手術室から病室へ戻る際、吸入用の酸素ボンベの残量が少なく、手術室のボンベを使ったら液化炭酸ガスのボンベだった!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、手術室から病室へ戻る際、吸入用の酸素ボンベの残量が少なく、手術室のボンベを使ったら液化炭酸ガスのボンベだった場合について解説します。

山本 昌弘

尾道市立総合医療センター 尾道市立市民病院看護部
集中ケア認定看護師

 

 

 

患者が手術室から病室へ戻る際、吸入用の酸素ボンベの残量が少なく、手術室のボンベを使ったら液化炭酸ガスのボンベで焦っている看護師のイラスト

 

ピンチを切り抜ける鉄則

高濃度の炭酸ガスを吸入すると、数分で意識消失し、急速に呼吸停止を経て死に至る可能性があります。
呼吸状態を中心に患者さんの状態を迅速かつ正確に観察を行うと同時に、ACLSを行える体制を整えることが重要です。

 

POINT
  • 液化炭酸ガスを吸入すると、急性二酸化炭素中毒を引き起こし、短時間で呼吸停止から心停止に至る危険性があります。
    医療用ガスボンベを使用する際には、必ずガス名を「医薬品ラベル」で確認することが必要です。

 

 

起こった状況

症例

十二指腸潰瘍穿孔による汎発性腹膜炎のため、緊急手術となった患者Aさん。
手術後、病棟看護師が酸素ボンベを持参し、手術室にAさんを迎えに行ったが、持参の酸素ボンベの残量が少なかった。

 

急遽、手術室にあったボンベを借り、酸素マスクに取り付けた。
手術室から病室に帰室したとき、Aさんは意識消失していた。

 

酸素マスクに取り付けたボンベを確認すると、液化炭酸ガスのボンベだった。

 

 

どうしてそうなった?

高濃度の二酸化炭素を吸入すると、急性二酸化炭素中毒を発症します。
急性二酸化炭素中毒は、吸入する二酸化炭素濃度により、さまざまな症状が生じます。

 

吸入する二酸化炭素濃度が10%以上では、数分以内に意識消失し、放置すれば呼吸停止を経て心停止に至ります(表1)。

 

表1吸気中の二酸化炭素濃度と症状

吸気中の二酸化炭素濃度と症状を表した表

 

 

どう切り抜ける?

1 純酸素投与に切り替える

私たちの生体は、生きていくために必要なエネルギーを作り出すときに、二酸化炭素を常に作り出しています。
作り出された二酸化炭素は、血液中に排出され血液循環により、右心房・右心室を経て肺に戻ります。

 

排出された二酸化炭素は肺胞-毛細血管でガス交換を行っています。

 

血管(静脈)の二酸化炭素分圧は平均45mmHgであり、肺胞内の二酸化炭素分圧は平均40mmHgのため、拡散により体外に排出されます。

 

しかし、純度99.5%以上の液化炭酸ガスを吸入することで、生理的な吸気の約3千倍も炭酸ガスを吸ってしまうと、呼気中に二酸化炭素を排出できないばかりか、肺胞から血液にたえず二酸化炭素が拡散してしまいます。

 

そのため、純酸素投与への切り替えが必要です。

 

2 ABCDEアプローチと呼吸器のフィジカルアセスメント

患者Aさんが生命の危機的状態にあるか否かを迅速に観察するときには、ABCDEアプローチを用いるとよいでしょう。
ABCDEを系統立てて観察することで、迅速かつ正確に観察でき、重篤な症状の見逃しなどを防ぐことができます。

 

また、急性二酸化炭素中毒では、呼吸状態を中心に異常を来します。
まずは、呼吸の速さ・深さを瞬時に観察することが大切です。

 

特に重篤な状態のときには、正確な呼吸数よりも、大まかな速い・普通・遅い「呼吸の速さ」、浅い・普通・深い「呼吸の深さ」を把握することが重要です。
 

さらに、呼吸困難を呈しているときには、まず発声を確認し、胸鎖乳突筋や斜角筋などの呼吸補助筋と胸骨窩を観察します。

 

これらに異常が見られるときには、これから危険な状態に陥る可能性があるため、注意深く観察を継続する必要があります(表2)。

 

表2ABCDEアプローチにおける観察項目

ABCDEアプローチにおける観察項目

 

3 気管挿管と人工呼吸管理の準備

高濃度の二酸化炭素には麻酔作用があり、呼吸中枢が抑制されるため呼吸抑制が起こります。

また、高濃度の二酸化炭素がたえず送られてくるため、肺から取り込まれた二酸化炭素が血液に溶け込んでいきます。

 

そのため、血液の緩衝作用が破綻して急激にアシデミア(酸血症)となります。

 

アシデミアになると、心臓をはじめとして各種臓器や細胞の機能異常から循環不全に陥ったり、致死的不整脈の発症や中枢神経障害に伴う昏睡、呼吸停止などに至る可能性があります。

 

患者さんの観察を継続するとともに、医師への連絡や救急カートの準備を行い、迅速にACLSを行える体制を整える必要があります。

 

 

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引用・参考文献 閉じる

1) 高橋正好:二酸化炭素と人体.安全工学 1998;37(5):352-357.

2) 佐藤暢,飯野守男:二酸化炭素中毒について.麻酔・集中治療とテクノロジー 2022;1:99-106.

3) 内藤裕史:二酸化炭素.中毒百科-事例・病態・治療-.南江堂,東京,1992:123.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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