うつ病/躁うつ病|一般病棟でもよく出会う精神疾患・症状の基礎と対応のヒント

『エキスパートナース』2014年10月号<精神症状への対応>より抜粋。
一般病棟でもよく出会う精神疾患のひとつ、うつ・躁うつ病について、基礎知識と現れやすい症状への対応をまとめました。
治療の場での精神症状へのかかわり方』で解説した基本的なかかわり方を、実際に現場で、どのような言葉かけで生かしていけばいいのかを紹介します。

 

宮内倫也
可知記念病院精神科

 

〈目次〉

 

うつ病・躁うつ病の基礎知識

うつ病

うつ病や躁うつ病(双極性障害)の患者さんは“後悔”にがんじがらめになっています。

 

抑うつそのものは、疲れた神経を休めるための防衛反応ですが、思考が“後悔”にとらわれて身動きできなくなっているのがうつ病の状態です。

 

症状としては、何ごとにもおっくうになり、趣味も楽しく思えません。疲れやすくなり、食事もおいしく感じなくなります。頭が回らなくて考えることがつらくなり、眠りも難しく、果ては「いっそのこと消えてしまいたい……」とさえ思ってしまいます。

 

イライラや攻撃性を伴うことも多く、それが患者さん自身に向かうときもあれば(自責)、医療者に向かうときもあります(他責)。それらが“後悔”に絡めとられた舞台で繰り広げられ「取り返しがつかない」という表現になります。

 

躁・軽躁

躁や軽躁は、逆に気が大きくなって、自信をもって物事をズバッと言ったり行動したり。すべてにおいて抑制のタガが外れ、苦しい状況の中で一転して攻勢をかけて、中央突破を図ろうとする反応とも言えます。“後悔”によって「何とか取り返そう、埋め合わせをしよう」というとらわれが生じます。しかしそれにはかなりのエネルギーを使うため、躁や軽躁のあとには抑うつになることが多いのです。

 

ただ、特に軽躁というのは聞き出しにくく、うつ病として治療されていることも多いです。入院中にやたらと多弁になったり、「寝なくても大丈夫」と言って夜中に行動していたりというのが出てきたら躁うつ病を疑いますし、抗うつ薬による治療中にこうなってきたら、躁に転じたということで“躁転”したと言います。

 

うつ病・躁うつ病の薬剤治療の進み方

抑うつだけのうつ病と、躁や軽躁もある躁うつ病。これらの薬剤治療は異なります。

 

うつ病には抗うつ薬を用い、躁うつ病には気分安定薬を主に用います。

 

抗うつ薬の副作用で主要なものは嘔吐や便秘などの消化器症状めまいふらつきで、投与後1週間以内に軽快することが多いです。

 

投与後24時間以内に生じうるものとして、セロトニン症候群があります。これは興奮・ミオクローヌス・高熱・頻脈など、精神や神経系の暴走のような症状を示します。

 

うつ病・躁うつ病の経過観察とアセスメントのポイント

特に入院中だと、活動範囲が狭まる、好きな食事メニューも残してしまう、いつも読んでいる新聞や本を読まなくなった、夜中もお布団の中でもぞもぞしている、話をしていても動きや感情がゆっくりになっている、逆に落ち着かない感じがあるなどが観察ポイントになります。

 

そういった観察ポイントで当てはまるところがあれば、しっかりと患者さんに聞きましょう。「最近、新聞を読んでないですね。どうかされました?」など、心配して気にかけている姿勢を出します。このことで患者さんは「きちんと看てくれているんだ」と思ってくれるかもしれません。やはり入院中は孤立ぎみになることが多いため、そこは医療者の細やかな気づきが大切になってきます。

 

うつ病・躁うつ病の対応のポイント

精神症状への対応の原則は前回で示したように“認証”です。抑うつだと、患者さんが話す自分なりの抑うつの理由をしっかりと受け止めて「そういう事情があったんですね。それなら気分が落ち込むのも無理はないと思います」と返します。

 

そして「でも、1人で抱え込み過ぎるとこころが張り裂けてしまうかも。そうなる前に、私たちに話してみてください。あなただけで抱える必要はないですから」というふうに、こころの重荷をこっちにも分けてもらうようにお話ししましょう。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:自殺の可能性があるとき

“TALKの原則”に沿って話を聞こう

プロの精神科医でも救えないことがあります。

 

身体疾患を抱えて入院しているということ自体がすでにリスクで、あとのポイントは表1のようなものが挙げられます。

 

表1希死念慮のある患者さんに起こりがちな変化

希死念慮のある患者さんに起こりがちな変化

 

「こころがつらい状況にあると、患者さんの中には“いっそのこと……”と思う人もいますが、あなたはどうでしょうか」と、抑うつの患者さん全員に可能性を聞くべきです。ためらわれるかもしれませんが、医療者が逃げずにしっかりかかわるという姿勢を見せます。

 

話を聞くときは、希死念慮に対して使う“TALKの原則”(図1)に沿うとよいでしょう。

 

図1TALKの原則

TALKの原則

 

徹底した聞き役になることで、患者さんの“つらさ”を抱える

希死念慮がある場合、具体的な方法を考えているかも聞きます(手段、用意など)。

 

もっとも大事なのは、患者さんとの間に「あなたは孤立していないんだよ」という空気をもたらすこと。“徹底した聞き役”は意外と難しく、こっちのあせりもあって助言をしたくなりますが、ぐっとがまん。聞き役にかけた時間は報われるものです。

 

そして「死にたい、と思うくらいつらいんですね」と、焦点を“つらさ”に当ててみます。死にたいという気持ちは否定するものではなく、患者さんの大事な感情として医療者も認めます。

 

そして、自殺という切り出しづらいことを話してくれたことに礼を述べます。「話しづらい内容だったと思います。でも、よく話してくれました。感謝します」と。最後に「また必ずうかがいますね」と言って病室を去りましょう。

 

内心ドキドキしていてもまったくかまわないので、表面上はゆっくりと言葉を伝えます。もちろんスタッフ間で情報を共有し、患者さんの了解を得て精神科コンサルトをするべきです

 

ここが大切!

  • 逃げずにしっかりかかわる姿勢が大事。
  • “TALKの原則”に沿って徹底した聞き役になり、患者さんのつらさを認めましょう。

 

(illustration:江田 ななえ)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.83~「治療の場での精神症状へのかかわり方」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年10月号/ 照林社

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