点滴・輸液の考え方
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「点滴・輸液の考え方」について解説します。
菊池 健太
市立青梅総合医療センター 診療看護師
- 輸液療法の適応は、①体液欠乏、電解質異常の補正、②経口摂取の代用に分けられる。
- 体内のどのコンパートメントにどの程度分布する輸液なのかを意識する。
- 患者に投与されている輸液が適切かは水分量、電解質、糖質などから判断する。
なぜ輸液が必要なのか
患者へ輸液を投与する前に考えなくてはいけないことは、その患者に輸液の適応があるのか、そして患者の状態がどうなれば輸液を終了することができるのかである。
輸液療法の適応は、①体液欠乏や電解質異常がある場合にそれらを補正するための輸液、②経口摂取の代わりとして体液バランスを維持するための輸液に大きく分けられる。
①の場合は脱水などの循環血漿量・電解質バランスの是正が、②の場合は十分な経口摂取が可能になることが輸液療法のゴールとなる。
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体液のコンパートメント
輸液療法の適応がある場合は、患者それぞれのゴールに向けて輸液を行うが、実際にどんな輸液製剤をどの程度の量、投与すべきかを考慮するためには体液が体内でどのように分布しているかを知る必要がある。
体液コンパートメントを以下に示す(図1)。
図1体液コンパートメント

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輸液の分布
現在、臨床で使われている輸液には多くの種類があるが、それらはいくつかの分類に大別できる。ここでは細胞外液、自由水、開始液(1号液)、維持液(3号液)について前述の体液コンパートメントを踏まえて説明する。
細胞外液
細胞外液には生理食塩水や乳酸リンゲル、酢酸リンゲル、重炭酸リンゲルが含まれる。
これらの輸液は文字どおり細胞外液にのみ分布する。具体的には間質と血管内に3:1の割合で分布することになる(図2)。
図2生理食塩水の分布

自由水
自由水とは5%ブドウ糖液のことである。これは細胞外、細胞内に均等に分布する。
すなわち、細胞内:間質:血管内=8:3:1 に分布する(図1参照)。
開始液
開始液は細胞外液と自由水が1:1で合わさったような特徴をもつ輸液である。これらの輸液はKが含まれておらず、高カリウム血症の可能性がある患者に対してもルート確保直後の輸液として使用できることから開始液とよばれている。
開始液の体内での分布は、細胞外液成分が間質:血管内=3:1、自由水成分が細胞内:間質:血管内=8:3:1に分布することになるため、それらを併せると細胞内:間質:血管内=4:3:1という分布になる(図3)。
図3開始液の分布

維持液
維持液は細胞外液と自由水が1:3で合わさったような特徴をもつ輸液である。これらの輸液は合計2000mL投与することで、成人が1日に必要とする、水分量や電解質量を補えるという特徴から維持液とよばれている。
維持液の体内での分布は細胞外液成分が間質:血管内=3:1、自由水成分が細胞内:間質:血管内=8:3:1 に分布したうえで、それらが 1:3の割合で配合されていることを踏まえると、細胞内:間質:血管内=6:3:1 で分布する(図4)。
図4維持液の分布

適切な輸液の選択と組み合わせ
患者の病態や現在の身体状況に応じて、適切な輸液を選択し、組み合わせる必要がある。すなわち脱水や出血など急性期の循環血漿量減少が想定される場合は細胞外液を中心に輸液を投与し、急性期を脱し、1日の水分量や電解質を保つ必要がある場合には維持液を中心に輸液を投与するのである。
慢性腎臓病のある患者や外傷患者、代謝性アシドーシスをきたしている患者など高K血症がある、もしくは高K血症の可能性が高い患者の場合は開始液を用いることが多く、うっ血性心不全など血管内に多くの水分を投与したくないが、その他の薬剤を点滴投与するためにルートの確保をしておきたい場合などは自由水として5%ブドウ糖液を緩徐に持続投与することがある。
この場合、糖尿病を合併している患者の場合は高血糖のリスクがあるため、投与速度や量に注意する必要があり、必要に応じてインスリンの持続静注を併用することがある。
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輸液の組成(量や種類)の決定
実際に患者に投与する輸液の組成(量や種類)はどのようにして決定するのか。そのためにはその患者の血行動態、体格など多くの要素を考慮する必要がある。
臨床ではそれに加えて、患者の病態に合わせた要素を考慮する必要があるが、本項では発熱や周術期など侵襲の強い病態・状況や、心機能低下、腎機能低下などの水分、電解質補正に注意が必要な病態を考慮せず、よりシンプルな考え方で記述していく。
輸液の組成を決定するうえで考えるべき要素は、維持輸液量、維持電解質量(Na、K)、維持ブドウ糖量である。1人の患者が1日に必要とする輸液量を維持輸液量とする。維持輸液量は以下の要素がかかわっている。
維持輸液量=尿+便+不感蒸泄-代謝水
それぞれの項目は一般的に以下のように考える。
・尿:0.5~1.0mL/kg/hr
・便:150~200mL
・不感蒸泄(呼気、皮膚の表面から蒸発する水):15mL/kg/日(平熱時の場合。体温が1℃上昇すると15%増加する)
・代謝水(ブドウ糖の代謝により体内で発生する水):250~300mL
参考例:体重50kgの場合、1日の尿量が600~1200mL、便が150mL、不感蒸泄750mL、代謝水300mLであるため、
600~1200+150+750-300=1200~1800mL
が必要ということになる。体重当たりで考えると1日の維持輸液量は30±5mL/kgと考えることができる。
維持電解質量は以下のように考える。
・Na:60~100mEq(約2mEq/kg)
・K:40~60mEq(約1mEq/kg)
維持ブドウ糖量は100g/日といわれている。これは脳がエネルギー源として使用する最低限の量であり、100g/日を下回るとタンパク異化が進行し、ケトーシスをきたす可能性がある。これらを加味したうえで患者に必要な輸液製剤の種類や量を選択することになる。
本邦で頻用される輸液製剤はそのほとんどが500mLボトルであるため、500mLずつ輸液を増減するのが基本になる。表1に各輸液製剤に含まれる、電解質やブドウ糖量を示す。例として維持液を2000mL/日で投与した場合を考えると、維持に必要な水分量や電解質、ブドウ糖などがほぼ達成されることがわかる。
臨床においては患者は発熱など身体へ大きな負担がかかっていたり、高齢者などではさまざまな臓器障害(心機能・肝機能・腎機能障害など)や生活習慣病(糖尿病、高血圧症、脂質異常症など)を合併しているケースもあるため、表1の輸液をそれぞれ組み合わせながら1日分の輸液組成を考えたり、表1に含まれないが、アミノ酸を含有した製剤や、脂質を多く含有した製剤、高カロリー輸液とよばれる経口摂取の代用となるだけの十分なカロリーを中心静脈から投与する製剤を使用することもある。
さまざまな輸液製剤の組成やその役割の違いを理解することで、患者に現在投与されている輸液が適切かどうかの判断ができる。看護師も輸液の知識を手に入れることで患者治療に積極的に参加し、治療に伴う患者の変化を予測したうえで看護展開することが求められている。
表1各輸液製剤の組成例

1 )藤井俊吾,伊藤孝史:輸液教育のポイント,内科120巻,1号,p.19~22
2 )池田行彦,孫楽ほか:内科レジデントの鉄則,森信好責任編集,第3版,医学書院,2018,p.240~248
3 )飯野靖彦:輸液・栄養読本[水・電解質輸液編],第8版,株式会社大塚製薬工場 ,,2020,p.7-11
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版


