経皮的冠動脈インターベンション
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「経皮的冠動脈インターベンション」について解説します。
光野謙一
市立青梅総合医療センター 看護主任
鈴木麻美
市立青梅総合医療センター 循環器内科副部長
- カテーテル治療がスムーズに行えるよう準備する。
- カテーテル治療の流れや合併症が理解できる。
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)とは
ST上昇型心筋梗塞の場合、梗塞範囲を少しでも小さくするため、できるだけ迅速に経皮的冠動脈インターベンション(PCI:percutaneous coronary intervention)による再灌流療法を行うことが求められる。
病院到着からPCIによる冠状動脈拡張まで90分以内(door to balloon time)の施行が推奨され、本項では迅速かつ安全に治療が行われるよう一連の流れを説明する。
PCIの目的
動脈硬化などにより狭窄もしくは閉塞した心臓の冠動脈をバルーンやステントによって拡張し、血流の改善を図る。
PCIの適応
労作性狭心症、不安定狭心症、急性心筋梗塞などが適応となる。
救急外来での対応
手順
1テープ式おむつへ履き替え、弾性ストッキングの着用、検査着に着替える。
2除毛する(橈骨動脈穿刺、大腿動脈穿刺ともに左右除毛)。
3マーキングをする(橈骨動脈・上腕動脈穿刺の場合は橈骨動脈、鼠径穿刺の場合は足背動脈に油性ペンでマーキング、表1参照)。
表1カテーテルアプローチ部位

4点滴は穿刺部位と反対側に留置する(延長チューブ75cm2本、三方活栓2個、輸液ポンプ用ルート)
5膀胱留置カテーテルを挿入する。
留意点:橈骨穿刺できない場合、鼠径穿刺となるためカテーテルは固定しない。
6アスピリン(バイアスピリン)100mgを2錠、20mgプラスグレル(エフィエント)1錠服用、ヘパリン3000単位静脈注射、セファゾリン1gバッグを投与しながらストレッチャーでカテーテル検査室へ移動する。
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PCIの準備
検査前の確認事項
- 承諾書、アレルギー・感染症や喘息の有無
- 糖尿病薬服用の有無(ビグアナイド系)
- 抗血栓薬の内服状況の確認
- ヘパリン静脈注射時間の確認
- 穿刺部位の確認
必要物品・薬剤準備
必要物品
- アンギオセット 多目的(トレイ大・小、カップ大・小、ガーゼ10枚、10mLシリンジ、5mLシリンジ、18G針、26G針、綿球、鉗子、ドレープ、ガウン)
- 20mLシリンジ(3本)、ロック付き10mLシリンジ(1本)、攝子(1個)、吸水マット(1枚)、滅菌テープ(1枚)
- 穿刺が鼠径部の場合は、22G針(1本) 、オムツ(1枚)、 局部カバー(1枚)、 吸水シート(1~2枚)を追加する。
- 体外ペースメーキング術を施行する場合には、5mLシリンジ(1本)、2.5mLシリンジ(3本)、 三活キャップ(1個)、23G針(1本)、滅菌カップ(1個)、穴あき滅菌ドレープ(大1枚)、滅菌透明フィルム被覆材(テガダーム®、大1枚)、粘着性弾力包帯(エラテックス S®、1枚)を追加する。
薬剤準備
- 生理食塩液(大塚生食注ソフトバッグ®)500mL+ヘパリンナトリウム注N®3000単位
- 生理食塩液(大塚生食注広口開栓®)500mL+ヘパリンナトリウム注N®3000単位(以下ヘパリン生食とする)
- ヘパリン(1)、ポビドンヨード、ハイポアルコール、キシロカイン®注 シリンジ1%(1)、ニトロール®注5mgシリンジ(1)
留意点:写真1、非イオン性尿路血管造影剤(イオパミドール370注100mL)
写真1類似薬品があるため準備に注意が必要

受け入れ準備
手順
1施設ごとに必要な書類(TRバンドエア抜き・バイタルサインチェック表、コスト台用紙など)を準備する。
2ベッドにバスタオル(白)を敷き、その上に防水シートを敷く(写真2)。
写真2ベッドの準備

3患者の右側にワゴンを設置する。ワゴンの上にアンギオセットを清潔操作で開く(写真3)。
4シリンジ、針は小トレイの中に出しておく(写真3)。
5大カップにヘパリン生食を入れる。残りのヘパリン生食は大トレイの中に少量注いでおく。
6小カップに1%キシロカイン®を入れる(写真3)。
写真3物品の準備

7攝子で綿球カップを取り出し、ベッドの足元に攝子と一緒に置いておく。綿球カップにはポビドンヨードを入れておく(写真4-a)。
留意点:PCIへ移行したら吸水シート、滅菌テープをトレイの中に入れる(写真4-b)。
写真4-a綿球の準備

写真4-b給水シート、滅菌テープの準備

8ヘパリン生食、造影剤をスクリーン左側に吊るしておく(写真5)。
写真5造影剤の準備

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PCIの実際
PCIの手順
1患者を検査台に移動し手台を入れる。穿刺部位(上肢・殿部下)に吸水シートを敷く(写真6)。
写真6検査台の準備

2点滴の速度を確認し、流量・流速を設定する。
3心電図モニターを装着し、血圧計、SpO2モニターを穿刺部位と反対に装着する。
留意点:透析患者の場合、シャント部位を必ず確認する。
4救急外来看護師より申し送りを受け、PHS を家族へ渡し検査室前で待機してもらう。
5タイムアウトを実施し病変部位や感染症、アレルギーの有無を確認し、情報共有する。
6穿刺部位を消毒し、ドレープをかける。
7穿刺部位に局所麻酔を行う。
留意点:徐脈を伴う場合、内頸静脈より体外ペースメーキング術を先行する場合がある。
8穿刺後、シースを挿入する。シースとは各種カテーテルを血管内に挿入させるための管で、セルジンガー法で留置させる。
一般的冠動脈造影では4Fr・5Fr、PCIでは6Fr以上が選択される。Fr(フレンチ)÷3がカテーテルの径(mm)になる(例:6Frシースの太さは6÷3=2mm)。シースの色は国際基準で決まっており、4Fr(赤)、5Fr(グレー)、6Fr(緑)、7Fr(オレンジ)、8Fr(青)、9Fr(黒)である。
9診断用カテーテルを挿入する。
10冠動脈造影を行う(ニトロール®は医師からの指示があれば清潔操作で渡す。冠注するときは医師が声をかける)(写真7)。
写真7冠動脈造影画像

11病変部位を確認できたらPCIへ移行する。
12PCI用ガイディングカテーテルを挿入する(穿刺部からの冠動脈の入り口にかけて留置するカテーテルで、病変に合わせてカテーテルの形状やサイズを選択する)。
13医師によりヘパリン5000単位追加投与の指示を受ける(30分~1時間ごとにACT測定を行う。ACT250秒以上を目標に適宜ヘパリンを追加する)。
14病変部にPCI用ガイドワイヤーを通していく(カテーテルを血管内へ挿入するときのガイドとして使用する。バルーンやステントもガイドワイヤーに沿って病変部へ運ぶ。病変により重さや硬さを使い分ける)。
15血栓吸引、バルーン拡張、ステントを留置する(バルーンカテーテルとは狭窄部をバルーンで拡張するためのもので、ステント挿入前後に行われることが多く、膨らみやすさや用途によって種類が分けられる)。
留意点:再灌流による血圧低下や徐脈、致死的不整脈の出現に注意する。
16IVUSでステントの圧着具合を確認する。
17術後採血がある場合は10mLシリンジを医師へ渡す(血算・生化)。
18ワゴンの中にあるガーゼをハイポアルコールに浸す。
19アプローチ部位の止血を行う。
ステントのメリット・デメリット
挿入されるステントには、ベアメタルステント、薬剤溶出ステント、生体吸収ステントがあり、患者の状態や病変の形、場所、動脈硬化の性質などによって選択される。それぞれのステントには、メリットとデメリットがある(表2)。
表2各種ステントのメリット・デメリット

PCIの治療後
1医師へ入院先を確認し、該当病棟へ連絡する。
2家族へ連絡し、治療が終わったことを伝える。
3前室で医師より治療結果について画像を見ながら説明される。
4モニターを装着し、医師と該当病棟へ移動する。
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PCI中に起こりうる合併症
血圧低下
再灌流障害、不整脈、機械的合併症(心破裂、心室中核穿孔、乳頭筋断裂、ポンプ失調)、アナフィラキシー、穿刺部出血などで血圧の低下が起こりえる。補液や強心剤などを使用しながら血圧低下の原因検索を行い、投薬での反応が乏しい場合は IABP/PCPSの使用を検討する。
心室細動・心室性頻拍
持続する場合は心臓マッサージ・電気的除細動・強心剤の投与などの救命措置や人工呼吸器装着を行う場合がある。抗不整脈薬としてはアンカロン®(アミオダロン注150)やリドカインが汎用される。血行動態が破綻している場合はIABP/PCPSを考慮する。
房室ブロック
伝導障害により房室ブロックなどの徐脈性不整脈を呈することがある。多くは一過性であり、必要に応じて体外ペースメーキング術を施行する。
薬剤アレルギー
ヨード系造影剤や局所麻酔薬などの薬剤アレルギーには嘔気・瘙痒感・発疹など軽度なものから、呼吸困難や血圧低下を来たすアナフィラキシーショックまで多彩な症状を来しうる。
アドレナリン筋注、ステロイドや抗ヒスタミン薬などで対応する。
造影遅延
バルーン拡張やステント留置した直後に造影遅延を呈する状態で、不安定プラークに機械的刺激を加えることでプラーク内容物が剥離・破砕されて末梢動脈に塞栓することによる。
ニコランジル(シグマート®)の冠動脈内への注入で改善されることが多いが、血流が回復せず血行動態が維持できない場合はIABPによる補助循環療法を検討する。
心タンポナーデ
ガイドワイヤーの挿入やバルーンの拡張、ステント留置時など手技に伴う場合の他に、壊死した心筋に負荷がかかり心破裂を来たしたときにも起こりうる。
損傷部位をカテーテルで止血修復したり、心嚢ドレーンで貯留した液体を体外に排出させても血行動態が改善しない場合は緊急手術が必要となりうることもある。
1 )松実純也:合併症のアセスメントと対応,齋藤滋監修,徹底図解やさしくわかる心臓カテーテル-検査・治療・看護,照林社,2014,p.92~p.100
2 )田中穣;心臓カテーテル治療,齋藤滋監修,徹底図解やさしくわかる心臓カテーテル-検査・治療・看護,照林社,2014,p.47
3 )山勢博彰:系統看護学別巻,クリティカルケア看護学,東京,医学書院,2020,p.83
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版


