【小説プレゼント】主人公は「怪異」が見える訪問看護師!?著者・秋谷りんこさんにインタビュー

小説『桃井ナースがお邪魔します』(朝日文庫)は、訪問看護師の仕事ぶりをミステリー要素も織り交ぜながら描いた作品です。
主人公は27歳の若手訪問看護師。なんと、利用者さんやその家族の心の変化が、家の「怪異」として見えるという不思議な能力を持っています。
執筆したのは看護師として約13年間働いたのち、小説家デビューした秋谷りんこさん。
デビュー作『ナースの卯月に視えるもの』(文春文庫)は、療養病棟の看護師の仕事ぶりや生活をリアルに描いた作品で、心にしみる温かなストーリーが話題を呼び大ヒットシリーズとなりました。
物語の舞台を「訪問看護」に移した最新作で伝えたかったことはー?秋谷さんに語っていただきました!
【秋谷りんこ】
1980年、神奈川県出身。大学病院の精神科閉鎖病棟で6年、精神科の単科病院の急性期閉鎖病棟で7年勤務。体調を崩したことを機に看護師の仕事は退職。2024年5月『ナースの卯月に視えるもの』で小説家デビュー。

あらすじ
訪問看護師2年目、27歳の桃井由乃。ある日、いつものように利用者さんのお宅へ伺うと、部屋にいくつかの穴があいていた。触ってみると実際には穴はあいていない。「……家の怪異だ」。人の心が家に現れ怪異として見える桃井は、外見からは分かりづらい利用者さんの異変に気付き……。<朝日文庫より>
☆本書を抽選で5名様にプレゼントします!

訪問看護ならではの視点や苦労を
―訪問看護師をテーマにした物語を書こうと思った理由は。
訪問看護師ならではの大変さとかやりがいを伝えたいと思ったことが一番の理由です。
デビュー作の『ナースの卯月に視えるもの』では、病棟看護師の仕事ぶりを描くことができました。けど、在宅医療は病棟の看護とはまた違った性質があって、仕事の苦労とか喜びもきっと異なるはずなので、今度はそれを描きたいって思ったんです。
私はずっと病棟看護師でしたが、カンファレンスで訪問看護を担当している看護師さんたちの話を聞いたときに、やっぱ視点が違うなってすごい勉強になったんですよね。
病棟で働いていると、どうしても患者さんの「病気を見る」って感覚が強いですし、あまり患者さんの退院後をイメージする意識がはじめはできていなかったんです。
けど、訪看の方の話を聞くと地域との連携の仕方とか、在宅での薬の管理の方法とか、生活に根ざした課題を見ていて、退院がゴールではないんだなって気付かされました。
そこから「じゃあ、退院後の生活を見越した上で入院しているうちにできることはなんだろう?」みたいな考え方ができるようになったという経験があって、それが自分の中ですごく印象的だったんです。
患者さんをより深く見ようとしたり、暮らしを支えようと工夫をこらしたり、そういう訪問看護師ならでは視点や役割を表現することは今回、書いているときに強く意識しました。
―訪問看護師の仕事ぶりがかなりリアルに描かれていました。
訪問看護師をしている元同僚や学生時代の友人に連絡を取って、かなり細かく質問して訪問看護の今の「現場感」を把握することを大切にしていました。あとは本をたくさん読んで、とにかく最近のリアルをリサーチしましたね。
だから小説ができたあと、訪問看護師として今も働いている友人に「すごいリアルだった」って言ってもらえたことはとてもうれしかったです。
訪看は1人で全てを見ないといけないので、先輩のサポートをすぐにもらえなかったり、悩んだことをすぐに確認できないことがあったり、若手のうちは大変なことも特に多いと思うんです。
そんな実際によくある苦労や悩みに、主人公の桃井もぶつかりながら成長していくので、応援しながら読んでもらえたらうれしいなと思っています。
―桃井(主人公)の悩みの一つに、ご家族らキーパーソンにどうケアのやり方を指導するべきかというのがありましたね。
訪看に限らずですが、若手看護師にとって患者・利用者のご家族は年上になることが多いわけじゃないですか。人生の先輩方に専門家として正しいケアの方法を指導しないといけない難しさはどうしてもあるんですよね。
作中では主人公の桃井が陰部洗浄の正しいやり方をキーパーソンに指導する際、相手の気分を損ねてしまうやり方をしてしまって落ち込む場面がありました。
看護師って仕事柄、悪いところを見つけるのはすごい上手なんです。もちろん問題点を見逃すわけにはいかないので大事なことなんですが、ついご家族ができていないこととか、間違っているところに目がいってしまう。
けど、指摘するだけでなくて、ご家族が大変な中で頑張っていることやできていることをどんどん褒めてあげて、前向きに明るい気持ちで介護が続けられるようにサポートすることも大切なんだと思います。
そういう苦労と成長を桃井にはしてもらいながら、若くして訪看をやる大変さと良さの両方を描けたらと思っていました。

「怪異」が見える不思議な力は、意外とリアル?
―主人公の桃井には利用者とその家族の不安や異変が家の「怪異」として見えるという不思議な能力がありますが、どうしてこの設定に?
在宅医療の患者さんが抱える課題って、病棟より見えにくいものが多い気がしたんです。内面的なものだったり、家族との関係性だったり。
けどそれが家の雰囲気に現れるってことは実際にもあると思うんですよ。別にスピリチュアルな話ではなくて(笑)
なんか空気悪いなとか、この家みんな元気ないなとかいう空気感を観察とか経験に基づく勘で感じ取って、それを解消していくのは訪問看護師が行っている仕事の1つだと思うんです。それを読者にも分かりやすく伝えたいな、と。
―あと、師長さんの「訪問看護師ってちょっと探偵みたいだなって、ときどき思うのよ」というセリフが印象的でした。
家の中って外からは見えないプライベートな空間じゃないですか。その中に入っていって限られた情報と時間の中で、利用者さんやご家族の課題を見つけださないといけない。
しかもプライベートな空間であるが故に、利用者さんやご家族が本当のことを言わなかったり、無意識に見栄を張って良いように言ってしまったりすることもあるらしいんですよね。
それに看護師が気づいて、より良い生活になるようにサポートしないといけないので、利用者さんたちが言葉にしない何かをキャッチする力が試されるんだと思います。
実際にやっていることは観察とアセスメントなんだと思うんですが、それって少し推理に似ているのかなって。

作品に込めた思い ―人生と向き合う仕事に誇りを
―今作『桃井ナースがお邪魔します』を読んで、訪問看護師は患者・利用者だけでなく、その家族の人生も守っているということを改めて感じました。
親や配偶者に介護が必要になったとき、「自分が介護して当たり前」という責任を感じられる方がまだ多いと思うんです。それを誰かに頼むことは「見捨てること」みたいな空気感が。
家族がより深く関わり合うことでさらに絆が深まって、お互いが満たされる場合は全然いいんです。だけどそうじゃないケースもやっぱりあるんですよね。負担が大きくなりすぎるともともと良かった関係が壊れていってしまったり、疲れちゃって優しくできなくなっちゃたりとか。
だからそんなとき、小説の中でも描いたように「私たちにお任せください」「自分の暮らしを守ってください」ということを看護師に言ってもらえることはすごく心強いことだと思うんです。
高齢化社会が加速して在宅医療の支援が求められている中で、訪問看護師はとても重要な存在で、患者さんと利用者さんの人生にしっかり向き合って日々働かれていることを誇りに思ってくれたらと思って書いていました。
逆に、ご家族の介護を担っている読者には、「もっと専門家を頼っていい」ということが伝わればと思っています。
―桃井(主人公)がときに悩みながらも、仕事を楽しんでいる姿に励まされる現役の看護師さんも多いのではないかと思います。
看護師として働いていたことを振り返ると、本当に大変だったし、辛いこともいっぱいありました。
けど人と深く関わり合うことで得られる喜びとか、看護師の仕事でしか感じられない楽しさは確かにあったんですよね。私の場合は、桃井(主人公)と同じで本当に職場の仲間に恵まれていて、大変なときは周りの人にたくさん支えてもらえたことも大きかったです。
だから若手の看護師には、悩んでいるときは1人で抱え込まず、桃井のように同僚とか先輩にどんどん悩みを吐き出してほしいって伝えたいです。そうしたら、「人生」と向き合う看護の仕事をきっと今よりもっと楽しく感じられるんじゃないかなって。
もし相談しづらい環境なら、思い切って職場を変える選択もしていいんだと思います。この本をきっかけに、看護師の仕事により前向きに取り組めるようになったという方がいたらとても嬉しいです。

抽選で5名様に『桃井ナースがお邪魔します』をプレゼント!
看護roo!をご覧いただいている看護師のみなさまの中から抽選で5名の方に、この記事で紹介しました秋谷りんこさんの新作『桃井ナースがお邪魔します』(朝日文庫)をプレゼントいたします!
<キャンペーン応募受付期間>
2025年11月11日(火)~11月20日(木)23:59まで
<当選発表・賞品発送時期>
・当選発表は、厳正なる抽選のうえ、賞品の発送をもって代えさせていただきます。
・賞品の発送は、11月下旬~12月上旬を予定しています。
※都合により、賞品の発送が多少遅れる場合がございます。あらかじめご了承ください。
取材・文・撮影/看護roo!編集部 北井寛人
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