「看護にもっと説得力を」反省からの出発は、全体を導くコーディネーションへ

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「看護にもっと説得力を」反省からの出発は、全体を導くコーディネーションへ|がん看護専門看護師

 

Profile

がん看護専門看護師

柏木 夕香(かしわぎ・ゆうか)さん

新潟県立がんセンター新潟病院 緩和ケアセンター

▼2005年度、聖路加国際大学大学院 看護学研究科 博士前期課程 修了

▼2007年度~、がん看護専門看護師

 

専門看護師13分野の中で最も人数が多いがん看護専門看護師は、全国のがん診療の現場で活躍しています。

※2021年4月現在、937人

 

2007年に専門看護師資格を取得した柏木夕香さんは、新潟県立がんセンター新潟病院に勤務、県内のがん診療の拠点で10数年にわたり、高度なケア実践や後進の育成に携わっています。

 

 

「したい看護」を押し通して残った思いは…

柏木さんは、がん看護専門看護師を目指した理由を「自分の看護にもっと説得力を持ちたかったから」だと話します。

 

そのきっかけは看護師3年目、24歳で「ものすごく大きな反省を経験したんです」

 

当時の所属は、県立がんセンターの耳鼻咽喉科病棟。咽頭がんなど、病状の進行により発話が困難になる患者さんも少なくありません。

 

「それでも丁寧にコミュニケーションを取るべき!」と、柏木さんは、筆談でやり取りしながらのケアにこだわっていたそう。

 

しかし一方で、時間のかかるそのやり方が、必ずしも他スタッフに受け入れられていない空気も感じていました。

 

病院のベッドサイドで患者さんと話す柏木さんの写真

がん看護専門看護師として活躍する柏木さん

 

 

そんな中で受け持った、頸部リンパ節にがん転移のある男性患者さん。本人は、口から食べたいという思いが強かったものの、スタッフ間では「感染や出血のリスクを考えると難しいね」という流れに――

 

「だけど、余命も限られている中で、私はどうしても実現させたくて。主治医から直接許可を取ってきて、経口摂取で押し通したんです

 

結果、患者さんは「口から食事を摂れる最期の日々」を叶えられましたが、柏木さんに残ったのは「本当にこれが良い看護だった?」という思い

 

「看護師みんなが一丸となって患者さんを支えよう!…とはならないですよね、これじゃ。

 

納得できないまま食事介助をするスタッフ側のモヤモヤは、きっと患者さんにも伝わっていたはずで……。

 

患者さんのための看護は、一人ではできない。私は、周囲を説得できないまま『自分のしたい看護』にだけこだわってしまったんだなあと。もう、すごく反省しました

 

看護チームのカンファレンス風景の写真

専門看護師を目指した出発点には自身の看護への「反省」があったと話す柏木さん(右から3人目)

 

 

医師と患者さんの間のジレンマを解きほぐす

この苦い経験で得た「ケアを俯瞰することの大切さ」は、患者さん・ご家族・医療者のコンフリクト(対立)を回避しながら全体をより良いケアに導く、専門看護師としての現在へとつながっています。

 

活動の一つが、専門看護師や認定看護師による「がん看護外来」調整・倫理調整の力が特に求められる場面です。

 

AとBの2つの治療方法を医師に示されたけど選べない。

先の見通しが立たない中で、このまま治療を続けることに迷いがある。

主治医は治療を頑張ろうと言ってくれるけど、本当は副作用がつらい。

 

医師には言えなかった患者さんの相談に数多く対応し、調整してきた柏木さんは「でも、医師と患者さんの『対立』って多いとは思わないんですよ」と静かに指摘します。

 

「医師も患者さんのために一生懸命だし、患者さんもそんな医師を信頼している。お互いが気遣い合っている分、ふと噛み合わなくなったときに、かえって言いにくいこと、伝わらないことが生まれる――

 

むしろこういうケースの方が、がん診療の現場では多いのかなと感じています」

 

と話し、こう続けます。

 

そんなジレンマを解きほぐすのも、専門看護師の調整力だと思うんです

 

看護外来の入り口で、担当する「がんよろず相談」のパンフレットを持つ柏木さんの写真

 

 

そう話す柏木さんが大切にしているのは、当事者たちの関係に自身の存在が入り込みすぎないように、「できるだけ患者さんが自分で医師に言える形を、患者さんと一緒に探す」というスタンス。

 

患者さんがなんとなくで想像していた「医師の考え」を修正したり、医師に伝えたい生活の困りごとを整理したりしながら「自分で言える形」を患者さんと見つけていくと同時に、医師に対しても治療方針に対する考えや思いを確認していきます。

 

「すると、患者さんも医師も『今なら向き合えそう』という状況が来るんです。時には、私も診察に同席して、患者さんの背中を文字通りポンと押すこともあります。今ですよ、言って大丈夫ですよって」

 

そうして背中を押された患者さんが涙ぐみながら伝えた思いを、医師も「そんなに頑張らせてしまっていたんですね」とまっすぐ受け止めてくれた……と、過去にあったケースを話しながら、柏木さんは、ふっと頬を緩めます。

 

「お互いに希望や考えを話し合えるようになって、2人は、それまで以上に良い関係を築けたようでした。患者さんもスッキリ落ち着いて治療に向き合えて、主治医の先生も進めやすそうで……ふふふ、うれしいですよね」

 

 

専門看護師はスーパーマンじゃない

専門看護師として14年目を迎えた今、柏木さんは「専門看護師は、何でもしてくれるスーパーマンじゃない」とあらためて考えています。

 

各病棟のナースから「患者さんのアセスメントができない」「ケアに自信が持てない」とヘルプが来れば駆けつけて、どこに問題点があるかを探り当てます。

 

が、「その先もすべて自分でやることはしません」と柏木さん。

 

担うのは、コンサルテーション(相談)役としての関わりです。

 

患者さんの病状がどう進んでいくかという専門看護師としての判断は共有しつつ、「こんなふうに患者さんに聞いてみたら?」「この情報が必要じゃないかな?」といった実践的なやり取りを通じて、担当のナースの気づきやアセスメントを引き出すようにしています

 

がん患者さんのケアについて病棟ナースと意見を交わす柏木さんの写真

がん看護専門看護師の高度な知識や判断力を共有し、病棟ナースたちをサポートする

 

 

柏木さんが怖いと思っているのは、「専門看護師の言うことだからと、『それは違う』と誰も言えなくなる」こと。

 

そこには、一人で突き進んでしまった、若い頃のあの苦い思い出もあるのかもしれません。

 

「専門看護師にも不得意なこと、すぐに力になれないこともありますよね。

 

でも、どうやったら答えにたどり着けるか、そのやり方を専門看護師は伝えられます

 

専門看護師は常に具体的な答えを与えてくれる人、ではなくて、一緒に道筋を考えてくれる人であるのが大切なんじゃないかなって思うんです」

 

 

※記事中の写真は一部、新型コロナウイルス感染症の拡大前に撮影したものをお借りしています。

 

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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