオンズ提供。

 

さまざまな場所で働くナースを紹介する連載「病院以外のレア職場」。

 

第4回は、埼玉県所沢市のベルーナドーム(西武ドーム)で働くRさんにインタビュー!

 

野球だけでなく、コンサートなどイベントも行われるベルーナドーム。その医務室で働くRさんに、仕事内容や看護師としてのやりがいについて、たっぷりお話を聞いてみました。

 

メットライフドームは、2022年3月1日より「ベルーナドーム」に名称を変更しました


取材・文 トヤカン(元看護師・フリーライター)

メットライフドームで働き始めたきっかけと、仕事のやりがい

――今日はよろしくお願いします! 早速ですが、ベルーナドームで働き始めたきっかけって、どんなことだったんでしょうか?

 

いま働いている病院から「やってみない?」と声をかけてもらったのがきっかけです。

 

というのも、私が働く病院は、以前から西武ライオンズさんと長いお付き合いがありまして。ある程度の経験年数がある看護師は、月に2日くらい、病棟勤務が休みの日にベルーナドームで働けるようになっているんです。

 

――そういうつながりがあるのですね! ドームでは野球だけでなくコンサートやイベントも行われていますが、選手や出演者とのやりとりもあったりするんでしょうか…?

 

いや、それは全くないですね。

 

私たちの業務の対象は、観客のみなさんやスタッフだけで、選手や出演者とのやりとりはありません

 

華やかなイメージとは違うかもしれませんが、仕事自体はとても楽しいし、病棟とは違ったやりがいがありますね。

 

――病棟とは違ったやりがい、というと?

 

ほとんどの患者さんが、医務室で休んだ後、元気になって会場に帰っていくんです。

 

病棟でも回復した患者さんを見送るときはありますが、全快というより、闘病中だけど一旦は良くなったっていう段階のことも多くて。通院が続いたり、入退院を繰り返したりするケースもあるんです。やっぱり見ていてつらいし、無力感を覚えてしまうときもありました。

 

でもドームだと、野球でもコンサートでも、患者さんはこの日をずっと楽しみにしていた方ばかりだからこそ、戻っていくときもすごく嬉しそうで! その様子を見るたびに、「楽しい時間を過ごすために役に立てたのかな」って嬉しくなっちゃうし、すごくやりがいを感じるんですよね。

 

ベルーナドームで働く看護師の仕事って? Rさんの場合

 

――患者さんの人数は、1日だいたいどれくらいなんでしょうか?

 

コロナ禍になってからは、感染対策のために入場人数の制限をしているので、1日平均4~5人くらいですね。まったく来ない日もあります。

 

――どんな患者さんが医務室を訪れるんですか?

 

野球の試合の日だと、観客席まで飛んだファウルボールが当たってしまったとか。ご高齢の方は基礎疾患を持っていることも多いので、それによる体調不良もありますね。

 

他にも転倒してしまった方や、虫に刺されてしまった患者さんもいます。

 

――虫刺され、といいますと…? 

 

ベルーナドームは半ドーム型の造りになっていて、ドーム周辺には自然がたくさんあるので、虫が入ってくることがあるんです。

 

おもに、ブヨ、アブ、ハチあたりですね。

 

――え! ハチはかなり危険なのでは…! 

 

そうなんです! ハチはアナフィラキシーショックのリスクが高いので、急変も視野に入れて動かなくちゃいけないし、緊張感も高まります。

 

患者さんの中には「何に刺されたかわからない」と言う方もいるので、慣れないうちは大変でしたね。

 

医務室の外観。ドームの外にプレハブで建てられている

 

――コロナ禍以前とは、患者さんの状況に違いはありますか? 

 

コロナ前後というより、アルコール販売の制限有無による違いが大きいですね。

 

野球の試合の日にドームでお酒を販売する場合は、飲みすぎちゃって体調を崩す方もよくいるんです。私は経験したことがないんですが、急性アルコール中毒で搬送になるケースもあったらしくて。

 

あと、当時は入場人数の制限もなかったので、患者さんの人数も今よりは多かったですね。他の看護師から「1日で30人ほど、熱中症の患者さんが来た」と聞いたときは、衝撃でした…。

 

――1日で30人! それはかなり大変そうですね…。 

 

その日は、日中の気温が35度以上の猛暑日で。ライブイベントだったこともあって、水分をとる機会が少なくなってしまった観客の方もいたようです。

 

30人ともなると、病棟勤務日の受け持ち人数より多いから、かなりきつかっただろうと思います。

 

ベッドは常設が4台で、折りたたみベッド1台を含めても5台しかないので、回復した方に戻っていただきながらなんとか回していった、と聞きました。

 

医務室のベッド。室内の反対側にもう2台設置されている

 

――Rさんも、それくらいたくさんの患者さんに対応したことがあるんでしょうか?

 

いえ、私はいまのところないですね。

 

というのも、患者さんの人数も医務室に来る理由も、日によって全然違うみたいなんです。

 

私がこれまで対応した患者さんでは、転倒してしまった方が多くて。ものすごい人数の患者さんが来たりとか、意識消失や重度の熱中症などで搬送になったりとかは、今のところ経験していないです。

 

――日によって様子が全然違うんですね。

 

試合中はモニターで見守り。ベルーナドームのお仕事、1日の流れは?

 

――出勤してからの1日の流れを教えてください!

 

私の場合はまず、出勤時の検温などを済ませたら物品の準備から始めます。

 

野球の試合の日はドーム内の様子を把握するためのモニターを準備したり、特に夏場は熱中症の患者さんが発生した場合に使う氷を施設内から持ってきたりと、色々あるので。

 

その後は、医務室内の掃除をして、不足物品がないか確認しつつ、試合やコンサートの開始を待っています。

 

医務室にある、野球観戦用のモニター(写真中央)とベッド(写真左側と右側)

 

――野球の試合やコンサートが始まってからは、どのように過ごしているんでしょうか?

 

野球の試合の日は、モニターを見ています。モニターには試合のTV中継が映っているのですが、試合を見ているというよりは、危険の有無を把握する感じですね。

 

ドームでは、危険なファウルボールが出たときは「ビーッ」って笛を鳴らして、観客に危険を知らせているんですが、医務室からは笛の音はよく聞こえなくて。モニターで映しているTV中継のほうがしっかり聞こえるので、笛が鳴ったらすぐモニターをチェックして、観客にボールが当たったりしてないか確認しています

 

逆にコンサートやイベントの日はモニターがないので、患者さんが医務室に来るか、現場へ向かうよう要請があるまでは、医務室で待機していますね。

 

――医務室ではどんな処置を行うんでしょうか?

 

基本的に処置を行うのは医師で、看護師はそのサポートです。ただ、病院のような処置はできないので、絆創膏を傷口に貼る、患部に軟膏を塗るといった軽い処置がほとんどです。

 

重度の熱中症や、頭部や眼にボールが直撃してしまった方、ハチに刺された方など、急変リスクが高い患者さんは、意識レベルなど全身状態を確認した上で、近隣の病院に搬送・受診できるように手配しています。

 

医務室にある物品の一部。基本的な処置ができる物品が揃っている

 

医務室でも、病棟で積み上げてきた経験が生きている

 

――病棟以外の場所で働くことに、不安はありませんでしたか?

 

もちろんありました。救急などの経験もないですし、医師と看護師一人ずつでの勤務だし、環境も何もかも病棟と違って…。「私で大丈夫なのかな……」という思いでいっぱいでした。

 

でも同時に、「病棟以外での経験を積めるって、なかなかないことかも」と思う部分もあって。珍しい機会だからこそチャンスともいえますし、挑戦してみたい気持ちの方が強かったので、ベルーナドームでの勤務を決めました。

 

――実際に働いてみて、病棟との違いを感じますか?

 

違うことだらけですね。そもそも、病棟では看護師が私1人になることはないですし。

 

患者さんの年齢層も幅広いし、症状もさまざま。既往や基礎疾患などの事前情報もないし、物品の数や種類も限られていますし。情報のとり方や観察、処置に至るまで、何もかもが病棟とは違うなって思います。

 

最初はすごく戸惑いましたし、だいぶ慣れてきた今も、緊張感は持ち続けていますね。

 

ただ、病棟とはぜんぜん違う環境でも、今までの経験が生きたことも意外とありますよ

 

――それはどんなときでしょうか?

 

患者さんとのコミュニケーションの取り方とか、声のかけ方とか。以前、内科と小児科で働いていたときの経験が、とても役立っていますね。

 

特に、医務室では小児の患者さんと接することもあるので、小児科経験があってよかったなと思っています。

 

病棟と全然違うところでも、看護師として積み上げてきた経験や知識が生かせるって知れたのは、医務室で働いているからこそですね。

 

病棟にも医務室にもそれぞれ違ったやりがいや難しさがあって、どちらも経験したからこそ気づけたこともあるので、これからもこの仕事は続けていきたいなと思っています。

 

ベルーナドーム入り口の様子。ここに集う数多の野球ファンやイベント観客の安心安全を、Rさんをはじめとする看護師や医師のみなさんが守っています

 

執筆

ライタートヤカン

大学病院の正看護師として働いた後、フリーライターに転身。
『まいにちdoda』『ダ・ヴィンチニュース』『bizSPA!フレッシュ』にて記事を執筆。エンタメ、社会問題、はたらくこと、看護に関するジャンルを中心に幅広く活動中。

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